もうひとつの人類のイマ

遠い昔。

神様がこの星にやって来た頃、黄金を集めるために自分そっくりの生き物を創り出しました。


サルと掛け合わせたその生き物はヒトと名付けられ、ヒトは神様に従ってせっせと働きました。


とてもよく働くヒトは、あっという間にたくさんの黄金を集め、神様に献上しました。


これにひどく喜んだ神様はヒトに褒美を与えました。


それは、「文字」でした。


「これを使えば時間が生まれ、知識が滞留して、歴史が生まれる。歴史は誇りを芽吹かせ、光となってお前たちを照らすだろう。」


多くのヒトが喜んで文字を受け取り、こぞって使い始めました。


ですがそんな中、一部の暖かな耳を持ったヒトたちは文字を受け取りませんでした。


神様が不思議に思ってそれを問うと


「私たちは言葉の運ぶ空気で想いを知りたいのです。文字には熱や、早さや、深みがありません。神様、私達には言葉だけで充分ではないでしょうか。」


問われた神様は不機嫌になり


「文字が言葉に劣ると言うならば、歴史が瞬間に勝らないというならば、お前たちは地に足を着けて生きる資格はない!」


神様は暖かな耳を持ったヒトの体を引きちぎり、中身を空に投げてしまいました。


暖かな耳を持ったヒトたちは風に乗り、山を駆け、海を渡り、砂漠で身を休め、草原で踊り、洞窟で唄を歌い、世界を暖めました。


こうしてヒトは二つに分かれ、同じひとつの星に生きているのです。


今も、誰かの暖かな言葉の追い風となり、あなたに言葉を届け続けている。

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