鬼姫花伝

コウセイ

呪縛編 鬼の兆し 一幕

 夜道よみちけるかぜ



  ヒュオオオオオ



 そのかぜは、次々つぎつぎ街道がいどう点滅てんめつさせてゆく。



  チカッ チカチカッ・・・



 それはやみまぎれ、よる公園こうえん徘徊はいかいする者達ものたちだった。



  キキッ ギィー



 そのあとう、一人ひとり少女しょうじょ



  タタッ、タタタ



 まだ肌寒はだざむかんじるよるに、薄手うすでのフードきパーカーをかぶり。デニムのショートパンツとスニーカーと、今時いまどきおんなおもわれる。がフードからのぞするど眼光がんこうに、こし一振ひとふりのかたなたずさえ、ただの少女しょうじょにはえない。

 見据みすえる少女しょうじょさきたのは、おぞましき姿すがたをした者達ものたちだった。



  ビョン ビョ、ビョンッ・・・



 方々ほうぼうからあつまり、れをなして、公園こうえんおくへとすすむ。



  ドドッ ドドド・・・



 スマホをすと、画面がめんひかりが、少女しょうじょかおらす。

「そっちった」

了解りょうかいです」

 そうこたえ、かまえていた、もう一人ひとり少女しょうじょ前方ぜんぽうからる、あやしい気配けはいらす。

「むー・・・」



  ジーー・・・



 そうすると暗闇くらやみひかてんが、いくつもかびがってる。



  ピッ、ピピ ピピピ・・・



餓鬼がきみなさん、てはわるさして、このうえなく迷惑めいわくです!」

 げると巫女みこ身形みなりをした少女しょうじょは、っていたゆみる。



  ビュンッ グサッ!  



 確実かくじつに、餓鬼がき射倒いたおす。



  ビュンッ ドッ


  ビュンッ ドスッ



 るもおもったより、餓鬼がきかずらないことづく少女しょうじょ

「また・・・さぼりですか」

 事前じぜんわせて、餓鬼がきみ、はさちにしてから、一網打尽いちもうだじんにするとめていた二人ふたり少女しょうじょであった。それにもかかわらず一人ひとりで、餓鬼がきむかってあることに、少女しょうじょはらてる。

「もうゆるさないからね、あとで、お仕置しおきしてやるんだから」



  プンスカ



 そんなとき不意ふい餓鬼がき異変いへんきた。 



  ガブッ ガブ、ガブリッ・・・



 共食ともぐいをしはじめる餓鬼がき

るにえない・・・悪食あくじきです」

 らうごとに餓鬼がきからだは、一回ひとまわりも二回ふたまわりもおおきくなってゆく。

かずるのはいのですが・・・」

 れをなしていた餓鬼がきは、結果けっかのこ一匹いっぴきとなり、見上みあげるほどのおおきさになった。

「きゃー、こわーい!こわくてうごけないよっ!」



  ・・・・・・



 あきらかに棒読ぼうよみのさけこえに、少女しょうじょびとず。ぎゃくに、そのこえづく餓鬼がき



  ギギーッ!?



 餓鬼がきが、少女しょうじょせまる。



  ドドン、ドドンッ・・・



わたしべられちゃう、つばきちゃんたすけて!」

 こんどは芝居しばいがかってせた。



  ・・・タタタタタッ



 けてるつばき。

「たっく、わざとらしいんだよ!」

 かたなき、さや呪法じゅほうとなえる

「・・・じゃめっするやいばとなりて、するちからひかりとなれ!」

 つぎに、鍔元つばもとから刃先はさきけ、ゆび刀身とうしんをなぞり集中しゅうちゅうする。

りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん!」

 すると順繰じゅんぐりに梵字ぼんじかび、ほのかにひかりはな刀身とうしん



  タァンッ



 一気いっきがると、つばきの気配けはいづき、餓鬼がきなおる。



  グルリ



 すでにおそく、かたなりかぶるつばき。

破邪十文字斬はじゃじゅうもんじぎり!」



  ズバーッ ズバッ


  ギガアアア!



