竹藪は熱を持たないか


近くの竹藪を探検した時、そこは異世界であった。

捨てられたバイク、もう販売されていない缶コーヒーの空、落ち葉で出来た不安定な足場。

そしてその中心に井戸があった。


古い井戸で大きな鉄板が被せられている。

井戸に近づくたびにカラスが鳴く。


井戸が怖かったのではない。

井戸の周りに落ちた大量の鳥の羽、死骸が怖かったのだ。


竹藪はすべてを隠す。

時も、物も、命も。


統一された規格で生き残った竹達が風に合わせて抗いもせず踊るから、いったいここがどのへんなのか分からなくなる。


命もきっと同じだ。


同じ命に囲まれて、魂を失ってしまったとたん、風と踊る竹になったのだと知る。

時と共に刈られた友人の名は落ちた笹の葉の下に埋もれ、そこを歩くものを恐怖させる。


竹は育つ、たけのこは育む。


もし安寧を感じ、退屈の麻薬に耐性がついたならば、いっそ根を切って横に倒れてみるといい。

隣にいる竹があなたを支えるだろう。

やがてそれも根を腐らせ倒れるだろう。

雨が降るだろう。

浅い根は土を支えられず、その国は落ちるのだろう。


そうして日の光が当たった井戸の蓋はゆっくりと開くのだろう。


竹を育てたのは冷たい水脈だったのだとついに知る。

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