二幕   鬼現る

 化蜘蛛ばけぐもたおすとおに覚醒状態かくせいじょうたいから、もともどるつばきとあやめ。

「あんまり無茶むちゃすんなよ」

「へへ、ごめんね」

大丈夫だいじょうぶなのか、は?」

「うん、大丈夫だいじょうぶ  

 そですそ使つかい、あやめはかおぬぐう。



  ゴシゴシ フキフキ・・・



「それ駄目だめになっちまったな、あたらしいのに」

「また、うからいいよ」

 普通ふつうにそうこたえるあやめに、すこおもところがあるつばき。

「・・・それにしても流石さすがだな」

「そうでしょ、わたしって・・・えへん!」

ちがちがう、だよ。一万三千いちまんさんぜんだけあって効果覿面こうかてきめんだな」

「そこなの、わたしじゃないの!?」

 偶然ぐうぜんねらどおりなのか、あやめのがつばきのたすけになったのは間違まちがいなかった。だが、あやめをめるのではなく、つばきはめたのだ。



  チカ チカチカッ!



 突然とつぜんに、倉庫内そうこない照明しょうめいともると──



  パンパンッ パンッ パンッ



 ──たたおとがする。



  クル



 つばき、あやめがく。



  ・・・スタ スタ スタ



たいしたものだ、化物同士潰ばけものどうしつぶってくれればよかったんだが・・・そうも上手うまくはいかんようだ」

 そこにあらわれたのは、鬼刀きとう 礼二れいじ



  トコ、トコトコ



 と、かえでもみじ二人ふたりであった。よくるとかえでもみじなわしばられており──

かえでちゃん、もみじちゃん・・・」

 ──あやめは二人ふたり心配しんぱいする。

なんのつもりだ、鬼刀きとう 礼二れいじ?」

相変あいかわらず下品げひんやつだ・・・」

 つばきがうも、まともにこたえない礼二れいじ語気ごきつよめ──

なんのつもりだといている!?」

 ──もう一問いちどとうた。

「さてどうしたものか、そうだな・・・お前達二人まえたちふたりには、ここでんでもらおうとおもってるんだよ」

「ふざけんなっ!」

「ふざけてなどいないさ、つかまっていたかえでもみじたすけにた、つばきとあやめはちからおよばず・・・化蜘蛛ばけぐもにやられる筋書すじがきだ。それに簡単かんたんことだぞ。お前達まえたちは、ただんでくれるだけでいいんだ!」

「そんな面白おもしろみもサプライズもないものなんて、だれないしえんじるつもりもない。それに出来できるのか、お前一人まえひとりで!?」

「ふん、お前達まえたちのうな化物ばけもの・・・わたし相手あいてにするわけがない。さあ、るんだ!」



  ベタ ベタ・・・


  ベタ、ベタベタ・・・



 あらわれたのは病院びょういん入院患者にゅういんかんじゃなのか、病衣びょうい者達ものたちる。

なに、この人達ひとたち・・・」



  ゾロゾロ・・・



 かずをなして十人じゅうにんみなどこか様子ようすへんであった。生気せいきがなくうつろなことに、あやめはあやぶむ。

「これは研究けんきゅう成果せいか。、おにもとつくしたくすり患者かんじゃ投与とうよしたのだよ。するとどうだ!一時的いちじてきであるがかれらも・・・おにの《ちから》をこと出来できる!」

なんことしやがるんだ!」

 ひとをモルモットのようにあつか礼二れいじに、つばきがいかる。

「さあ、お前達まえたち!こいつらを欲望よくぼうのままにきにしていいぞ!」



  ア″ア″ア″ーッ



 おそかる患者達かんじゃたち

「くそっ!」



  ガッ ドン

  ガッ ドサ

  ガ、ガッ ドゴッ ドササ



 つばきは患者かんじゃ峰打みねうちでたおすも──



  ムク

  ムクリ・・・



 ──すぐにがり、またかってる。



  ベタベタ

  ベタ・・・


 

「えいっ!」



  ドスンッ



 素早すばや体術たいじゅつ患者かんじゃ地面じめんたたきつけるあやめだがつかかえされ──

「きゃっ!」



  ドサ



 ──たおされる。



  グガアッ



「あやめ!?」



  ダダッ



「はあああ!」



  ズア



 おにちから解放かいほうし、たすけにかうつばき。

「どきやがれっ!」



  ドガッ



 あやめにみつこうとする患者かんじゃばすと、まだかって患者かんじゃ突進とっしんしてく。



  ダッ ズバア

  

  

 容赦ようしゃなくつばきは、患者かんじゃ一太刀浴ひとたちあびせる。

「ありがと・・・つばきちゃん」



  チャキ



 礼二れいじかたなけ──

「これ以上いじょう本気ほんきゆるさないぞ!」

 ──つばきははなった。

「ふっ、だがおにちから使つかって自我じがたもてるのは、それが限界げんかいであろう。しかし・・・かれらはちがう。せてやるがいい、お前達まえたちおにちからを!」



 一人ひとり患者かんじゃえると──



  ウオオオーー


  ウオオオーー・・・



 ──呼応こおうしてかほか患者達かんじゃたちも、次々つぎつぎはじめる。



  ビリッ ビリビリッ



 病衣びょういやぶり、変異へんいしてゆく患者達かんじゃたちからだ倍近ばいちかくのおおきさに、筋肉きんにくかたまりのようにがり赤黒あかぐろく、まるで本物ほんものおにのようなつのきばがある。その者達ものたちなにかをかんじとったのか、《さき》に仕掛しかけた。



  ダッダダーッ



「はああっ!」



  ガッ



「くそっ!」

 正面しょうめんからりにかるが、傷一きずひとけることが出来できない。ぎゃくかたなつかまれ、こぶしんでくる。



  ブオッ ドゴアッ!