 十文字じゅうもんじくと、餓鬼がきはいとなった。



  ボサア・・・



滅却完了めっきゃくかんりょう!」

流石さすがだね、つばきちゃん!」

 巫女みこ少女しょうじょは、にこやかにかたなさやす。

「はい!」



  ニコッ



「あんなでかぶつ・・・おまえゆみでもたおせるだろ、あやめ」

 さやるも、つばきは文句もんくをたれる。

何言なにいってるの、矢一本やいっぽんにしたって、ただではありませんのよ」

「だったら・・・あれ使つかえばいいじゃん、かねかかねえしさ」

駄目だめです、お祖母様ばあさまから、実戦じっせんでの許可きょかりてません。そんなことより、つばきちゃん・・・さぼってませんでした?」



  ピク



「ないない、そんなことないよ」

「ではきますけど、何匹斬なんびききりました?」

「えーと・・・五匹ごひきかな」

本当ほんとうに?」



  ジロ ジロ・・・



 あやめのに、動揺どうようするつばき。

「あれ・・・三匹さんびきだったかな」

うそおっしゃい!」



  ピク



一匹いっぴきです」

「またさぼるなら、どうぞおきなように、来月らいげつのお給金きゅうきんがなくてもいいのならね」

「それはこまる、今月こんげつぶんにしたって、やけにすくなかったのに」

「それは自業自得じごうじとくです。邪魔じゃまだからって、信号機しんごうきぶったっておいて、なんにもないわけないでしょ」

「うっ、でもさあ・・・あれぐらい経費けいひとしてくれても・・・」

わたしまだ・・・したお金返かねかえしてもらってないんですけど」

 しかめっつらをするあやめに、つばきはとぼける。

「そうだったけ・・・そんなことあったかな?」



  ギュッニュニュウ



 つばきの両頬りょうほほをつねるあやめ。

「どのくちってるんですか?」

「ひたたたた・・・」

 ちょうど、そのとき



  ピカッ



 二人ふたりらすひかりがあったのだ。

君達きみたち、こんな夜更よふけになにしてるんだ?」

 警察官けいさつかんであった。

「それはなんだね、ゆみかたなかたなは・・・本物ほんものか、矢尻やじりもついて、子供こどもつには危険過きけんすぎないか。どこのいえだね?」

 つばきとあやめは、警察官けいさつかん見咎みとがめられる。

わたしは、鬼龍院きりゅういん あやめともうします」

たしか・・・おおきな屋敷やしきのあるいえだね?」

「そうです」

きみは?」

鬼門おにかど つばき」

「ああ・・・あの火事かじのあった・・・」

「で、あんた何者なにものだ?」

 けた言葉ことばさえぎるようにして、つばきはかえした。

わたしテノとおリ・・・警察官けいさつかんダ・・・」

 きゅうこえ上擦うわずる、警察官けいさつかん

「ソノ・・・ゆみかたな・・・あずカラセテモラウ」

 そううと、二人ふたりからゆみかたなげるのだった。その不自然ふしぜんさに、つばきとあやめはうしろをいて、警察官けいさつかんこえないようにはなす。



  ヒソヒソ・・・



「ばればれだけど、どうする?」

「どうするって、っとくわけにもいかないでしょうし・・・」

 二人ふたりうように、ゆみかたなげてからの、警察官けいさつかん挙動きょどう可笑おかしくなる。



  カク、カクンッ



 くび左右さゆうれてかたむいたり、おくあかく、からだなかなにかがひそむ。そうなると、もうひとでないこと十二分じゅうにぶんにわかる。

君達きみたちたちハ・・・わるイ、。オ・・・オマワリ、サ・・・サン、サンニ・・・内緒ないしょばなしナンテ」

 こえどもり、警察官けいさつかん背中せなかがってくる。



  ボコ、ボコンッ ベリベリッ!