「ぐはあっ!」



  ドザザサッ



「つばきちゃん!?」

 つばきはなぐばされ、かたなてるおにもの患者かんじゃ)。



  ガシャ



「そんなものか?おまえおにちからは?」

なんだと・・・」

 挑発ちょうはつする礼二れいじに、からだこしがるつばき。



  グ、グググ・・・



「そんなにたいか・・・だったらせてやる!」

駄目だめだよ、つばきちゃん!」



  キリ キリキリ・・・



 あやめは、ゆみかまねらう。

「ほう、わたしるというのか?」

「そうです、かえでちゃんともみじちゃんをはなしてください。そして私達わたしたちをここから・・・倉庫そうこからしてもらいます!」

わたし人間にんげんだぞ、そのわたしることが出来できるのか?」

「できます!」

「やめろ、あやめ!」

 つばきはかたなひろい、あやめのほうあゆる。



  スタ スタ・・・



「わかった・・・だが、これならどうするのだ?」



  ドドン ドサッ、ザサッ



 かえでもみじばす礼二れいじ──

おに者達ものたちよ、この二人ふたりらうがいい。ふはははっ!」



  キッ



 ──にらかえかえでもみじ愉悦ゆえつひたる。

かえでもみじ!」



  ダダッ



 つばきがたすけにす。



  ザ、ザザッ



 しかしおに者達ものたちが、はばむ。

邪魔じゃまするな!」



  グガアッ



 おにものが、かえでもみじおそかろうとする。

「おねがいやめて!」



  ビュン



 おにものあしを、あやめはる。



  ビシッ



 だが、筋肉きんにくよろいはじかれてしまう。

「そんな・・・」



  バッ



 そのときかえでもみじまえふさがる。

かえで!?」

 もみじおどろ双子ふたごであっても、あねであるかえでいもうとをかばったのだ。   

 でもこわいのかかえでをつぶり──

「・・・」

 ──必死ひっし我慢がまんする。



  ダダダーッ、ダンッ



おにキーーック!」



  ドガアッ



 何者なにものはして、おにものりをした。

だれだ、貴様きさま!?」



  ♪ズチャーチャチャ

   ズチャーチャチャ 


   ジャララン ジャララン

   ラララン ラララン

   ラララ ラン ラララーー♫



 突如とつじょ倉庫内そうこないきょくながす。

鬼仮面おにかめん!?」

 つばきがさけんだ。

 あらわれたのはマスクをかぶり、両拳りょうこぶし両肘りょうひじ両膝りょうひざにサポーターをけ。そのものうで口上こうじょうべる。



  一つ そこに悪逆無道あくぎゃくむどうするものいるならば   

     われ おにとなりてかわん 


  二つ そのもの よわものつならば われ

     おにちて それをたださん 


  三つ そのもの やいばちて よわもの

     ならば われ おにやいばちて あく



疾風怒濤しっぷうどとう鬼仮面推参おにかめんすいさん!」

鬼仮面おにかめん・・・なんだ?このふざけたやつは!?」



  スタタタッ



 かえでもみじ二人ふたりり、そっとこえける鬼仮面おにかめん

「もう大丈夫だいじょうぶだからね」

 プロレスかいで、今話題いまわだいのダークヒーロー鬼仮面おにかめん真似まねたものだった。

「つばきちゃん、あやめちゃん!たすけにたよ」

桃香ももか!?お前《まえか!?」

 つばきが、すぐにづく。

「ええっ!?なんでわかったの!?」

「わかるにまってんだろっ、そのしゃべりとこえがいつもと一緒いっしょじゃねえかよ!」

「えええっ!?桃香ももかちゃんなの!?」

 その正体しょうたいに、あやめがおどろく。

なんだって、あやめ!おまえわからなかったのか!?」

「だって・・・マスクかぶってるんだもん!」

こえでわかるだろ!」

「せっかくマスクかぶってばれないようにしてたのに・・・」



  ズボオッ



 マスクをぐと、しょげる桃香ももか



   ・・・ショボン



 あと正体しょうたいかして、おどろかそうとかんがえていたのだ。だが、いまなおして、桃香ももかう。

「ここはまかせて!」

なんだ、おまえは!?」

 礼二れいじう。

「つばきちゃんとあやめちゃんの友達ともだちだよ。そんでもってかえでちゃんともみじちゃんの友達ともだちでもあるんだよね」



  ニコォ



 桃香ももかは、かえでもみじわらけた。

ちがうわよね」

 と、もみじ

「そうね」

 と、かえで

「ええ!?ちがうの?」

 友達関係ともだちかんけい否定ひていされ、桃香ももかはショックをける。

友達ともだちだと・・・こんなところにのこのことにたいのか?」

「それはどうかな、わたし名前知なまえしってる?」

なに・・・」

わたし・・・斗鬼とき 桃香ももかわたし名前なまえにも、おにはいってるんだ」

「まさか!?」

「そう、わたしおにちから使つかえるんだよねえ」

「こいつもやれっ!」



  ブン



 おどろくもうでり、礼二れいじおにものまねく。



  ダダ、ダダッ



 おにもの二人ふたり桃香ももかかっておそかってる。

桃香ももか!」

桃香ももかちゃん!」

 かえでもみじまもるため──

二人ふたりともはなれてて」



  ダッ



 ──おにものかって桃香ももか

おにパーンチ!」



  ボガッ



おにキーック!」



  ドガッ



 おそおにものを、また、ぶっばす。

「くそっ、こうなったら・・・」

 かずまさっているものの、形勢けいせい不利ふりかんじた礼二れいじは、なにかをおもいつく。



  スタスタスタッ グイッ



「こっちへるんだ!」

 それはちかくにかえでもみじ人質ひとじちにすることだった。

卑怯者ひきょうもの!」

 そう礼二れいじさげすむも──



  ガッ



「こんの・・・」



  ズバンッ



 ──つばきは、あやめをまもりつつ応戦おうせんするのが手一杯ていっぱい

「あなたは・・・かえでちゃん、もみじちゃんの叔父おじさんでしょ。どうしてそんなことするの!?」

 桃香ももかが、うのだった。

「うるさい、だまれ!お前達まえたち一緒いっしょにするんじゃない。お前達まえたちは・・・保菌者ほきんしゃであって発病者はつびょうしゃなんだ!」

 いきなり礼二れいじは、つばきのようなおにちからものを、病気びょうきだとげる。

 その言葉ことばに、みな戸惑とまどうも── 

何言なにいってんだ!?」

 ──つばきがかえす。

わたし保菌者ほきんしゃであるが、陰性いんせい発病はつびょうはしていないのだよ。ふっ・・・勘違かんちがいしてないか、自分達じぶんたち特別とくべつだとでもおもっているのか、めでたいものだ。元々もともとおにことは、鬼病きびょうとか鬼人病きじんびょうとかわれ。むかしは、狐憑きつねつき・獣返けものかえりなどとばれていたのだ。だからだ・・・発病はつびょうしたなつめを治療ちりょうしていたのに・・・きゅう治療ちりょうめるとってきた・・・なぜだ!?」

「なつめさんを治療ちりょう?」

「あれは検査入院けんさにゅういんじゃなかったのかよ!」

たりまえだ!」

 自分じぶんただしさを雄弁ゆうべんかたる、礼二れいじ油断ゆだんしていた、そのとき



  バビョーーーン



 突然とつぜんとして、かえでもみじ二人ふたり天井高てんじょうたかがった二人ふたり見上みあげる。

化蜘蛛ばけぐも!?」

うそ!?」

 つばきがたおした化蜘蛛ばけぐも天井てんじょうて、いと使つかかえでもみじたすけたのだ。

「やられたのではなかったのか!?」

 礼二れいじおどろきのこえげる。

「そんなへまはしないわ!」



  カツ カツ カツ カツ



 おぼえのあるこえ、その姿すがたに──

「なつめ!?」

「なつめさん!?」

 ──つばきとあやめは驚愕きょうがくするのだった。

ひさしぶりね、つばき、あやめ元気げんきそうね」

 なみだぐむあやめ。

きてたんですね」

「そうか・・・きていたか。なつめもどってい!」

「おことわりします」

「どうしてだ?もどってれば治療ちりょうつづけ、何不自由なにふじゆうなく生活せいかつ出来できる。そうだ、妹達いもうとたち治療ちりょうけさせよう」

「どうして・・・そこまでわたしにしてくれるのです」

まっている、おまえは・・・ねえさんによくている。そのかお、そのからだ・・・」

「はっきりって気持きもわるいです」

気持きもわるい?」

「ええ、そうです。両親りょうしんくなってから、なたはいえにカメラを仕掛しかけて、四六時中しろくじちゅう・・・監視かんししてたでしょう?」

当然とうぜんだ、心配しんぱいしてなにわるい?」

「でも・・・お風呂場ふろばにも、トイレにもカメラを仕掛しかけるなんて、さすがに気持きもわるすぎです」

「うげっ、変態へんたいだったとはな・・・」

 つばきは、ドンきする。

わたし、なつめさんのならたいかも・・・」

 なつめをきすぎて、あやめがそんな事《こ

と》をす。

「あやめ、おまえもか・・・」

「ならカメラはやめよう、どうだ、わたしところかえってい!?」

「・・・結構けっこうです。それにあなたは、もう居場所いばしょがありません」

なに?」

「この二年にねんわたしなにもしなかったとおもいますか?」

「どう意味いみだ?」

会社かいしゃでは、あなたは代表取締だいひょうとりしまやくでも、ほかの役職やくしょくにおいても、すべ会社かいしゃ関係かんけいする権限けんげんはもうありません。これまでの会社かいしゃたいする背任行為はいにんこうい資金しきん私的流用してきりゅうようや、違法いほう開発かいはつしたくすり秘密裏ひみつり人体実験じんたいじっけんおこなっていることを告発こくはつする準備じゅんびととのっています」