 からだやぶってあらわれたのは、巨大きょだい蜘蛛くも化物ばけものあたましてはいるが、した腹部ふくぶさず。その状態じょうたいのままでどくづき、二人ふたり宣告せんこくする蜘蛛くも

「オ前達まえたちニハ、オ仕置しおキガ必要ひつようダ。イヤ、ソンナ生温なまぬるイモノデハ駄目だめダ。いまスグヌガイイッ!」



  ドス


  グギャアアア



 えていない蜘蛛くもはらを、つばきはかたなてる。

「ナゼダ?ゆみかたなゲタハズ・・・」

「それは秘密ひみつだ」

しかったですね、おまわりさん」

 あやめも、ゆみかまねらう。



   キィ



「コレデワッタトおもウナッ!」



  ビョン ゴスッ



 あたまると、警察官けいさつかんましていた化蜘蛛ばけぐもはいになる。



  ・・・サラ サラ



「あやめ、いいのか?」

なんです?」

「その・・・あれ使つかってしまって、さ」

「あの場合ばあい緊急事態きんきゅうじたいというか・・・ああするしかありませんでしたでしょ」

「でも、ばれなきゃいいか」

多分たぶん・・・ってるはずだよ」

うそだろー、うちの祖母ばあさんにしろ、あやめの祖母ばあさんは地獄耳じごくみみか。ちがうな、・・・おに鬼婆おにばばだ!絶対ぜったいそうだよ!」

「つばきちゃん、そんなことって、あとおこられてもらないよ」

「ま、まさか、おどかすなよ・・・」

 後悔こうかいするもおそく、あとでみっちりと説教せっきょうされることになる。化蜘蛛ばけぐもられ、ちているゆみかたなを、つばきがひろうとした、その瞬間しゅんかん



  チクッ



いた・・・」

「つばきちゃん、どうかしたの?」

「ううん、なにかにまれた」

大丈夫だいじょうぶなの?」

 まれたゆびると、あかくなっているだけだった。

「うんまあ・・・てないし、なんともないよ」



  カサカサカサ・・・



 つばきのゆびんだのは、ちいさな蜘蛛くもであった。

「そろそろかえろうぜ」

 ると、つばきはゆみわたす。

「そうだね、今日きょうから、授業じゅぎょうはじまることですもんね。あさむかえにこうか?」

「いいよ、心配しんぱいしなくても、絶対ぜったいきる目覚めざましがるからさ。ひひ・・・」

「ああ、またそんなことってる」

 日付ひづけわるまえ、そのは、中等部ちゅうとうぶ一年いちねんがったばかりの二人ふたり。そして学生がくせいあやか退治たいじの、二足にそく草鞋わらじ者達ものたちでもある。

 家路いえじこうと公園こうえん二人ふたりを、くるまからているものた。

かえでさん、もみじさんよろしいのですか?このままかせても」

油断大敵ゆだんたいてきだわ」

 と、もみじ

「そうね、けど・・・まだ時間じかんあるから」

 と、かえで。この二人ふたりかおこえふくも、まったおな少女しょうじょつばきとあやめをうかがうだけで、くるまはしってく。



  ブオオオ


  チュン チュンチュン



 あさ、つばきはあやめの屋敷やしきた。



  トコ トコ トコ



 にわかこ廊下ろうかあるくつばきは、ちょうどかどからたあやめと出交でくわす。

「よう、あやめ!」

「つばきちゃん!おはよう、どうしたの朝早あさはやくに?」

「それが祖母ばあさんにたたこされて、あやめのばあさんとこってい、ってうから。まだねむくてしょうがないよ、ふあああ・・・」

わたしも、お祖母様ばあさまばれてたところなんだけど・・・なんはなしかな?」

「そこの二人ふたりばなししておらず、おはいりなさい!」



  ビクンッ



「うっ・・・」

「はい、お祖母様ばあさま!」

 すぐよこ和室わしつから、こえるこえ反射的はんしゃてき背筋せすじびる、つばきにあやめ。はいると部屋へやでは、あやめの祖母そぼすわってつ。二人ふたり正座せいざすると、あやめの祖母そぼは、おもむろにくちひらいた。