わたし裏切うらぎるというのか、こんなにおまえ大切たいせつに・・・あいしているのだぞ!」

迷惑めいわくです」

「それならちからずくにでも、おまえしたがわせてみせる。おにものよ、なつめをらえよ。ほかものは、皆殺みなごろしだ!」



  ダダ



 おにものかいると──



  ヴォン



 ──瞬時しゅんじに、なつめのこんあらわつ。



  ドゴッ ドゴン



 容易たやすおにものたたき伏 《ふ》せるなつめ。

蜘蛛くもさん!」



  ビシュッ



 おにものを、化蜘蛛ばけくもいと天井てんじょうつるげると──



  ・・・スルスル



 ──いと何重なんじゅうにもき、おにものうごきをふうじる化蜘蛛。



  グルグルグル・・・



 つづけておそおにものを、なつめがねじせ、また化蜘蛛ばけぐも天井てんじょうつるす。

「なつめさん、わたしも!あれ使つかっていい!?」

 桃香ももかたずねた。

駄目だめよ、あなたのあれだと、おにもの・・・患者かんじゃさんがたいへんなことになってしまうわ」

「そんなあ・・・」

 桃香ももかも、武器ぶき具現化ぐげんかさせたたかうことが出来できた。だが強力きょうりょくすぎてか、なつめは使用しよう限定げんていさせている。

「しょうがない・・・なつめさん、プロレスわざならいい?」

「まあ、それぐらいならいいわよ」

「よっしゃあ!」

 気合きあいをいさんで、桃香ももかおにものかってく。



  ダダッ ボゴッ ドガン



 なぐたおすと、おにものあしかかえる桃香ももか

「ほいさ!」



  ブウン ブウンッ ブウンッ



 おにものをジャイアントスイングする。

「とりゃあ!」



  ポイッ



 そしていきおいよくほうげた。

「なつめはともかく、桃香ももかはすげえなぁ・・・」

 つばきが苦戦くせんしているなか、なつめや桃香ももかは、おにちから解放かいほうしても変化へんげすることなく互角以上ごかくいじょうたたかう。

「ふう、なんとか片付かたづいたわね」

 ようやくおにものを、すべて天井てんじょうつるげた。



  ダ、ダダダッ



 するとつばきとあやめが、なつめのもとる。

いままでどうしてたんだ!?それに化蜘蛛ばけぐも仲間なかまなのかっ!?」

「なつめさん・・・!?」

 二人ふたりは、口々くちぐちしゃべす。

はなしあと・・・ごめんね」



  ドンッ ドン



「なぜ・・・」

「なつめ・・・さん」

 つばきとあやめを、こんくなつめ。

「また、今度こんどは・・・・・・」

 かすかにこえるなつめのこえ最後さいごに、二人ふたり意識いしき遠退とおのいていく。



  ドサ、サ



 くずちる二人ふたりを、なつめがささえる。



  ・・・スタ スタ



「なつめさん、あの人逃ひとにげちゃったよ」

 桃香ももかつたえにた。

「そう・・・こまったひとね」

「つばきちゃんとあやめちゃんはどうするの?」

比賀ひがさんにたのんで、二人ふたりいえまでおくってもらうわ」

「「ねーね!!」」

 天井てんじょうからろされ、なわかれたかえでもみじはしる。



  タタッ、タッ



 びつく二人ふたりを──



  ガバァッ



 ──つよめるなつめ。 



  ギュウウウ・・・



かえで・・・椛大もみじおおきくなったわね」

いままで・・・なにしてたのよ!?」

「そうよ、きてたなら・・・どうしておしえてくれなかったの!?」



  グス・・・



 と、もみじかえでなみだぐみうったえる。

「ごめんなさい、ゆるして・・・」

 二人ふたり成長せいちょうした姿すがたに、なつめは微笑ほほえむのだった。

「なつめさん、準備じゅんび出来できました」

 そうこえけたのは、スーツを女性じょせい

倉庫そうこのシャッターがけられ、貨物用大型かもつようおおがたトラックがはいってていた。

「ありがとう、比賀ひがさん」

「ナツメサン、私一人わたしひとりはこレルンデスカ?すこシハ手伝てつだッテクダサイナ!」

 トラックの荷台にだいに、おにものんでいる化蜘蛛ばけぐもが、なつめにける。

蜘蛛くもさん、あなたあし八本はっぽんもあるのだから、一人ひとりでも十分じゅうぶんでしょ」

人使ひとづかあらイナア、アア・・・デモ、わたしひとジャナク蜘蛛くもデシタネ、ヒャヒャヒャ!」

 自分じぶんってわらうも、手早てばや化蜘蛛ばけぐもは、おに者達ものたちむ。

患者かんじゃさんたちわったよ!」

 桃香ももかこえげる。

かえでもみじごめんね。これからところがあるの、またあとでね」

「また・・・どこかくの?」

 と、もみじ不安ふあんかおをする。

すこ用事ようじをすませたらかえってる、絶対ぜったいに」

「ほんとに?」

「ええ、ほんとよ」

比賀ひがさん、あとはおねがいします」

「わかりました」

桃香ももか途中とちゅうまでトラックでおくるけど、あなたはどうするの?」

「ご心配しんぱいなく、うちの団員だんいんむかえに予定よていでーす!」

「あの人達ひとたちね・・・」

 団員だんいんった言葉ことばに、なつめのあたまおもかぶ人達ひとたち



  筋肉きんにく裏切うらぎらないぞ!