「つばき、ことがあるであろう」

 化蜘蛛ばけぐもたおときに、使つかったちからことってると、つばきはおもった。

「やっぱり・・・あのこと?」

「それもある、が・・・しかしだ。二人共ふたりとも蜘蛛くも退治たいじしたあとづくことがあったはずじゃ」

「うーん・・・」

 をつぶりかんがえるつばきであったが、段々だんだん意識いしきちてゆく。



  スー、スー・・・



「(もしかしててる?)」

 いかにもかんがえてるふうえて、居眠いねむりするつばき。それにづくも、ふとあることおもすあやめ。ゆみかたなひろったとき、つばきがなにかにまれたことであった。

「まさか!?つばきちゃんって!」

 無理矢理むりやりたせると、あやめはつばきの制服せいふく強引ごういんがせる。

「あやめ!?なにすんだ!?」



  ガバッ、ガバッ ストン



 下着姿したぎすがたにして、正面しょうめんかせると確認かくにんするように見入みいる。



  クル・・・



 つぎは、背中側せなかがわて、あやめはづいた。

「あった!?」

 つばきのこしあたりに、くろちいさな蜘蛛くもあざのようなものを。

「つばきはともかく、あやめ・・・おまえがいてのろいにづかんとは、まだまだ精進しょうじんがたらん」

「つばきちゃん、ごめんね・・・」

にすんなって、べつに・・・・からだなんともないし、平気へいきだよ」

いまはな」

「それでのろいって・・・なにかあんの?」

「その蜘蛛くもは、ごとうごいて・・・心臓しんぞうへとすすむ。そして十日後とおかごには、心臓しんぞうやぶり・・・いたらしめる」



  グス、グス・・・



 きつきなみだかべるあやめに、こまるつばき。

「だから・・・にすんなって、あやめ」



  グゥー



 こんなときでも、つばきのはらる。

なんだね、はらってるのかい?」

「そりゃあ、朝早あさはやくにこされて、ここへさせられているからな」

「なら、べてきなさい。わたしもあやめも、朝餉あさげはまだですから」

 それから十分後じゅっぷんご、つばきは包丁ほうちょうって、台所だいところっていた。



  トン トン トン・・・



 手際てぎわよく野菜やさいる、つばき。

っていけってったのに、なんで・・・自分じぶんつくんなきゃいけないんだよっ!」

「もちろん、つばきちゃんがつくった料理りょうり美味おいしいからだよ」

 不平ふへいうも、あやめがおだてる。いえでは、料理りょうり毎日作まいにちつくっているつばき。ことに料理りょうりかぎっては、められるほどの腕前うでまえだったのだ。 

 朝餉あさげ時間じかん──

「ご馳走様ちそうさま

 とあやめの祖母そぼは、一言ひとこと

「ご馳走様ちそうさまです、つばきちゃん、美味おいしかったよ」

「どういたしまして」

「でもわたしには、すこあじいようです」

 といつつ、つばきのつくったざかな一汁三菜いちじゅうさんさいを、綺麗きれいのこらずべていた、あやめの祖母そぼざかないたっては、はじめからがついてなかったとわんばかりにほねしかのこっていない。