  ムキムキ



  そうだぞ!

  ムキムキ・・・


  あはははは!!



 トラックになつめがむと、どこかへとはしり向かう。



  ブオオオ ブオーーッ



 それからしばらくして、つばきはますのだった。

「はっ、なつめ!」



  ガバッ



 がり、つばきはとうとした。



  ゴンッ



「うわっ!?」

「つばきちゃん、大丈夫だいじょうぶ?」



  キョロ



 左隣ひだりどなりにあやめがすわっている。



  ブウウウウン



くるま!?」

 倉庫そうこではなくくるまなかることに、つばきはおどろく。すると右隣みぎどなりすわる、もみじう。

「やっとましたとおもったら・・・さわがしいわね」



  キョロ



もみじ、なつめは!?」

「いないわよ」

 助手席じょしゅせきから、かえでこえ

桃香ももかは!?」

ればわかるでしょ」

 と、もみじくるまれる人数にんずうかぎられている、そんなことぐらいわかっていた。つばきがいているのは、そういう意味いみではなく。ただきたいことやまほどあるのに、きたいひとない。

「つばきちゃん、とりあえずすわったら」

「あ、ああ・・・」

 あやめにうながされ、つばきはこしろす。



  トスン



 しばしの沈黙ちんもくとともに、くるまはしつづける。



  ・・・ブウオーーン



「あやめさん、もうすぐ屋敷やしききます」

「ありがとうございます」

屋敷やしき?」



  キョロ、キョロリ・・・



 つばきがそとると、あやめの屋敷周辺やしきしゅうへん景色けしきであった。

「・・・ってだれだ!おまえ!?」

 ふとづき、つばきはこえげた。くるま運転うんてんする人物じんぶつに、いまになってただすのだった。

わたしは、鬼刀製薬会社きとうせいやくかいしゃ社長秘書しゃちょうひしょ比賀ひがいます」

「あのおとこの・・・鬼刀きとう 礼二れいじ仲間なかまじゃねえか!?」

「それは誤解ごかいです。わたしは、なつめさんたちのおかあさん、若葉わかばさんとは大学時代だいがくじだい後輩こうはいになります。なつめさんにたのまれて、この二年にねんあいだ・・・鬼刀きとう 礼二れいじ調査ちょうさしていました」

「それじゃあ、なつめがきてたってことってたのかよ!」

っていました。それについては、なつめさんにかた口止くちどめされて、かえでさんともみじさんにたび・・・いつも心苦こころぐるしくおもっていました」

 助手席じょしゅせきかえでが──



  チラ



「ほんと二年間にねんかんも、私達わたしたちだまつづけてたなんておどろきよ」

 ──横目よこめでちくりとすように嫌味いやみう。

「・・・本当ほんとうもうわけありません」

 そうわれては、つばきとしてはなにえず。

「・・・」



  キィ



 くるまめ、比賀ひがくるまからりた。



  ガチャ



 後部座席こうぶざせきのドアをけ──

「つばきちゃん、おやすみ。かえでちゃん、もみじちゃんもおやすみね」

「「おやすみ」」

「・・・ああ、おやすみ、あやめ」

 ──くるまからりると、トランクからゆみ矢筒やづつしてもらう、あやめ。

「あの・・・いてもいいですか?」

なんでしょう?」

「なつめさんに・・・またえますか?」

ちかいうちにえますよ」

本当ほんとうですか!?今日きょうはありがとうございます。おやすみなさい!」

 うれしそうにれいうと、あやめは屋敷やしきへとはいってく。



  タタタタ・・・



 あやめが屋敷やしき内玄関うちげんかんはいるのを確認かくにんすると、比賀ひがくるまもどり、くるま発進はっしんさせる。



  ブオオオーー



「それにしても桃香ももかやつ、なつめのことっててだまってたんだな。明日あした学校がっこうったらとっちめてやる!」

 ひとごとのように、つばきは息巻いきまくとこぶしてる。



  パシッ



「つばきさん、よろしいですか?」

 すると比賀ひがはなけてきた。

「な、なにようかよ?」

「なつめさんからの伝言でんごんです」

「なつめから!?」

「そうです。わたしのことをだまっていてと、桃香ももかたのんだのはわたしです。だからゆるしてあげて、とっていました」

「あーあーっ、わかったよ!」

「ほんとわかりやすいわね」

 と、もみじ──

「ほんとね」

 ──かえで二人ふたりにからかわれたりしているあいだに、くるまはつばきのいえいた。



  ガチャ



 ドアがひらくと、つばきはくるまからりる。

今日きょうは、おつかれでしょうから、お風呂ふろはいって、はやくおやすみになられてください」

「そんな気遣きづかったことわなくていいよ」

「これもなつめさんからの伝言でんごんです」

「・・・」

 どうも調子ちょうしくるうつばき、トランクからかたなしてもらいる。

「ありがとう、れいっておくよ」

「それでは、つばきさんおやすみなさい」



  スタ スタ



 背中越せなかごしにげ──



  ヒョイ



 ──こたえると、つばきはいえなかへとはいってく。そのときのことだった。



  ♪♪ ♫♫♫ ♪



 比賀ひがのスマホがった。

「はい、比賀ひがです。なつめさん、はい・・・はい、そうでですか、わかりました。お二人ふたりに、そうつたえてよろしいですか?では、失礼しつれいします」

 電話でんわでのはなしえ、くるまもどると、比賀ひがはなつめからのはなしつたえる。

かえでさん、もみじさん、あと二時間にじかんほどで、なつめさんがいえかえってるそうです」

「「ほんと!?」」

 まった同時どうじに、さけ二人ふたりかえでもみじ、なつめの姉妹しまいいえへと、くるまはしりす。



  ブオオーーン



 くる──



  チュンチュン チュン



 朝早あさはやくに、あやめの屋敷やしきで、つばきは料理りょうりをしていた。テーブルにならべられた惣菜そうざいにして、あやめがたずねる。

「つばきちゃん、これ全部持ぜんぶもっていくの?」

ったりまえさ、そのためにつくったんだからな。それとあとで、おにぎりとおかず・・・どれでもいいから、祖母ばあさんにっていいってやんなよ」

「わかった」

 あやめは、重箱じゅうばこにおかずをめ──



  ツメツメ ツメツメ・・・



 ──つばきは、おにぎりをつくる。



  ・・・ニギ ニギ フワッ



 そしてつばきがつくったおにぎりを、隙間すきまなく重箱じゅうばこめると、あやめはこえげる。

「お重四段弁当じゅうよんだんべんとう完成かんせい!」

 それからあやめは、おにぎりと惣菜そうざい、おちゃぜんせ──

ってってくるね」



 トタ トタ



 ──祖母そぼ部屋へやかう。



  トタ トタ トタ



「お祖母様ばあさま美味おいしそうにべてたよ」



 ・・・モグ モグ



 もどってると、あやめがづく。

「ずるいっ、自分じぶんだけべるなんて!」

「へへん、はやいもんちさ!」

 自分達じぶんたちべるぶんのこしていたものを、つばきがさきべていたのだ。

「ああっ!?それわたしたのしみにしていたたまごき!」

残念ざんねんでしたあ!いただきまーす!」

「いいもん、こっちのたまごべるから!」

 するとあやめは、重箱じゅうばこにあるたまご焼《や

》きをべようとする。

なにしてんだよ!わかったよ、しょうがないなあ・・・ほい」

 つばきがあやめのくちに、たまごきをっていく。



  パク



美味おいしいーー!」

 そんなこんなで二人ふたりは、仲良なかよものいつつ、食器しょっきなどの後片付あとかたづけをする。

 最後さいご重箱じゅうばこ風呂敷ふろしきつつむ──



  ギュッ



「これでよしとっ!」

 ──あやめは時計どけいをやる。 

「いけないや、もうこんな時間じかんだよ!」

「なんか、まぁたぎりぎりだな」

 つばきも時計どけいて、そうらす。今日きょうは、つばきが弁当べんとうげて、二人ふたり学校がっこういそだ。

 おくれず学校がっこうくと──



  ・・・トコトコ、トコ ピタ



 ──校門こうもんつ、数人すうにん風紀員ふうきいんづく。

めずらしいな、風紀員ふうきいんるなんて」

「ほんとだね」

 別段べつだん注意ちゅういされることはろないとおもいながらも、そそくさと校門こうもんとおけようと、二人ふたりはする。



  スタタ、スタスタ



ちなさい、つばき!あやめ!」



  ビク



「なつめ!?」

「なつめさん!?」

 昨日きのう今日きょうで、二人ふたりおどろく。

 あやめが──



  タタッ、ガバッ



 ──なつめにびついた。

「こらこらきつかないで、あやめ」

「だって・・・うえーん!」

 人前ひとまえをはばからず、あやめはす。

「しょうがないわね」

なん学校がっこうに!?」

何言なにいってるの、ちゃんとつたえたでしょ。学校がっこうおうね、とったはずよ」

 つばきのいに、なつめがおもさせる。



  今度こんどは・・・学校がっこうおうね



 うすれる意識いしきなかで、なつめがそうっていたこのを、二人ふたりおもした。

「だから・・・どうしてるんだよ!なつめがここにさ!?」

わたしは、まだ中学生ちゅうがくせいよ。学校がっこうるのは当然とうぜんでしょ」

「そうなんだけど・・・そうじゃなくて」

 問答もんどうちがうのか、つばきはもどかしくおもう。

「そんなことより、二人ふたりとも、余裕よゆうって学校がっこうなさい。ぎりぎりは駄目だめよ」



  キーン コーン カーン コーン・・・



 予令よれいわたる。

「ともかくはなしあとはやきなさい。遅刻ちこくするわよ」

「あーもうっ、くぞ!あやめ!」

「またあとで、なつめさん!」



  ダタッ、スタタ



 二人ふたりは、教室きょうしついそいでけてく。



  グルグル カチ カチ カチン・・・



 昼食ちゅうしょく時間じかん──

 生徒会室せいとかいしつにある長机ながづくえあつまったのは、昨日きのうよる関係かんけいする面々めんめん御重弁当おじゅうべんとうひろげ、あやめは、みんなぶんさらはしくばる。

 するとなつめがってていた手提てさかばんつくえくと──



  ジャジャーン!