  カタ カタ カタン



 朝餉あさげぜん片付かたづけ、つばきは、部屋へやようとしたときだった。

あとで、もう一度来いちどきなさい」

学校終がっこうおわりってこと?」

「ええ、そうです」

「わかった」

 そうけた、あやめの祖母そぼかる返事へんじをして、つばきは台所だいところかう。

 そうして台所だいところで、あらものかたすつばき。



  ジャー、バシャ バシャ

  カタン コトッ



 そのかたわらで、あやめはせわしく冷蔵庫れいぞうこから、食材しょくざいしているのだった。



  イソイソ・・・



なにしてんだ、あやめ?」

「お弁当べんとう準備じゅんび

「またつくるのかよ、ひるくらい学校がっこう食堂しょくどうですませようぜ」

駄目だめなんだ、食堂しょくどう売店ばいてんも、明日あしたからだってってたよ」

 二人協力ふたりきょうりょくしてつくるも、つばきおもう。

「これ・・・多過おおすぎないか?」



  ドドーーン



 つくえならべていたさらには、いろんな料理りょうりられていた。

「そうかな、そんなことないよ」

「・・・二人ふたりじゃ、いくらなんでもれないぞ」

 自分じぶんつくっておきながら、そうおもうつばきだった。でも、あやめはちがった。

「そこはまかせて、ちゃんとかんがえてあるから」

 重箱じゅうばこすと、たのしそうにしてける。そうしてけをえ、重箱じゅうばこかさね。



  カタ カタ カタン



 最後さいごふたをして、四段重よんだんかさねの御重弁当おじゅうべんとう出来上できあがり。これを風呂敷ふろしきつつもうと、ふと時計どけいに、けたあやめ。

「あああ、こんな時間じかんだっ!?」



  ドタタタッ



「あやめ、いそげよ!」

 あらもの片付かたづけていたつばきは、台所だいところしてく。

「つばきちゃん、って!」



  アセ アセ・・・



 あわてて重箱じゅうばこつつみ、つばきをってはしるあやめ。だが重箱じゅうばこ中身なかみくずれないようにと、いそぎたくてもいそげない。


  ドタ ドタ ドタ



 さきってしまったつばきにもどかしさをかんじつつ、あやめは教室きょうしつけた。



  カラカラカラ!



「どうしてってくれないの、つばきちゃん!?」

 鼻息荒はないきあらく、大声おおごえげるあやめを。

「ふーっ、ふー・・・」

 せきから、わせあやまるつばき。

「(すまん、あやめ!)」

「それは、遅刻ちこくするからです。鬼龍院きりゅういん あやめさん」

 指摘してきされ、あやめはおそおそく。

先生せんせい遅刻ちこくでしょうか?」

厳密げんみつえば遅刻ちこくです・・・が今日きょうは、大目おおめましょう」

「ありがとうございます!」

「それより、はやせききなさい」



  スタ スタ スタ



 せきこうとして、あやめはづいた、教卓きょうたくよこおんなに。

全員揃ぜんいんそろいましたので、あらためて紹介しょうかいしましょう。転校生てんこうせい斗鬼とき 桃香ももかさん」

はじめまして、斗鬼とき 桃香ももかです」

本当ほんとうは、昨日きのう始業式しぎょうしき予定よていでした、が間違まちがえてしまったとのことで、今日きょうになってしまいました」



  アハハハハ・・・



 教室きょうしつわらいがきると、桃香ももかは、すこわらいする。



  テヘ



 担任たんにんうながされ、桃香ももかは、いているせきく。

「えー、それであとやす時間じかんなどで、ほかみなさんは、自己紹介じこしょうかいしてください、以上いじょうです」

 ホームルームがわり、午前ごぜん授業じゅぎょうえて、昼休ひるやすみになる。



  キン コン カン コン・・・



 あやめのせきかうつばき。



  スタ スタ スタ



ひるどうするんだ、あやめ?」

くよ、つばきちゃん」

 せきつと、風呂敷ふろしきつつんだ重箱じゅうばこかかえ、あやめは教室きょうしつる。



  スタスタスタッ



「どこくんだよ」

 あやめのうしろを、つばきはついてあるく。どんどんあるいてく。

「どこまでくつもりなんだ!?」

 あるいてかった、そのさきは。

食堂しょくどう?」

「そうなんです」

なんでわざわざ・・・」

「いいからはやく」



  カラン カランッ



 食堂しょくどうはいると、見慣みなれたかおがあった。

かえでもみじ!」

ったでしょ、かんがえてるって」

「・・・がきんちょ、二人ふたりだろ」

 二人ふたりは、小等部しょうとうぶ四年生よねんせいで、しかも双子ふたごだった。この学校がっこうは、小中一貫校しょうちゅういっかんこうのため、生徒せいと職員しょくいんのために食堂しょくどう併設へいせつされている。

「お弁当作べんとうつくりすぎたってうから、てやったわよ」

 と、もみじ

「そうよ、感謝かんしゃしなさい。おちゃがないってうからっててあげたわ」

 と、かえで

 たしかに弁当べんとうつくったが、ものかんしてはわすれていた。とうのもつばきが弁当べんとうつくっている合間あいまに、あやめが連絡れんらくれていたのである。

「ありがとうね、かえでちゃん・・・?」

 かえであねもみじいもうと二人ふたり。そっくりすぎて、あやめには見分みわけがつかない。しかし、なぜかつばきだけは見分みわけが出来できるのだ。



  なんとなく、とうか雰囲気ふんいきだよ



 とつばきはうが、それだけでは要領ようりょず、あやめはわからないままなのである。しょう中等部ちゅうとうぶとも基本的きほんてきに、全学年制服着用ぜんがくねんせいふくちゃくようであるが、取分とりわけこの二人ふたりは、あたまから足先あしさきまでかがみうつしたかのごとおなじ。本当ほんとうは、一人ひとりきりの人物じんぶつかとうたがうほどの双子ふたご姉妹しまいなのであった。