わたしつくってきたからべて!」

 ──なかから、二段にだん御重弁当おじゅうべんとうしてきた。



  ザワ・・・



 それをにして、心持こころも仰天ぎょうてんしたのは、つばきにあやめ、かえでもみじであった。なつめの料理りょうりも、つばきのものおなじく、とても美味おいしそうにえる。だが、だれ料理りょうりには、さないでいるのだった。



  パク



 するとさきにつばきの料理りょうりを、桃香ももかべる。

美味おいしい!これってつばきちゃんがつくったんでしょ」 

「まあな・・・」



  モグモグ・・・



 美味おいしそうにべる桃香ももかて、なつめの笑顔えがおが──



  ニコ 



  ──つばきとあやめにけられる。

安心あんしんして、ちゃんとレシピどおりにつくったから」

「・・・」

「・・・」

 その笑顔えがおに、二人ふたりいやだと言《い

》えず。覚悟かくごめ、なつめの料理りょうりを、つばきがさきんじる。



  バク



「・・・うっ!」

 あやめも──



  パクン



「まっ・・・」

 ──おもわずくちしてしまいそうなあじだった。

 つばきとあやめを桃香ももかが、なつめの料理りょうりくちにする。

「うーん・・・」

 つぎに、べつものつまんでべてみる。



  モグモグ・・・ゴクン



「うん、やっぱり不味まずいよ!なつめさん」

 本当ほんとうことを、桃香ももかがはっきりとった。

 人差ひとさゆびほおて──

「おかしいわね、今日きょうのは、出来でき たとおもったけど・・・でも栄養価えいようか問題もんだいはないはずだからべて」 

 ──なつめは、前向まえむきにとらえる。

 レシピどおりの材料ざいりょうに、調味ちょうみ調理ちょうりをして完成かんせいした料理りょうりが── 



  こんなにも不味まず



 ──と不思議ふしぎおもう、つばきとあやめだ。

 なつめは、家事全般かじぜんぱん出来できているものの、ひとつだけ欠点けってんげるなら、それは料理りょうりだった。なつめとつばきの料理りょうりくらべても、遜色そんしょくのない出来映できばえ、ただあじ問題もんだいなのである。



  チラ


  あやめ・・・どうする?


  パチクリ


  どうするって・・・どうするの?



 で、会話かいわする、つばきにあやめ。

 そうしているあいだに──



  モグ モグ・・・


  パク・・・



 ──つばきの料理りょうりだけを、かえでもみじべる。

わたしのもべていいのよ、かえでもみじ

「もう、お腹一杯なかいっぱいよ」

 と、かえで

わたしもよ」

 と、もみじ

二人ふたりともそだざかりなんだから、どんどんべなさい」

 すかさずかえ妹達いもうとたちに、うそとわかっているのか、なつめはつよべるようすすめる。



  ガチャ



 突然とつぜん生徒会室せいとかいしつのドアがひらいた。

みなさん、おちゃをおちしました!」

 割烹着姿かっぽうぎすがた中年ちゅうねん女性じょせいはいってると──



  コポ コポ・・・



 ──みんなぶんのおちゃれる。

「マリーさん、ありがとう!」

 桃香ももかれいい、おちゃくばえた女性じょせいは、いてるせきすわった。そして自分じぶん用意よういしたはしに、重箱じゅうばこから惣菜そうざいつまむ。



  パク モグ・・・



「まず・・・もしかして、これってなつめさんがつくったんですか?」

 その女性じょせいは、あまりの不味まずさに、なつめの料理りょうり判断はんだんした。われて、すこさわるなつめ。



  ムッ



「そうです!」



  キョトン



 このやりりに、つばきとあやめは、マリーと女性じょせい見入みいる。



  ジィー・・・



 ふとマリーは、そのことづく。

昨晩さくばんは・・・もうわけありません。おからだは、大丈夫だいじょうぶですか、お二人ふたりさん?」



  ???



 なんことだか、さっぱりわからない二人ふたり

「つばきちゃん、あやめちゃん!まだわからないの!?」

 マスクをかぶった自分じぶんづかれ、たいして割烹着かっぽうぎのマリーにづかないことに、また、桃香ももかはショックをける。



  ガビーン



「わかるもなにも、今日初きょうはじめてったわけだし・・・なあ?」

 と、つばきがあやめをると──

「うん、わたしもだよ」

 ──あやめがうなずく。

外国がいこくひとか?」

 マリーとばれていることに、つばきはそうおもった。



  パンパカパーーン!