もみじ!さっきから、おかかのおにぎりばっかってんじゃねえ!」



  モグ モグ



いじゃない、それにわたしかえでよ」



  パク



うそつくなっ!」



  カラン カランッ



 と昼食ちゅうしょく時間じかんがってるとき食堂しょくどう転校生てんこうせいがやってた。

「あのー、食堂しょくどうがあるっていたんですけど・・・」

今日きょうは、やってないぞ」

 つばきが、おしえてやった。

「ええ!?そうなんですか!?」



  ガビーン



 かたとし、転校生てんこうせいかえろうとする。

一緒いっしょべませんか?」

 あやめが、つくりすぎた弁当べんとうべないかとすすめる。

「でも・・・」

「たくさんあるからべて、のこったらもったいないから」

 と、もみじ

「うんうんって、つくったのはわたしなんだぞ」

おなおになんだから、そうしなさい斗鬼とき 桃香ももか

 なぜか転校生てんこうせい名前なまえっているかえで

「どうして名前知なまえしってんだ?まさかお前達まえたち・・・蜘蛛くもことって・・・」

 すと、くちさえ、つばきはかえでもみじかおる。



  マジ マジ・・・



「「当然とうぜんよ」」

 同時どうじに、こたえるかえでもみじおそろしいまでの情報じょうほうつたわりに、つばきはおどろきよりこわさをかんじた。

蜘蛛くもがどうかしたんです?」



  ・・・モグ モグ



 おなじテーブルにいて、すでに弁当べんとういただいていた桃香ももかが、不意ふいたずねた。

「え、ああ、それは・・・」

「・・・学校がっこう蜘蛛くも大量発生たいりょうはっせいして、大変たいへんなんです!」



  トン、トン



 誤魔化ごまかそうとして、あやめがひじでつばきをく。

「そうそう、そうなんだ!」

 つばき、あやめ、かえでもみじ四人よにんは、うら仕事しごとあやか退治たいじをしている。そのことは、一部いちぶ者以外ものいがいらない事実じじつだった。

「へぇ、蜘蛛くもか・・・わたし蜘蛛平気くもへいきなんだ。むかし、ぶんなぐったことあるし」

「(ぶんなぐる?)」

 あやめのあたま疑問符ぎもんふがつくが、間違まちがいだろうとにしなかった。

 昼食中ちゅうしょくちゅう──

「ふうーっお腹一杯なかいっぱいです」

 はらさす桃香ももか



  サスリ サスリ・・・



のこるかとおもったけど、桃香ももかちゃんやかえでちゃんにもみじちゃんが、たくさんべてくれたから・・・れてかったよね」

「まあ、つくったものとしてはな」

 つばきは、ちょっとうれしかったりする。

「ご馳走様ちそうさまでした、とても美味おいしかったです。つばきちゃん、料理上手りょうりじょうずだね」

 椅子いすからち、桃香ももかめた、そのとき



  ガバアッ



「ひゃあっ!」

 だれかが、桃香ももかのスカートをまくげた。



  クル



かえでちゃん、なにするの!?」

 き、そうくちにする。

「よくわかったわね、わたしかえでって・・・」

 とっさにかえでだと、てた桃香ももか

「あれ、なんでだろう?」

 不思議ふしぎおもうもわからず、つばきがく。

なにしてんだ、かえで!?」

「ごめんね、桃香ももかちゃん」

 悪戯いたずらしたかえでわって、あやめがあやまった。

「ちょっとびっくりしただけだから」

わるい、あとで・・・きつーくしかってやるからな、かえで



  グリ、グリ、グリ・・・



 ひらこぶして、仕事しごとをつばきがせる。

「いいよ、おこらないであげて」

「こうゆうときこそ、肝心かんじんなんだ。わることわるいって」

 桃香ももかゆるすも、つばきはゆるさない。

「そうだよねえ、さぼったり・・・信号機壊しんごうきこわしたりするのはいけないことだよね」

 唐突とうとつに、あやめが、つばきのこといにしてきた。

「な、なんで、いまそんなことうんだ。それに・・・あれはいいんだよ!」

「いいわけないでしょ!」

「そんな事言こといったら、あやめだって・・・今朝けさ服脱ふくぬがされたぞ!」

「それとこれとはちがうでしょ!」

 いつのにやら、つばきとあやめのはなしわっていた。

「もうくわ」

 と、かえで

わたしも」

 一緒いっしょもみじも、食堂しょくどうく。



  カラン カランッ



 おこ相手あいてないことに、めるつばき。

「ほんと・・・勝手かってながきんちょだな」

私達わたしたちも、きますとしましょうか」

 けたあやめに、みんなはしやコップなどを片付かたづける。そのときに、のこされたものがあった。

「たくっ、わすれてきやがって・・・」

 それはかえでもみじっててくれた、おちゃはいった魔法瓶まほうびんだった。