蜘蛛くものマリーさんです!」

 桃香ももか正体しょうたいかすと、マリーはがり、わらいをかべる。



  テヘヘ



「マリーです!今後こんごともよろしく!」

うそでしょ!?」

「あの化蜘蛛ばけぐもか!?」

 あやめが、いでてばきがづく。

「はい、そうです!」

 おもわずって──



  ガタッ



「なぜだ!?なぜる!?それにひと姿すがたしてるんだ!?」

 ──つばきはがわめく。

「だってマリーさん、この学校がっこう食堂しょくどうはたらいてるからだよ」

「なんだってえええーーっ!?」

 いたくちふさがらないほど、つばきはおどろかたまる。桃香ももか転校てんこうして翌日よくじつから、食堂しょくどうはたらはじめたマリーだった。

「つばきさんも、あやめさんも食堂しょくどうで、何度なんどか・・・おいしてますよ」



  食堂しょくどう回想かいそう──

「157ばん、158ばん、おたせです!」

「あやめ、んでるぞ・・・」

「うーん・・・」

 返事へんじはするが、テーブルにしたままきない。しょうがなく二人分ふたりぶんりに、つばきがりカウンターへかう。



  トコ トコ・・・



「おや、またうどんですか?しっかりべないとからだちませんよ」

「わかってるけど・・・ふあっ、いそがしくてさ・・・」

「おつかれのようですね」

「ちょっとな」

 こえけてたのは、割烹着姿かっぽうぎすがた女性じょせい



 そんな会話かいわをしたのを朧気おぼろげに、つばきはおもした。



  ガガーーン



 さがしていた化蜘蛛ばけぐもが、すぐちかくにたことに──



  ドサッ



 ──つばきは、椅子いすこしとす。

のろい、のろいはどうなるの!?」

 つばきを心配しんぱいして、あやめがたずねた。

「それなら心配しんぱいいりません。のろいは、とっくにいてますから」

「じゃあ、化蜘蛛ばけぐもとのたたかいって・・・なんだったんだ!?」

 あたまかかええ、わけのわからなくなったつばきに──

「あれは作戦さくせんだよね、なつめさん」

 ──桃香ももかおしえる。

「そうね、二人ふたりだましていたことわりはないけど・・・鬼刀きとう 礼二れいじ仕掛しかけてくるなら、ああいう状況じょうきょうにならないとむずかしかったから」



  ウンウン



 マリーが、なつめのはなし相槌あいづちを打つ。

「そうですよねえ、あのひと・・・なかなかの用心深ようじんぶかさでしたもの」

「だからって、なん化蜘蛛ばけぐも仲間なかまなんだ!?」

そもそもあやかし・・・妖怪ようかいだろ!?

たしかに、彼女かのじょ妖怪ようかいです。だからとって、妖怪ようかい悪者わるものとはかぎらないでしょ。それに人間にんげんなかにだって、ひともいれば、わるひと・・・鬼刀きとう 礼二れいじのようなひともいる、残念ざんねんなことにね」

「そりゃあ、そうだけどさ・・・」

「つばきさんの気持きもち・・・わかります」

 あえて蜘蛛くも妖怪ようかいであるマリーが、つばきに共感きょうかんする。

わたし一族いちぞくも、ほとんどのものは、人間にんげんきらってます。わたしも・・・そのなか一人ひとり、あ、一匹いっぴきでした。でも、いまちがいます。ぎゃく羨望せんぼうまとです。とく人様ひとさまが、おつくりになる料理りょうりは・・・格別かくべつつ・・・いや千差万別せんさばんべつでございまして。五十年近ごじゅうねんちかきてきたなかで、一番いちばん衝撃しょうげき・・・かみなりたれたおもいでした。実際じっさいかみなりたれたことありませんけど。ただ・・・なつめさんのはべつですが」

 うっかりくちすべらすマリーだが──



  ・・・ううん



 ──これには皆同みなおなじだった。

「これは失礼しつれいしました」

「いいえ、自分じぶんでもわかってるつもりです!さあ、はなしはこれぐらいにして、おひるべましょ。いそがないと授業じゅぎょうはじまってしまうわ」

 するとつばきの料理りょうりに、一斉いっせいびる。



  バ、バババッ・・・



「わかってるとおもうけど、もののこすことはゆるしませんから」

 と、なつめが一言ひとこと



  ピタ



 みんなはしまる。なつめの笑顔えがお眼鏡めがねおくからとげとげしさがていた。



  グゴゴゴ・・・



 すかさずもみじう。

つぎは、体育たいいくだったわ、もうかなくちゃ」

 いで、かえでう。

「ねーね、あじは・・・まえより料理上手りょうりじょうずになったよ」



  サ、ササッ



 二人ふたりは、ぎわに、つばきのつくったおにぎりをると──



  ガチャ



 ──生徒会室せいとかいしつしてく。



  スタコラサッサ・・・



 こえにならないこえで、つばきが──



  ボソ・・・



上手うまく・・・げやがったな」



  ボソ・・・



いもうととなると・・・つかどころがわかってるから、流石さすがね」

 ──あやめがらす。

 


 わすれたドアをめに、なつめがかう。



  スタスタ・・・



妹達いもうとたちのためにも・・・ばんはん頑張がんばってみようかな」



  バタン



 げるための口実こうじつだとわかってても、あくまでもなつめは前向まえむきだった。いもうとめられたことで機嫌きげんくしたのか、なつめはみんなさらに、自分じぶんつくった料理りょうりける。 



  モリモリ!



「はい、べて!」

 このとき、なつめの笑顔えがお般若はんにゃめんえ、本当ほんとうおには、なつめだと、皆思みなおもったのだ。





 



  






  



 



 



  


































 



 
















  













 


















 




  



 

  





  

 














 






 














  


 




  


 




 

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