わる子達こたちじゃないんだけど、どうしたのかな、今日きょうは・・・」

わたしも、かえでちゃんやもみじちゃんが、本当ほんとうわるじゃないとおもいます。だって二人共ふたりとも、おにぎりべてるとき・・・すご美味おいしそうにべてから」

「そうってくれて、ありがとな」

わたしこそ、おひる、ご馳走ちそうになっちゃって」

 以前いぜんからの友達ともだちだったかのように、仲良なかよ雑談ざつだんしながら、教室きょうしつもど三人さんにん



  カラン カランッ



 一方いっぽうさきに、食堂しょくどうかえでもみじ小等部しょうとうぶ校舎こうしゃもどみちすがら、先程さきほど出来事できごとについてはなしをしていた。

「それでどうだった?」

 ともみじたずねた。

間違まちがいないわ、斗鬼とき 桃香ももかは、私達わたしたちおなじく・・・つらなるものよ」

「これから面白おもしろくなりそうね」

「そうね」



  キン コン カン コン・・・



 授業じゅぎょうわり、放課後ほうかご──

「じゃあな、桃香ももか

桃香ももかちゃん、また明日あしたね」

「つばきちゃん、あやめちゃん、それじゃあまた明日あした

 校門こうもんると桃香ももか家路いえじに、ふたたび、つばきはあやめの屋敷やしきていた。あさときとはちがって、広間ひろま障子しょうじまえると、あやめはこえける。

「お祖母様ばあさまはいります」

 広間ひろまには、あやめとつばきの祖母そぼが、それにくわえてかえでもみじ叔父おじ鬼刀きとう 礼二れいじた。

てたのかよ・・・」

 鬼刀きとう 礼二れいじたいして、つばきは、あからさまにいやかおをする。

「あなたたちも、そこへすわりなさい」

 かしこまった口調くちょうで、あやめの祖母そぼうながすと、用意よういされた座布団ざぶとんすわ二人ふたり今回こんかい、つばきにかけられたのろいについて、あつまりはなわれていたのだ。その結果けっかつたえられる。



  バンッ



 まえき、いかるつばき。

「ふざけんなっ!」

「つばきちゃん・・・」

「これだから、がきはこまる」

 大人達おとなたちした結論けつろんに、納得なっとくできないつばきを、鬼刀きとう 礼二れいじ揶揄やゆする。

なんだと・・・」

「なつめなら、こんなへまをしなかっただろうに、無能むのうものきて有能ゆうのうものぬ。つばき・・・ならばおまえは、ただの化物ばけものでないか」

 つづざまひとごとのように、礼二れいじ物言ものいいをする。

「もう一度言いちどいってみろっ!」

 息巻いきまくとがり、礼二れいじにらみつけるつばき。



  ズアッ



 広間ひろまなかあつが、つばきを中心ちゅうしんうごく。



  カタ、カタカタカタッ・・・



 広間全体ひろまぜんたいす。

「くっ、くく・・・化物ばけものめ、とうとう本性ほんしょうあらわしよったわ」

「やめんかっ、つばき!」

礼二れいじ、おまえも、いい加減かげんにしないか!」

 つばきの祖母そぼ一喝いっかつ。あやめの祖母そぼめにはいる。

「やめてよ!つばきちゃん・・・」



  ギュウウ



「あやめはなせっ!」

「なつめちゃんも、きっとわたしおなことするはずだよ。おねがい・・・おねがいだから・・・つばきちゃん」

 なみだながらに、あやめがめようとした。

「・・・わかったよ」

「ほんと?」

なにもしないよ、だからはなしてくれ・・・」

「ほんとに?」

「ああ」

「ほんとにほんとに?」

「だーっ、ほんとだってば!」

「わかった・・・」

 やっとのことであやめがはなすと、つばきは広間ひろまようとする。

頭冷あたまひやしてくる」

 障子しょうじけ、くつばきを、あやめがう。



  スタタッ



はなしわって、ようがないならかえらしてもらう。いいか?」

かまわん」

 あやめの祖母そぼが、そう一言ひとことかえすと、礼二れいじも、広間ひろまった。

礼二れいじめ、わざとつばきをおこらせよって・・・」

 つばきの祖母そぼは、そうていた。

なにたくらんでいるかもれんな、こちらもうご必要ひつようがあろう」

 あやめの祖母そぼおなじく、礼二れいじ警戒けいかいする必要性ひつようせいかんじていた。

「ところでっておるか?」

 唐突とうとつに、あやめの祖母そぼす。

なんじゃ?」

りたいか?」

べつりたくないが・・・いたいのであろう」

 つばきの祖母そぼは、先読さきよみしてげんこたえる。

「あのおとこまごが、あやめとつばきの学校がっこう転校てんこうしてたそうじゃ」

「あのおとこ?」

なにをとぼけておる、おまえさんの初恋相手はつこいあいておとこじゃよ。わすれたとは・・・わせぬぞ」

 わらいをめ、顔色かおいろうかがう。



   チラ・・・



「なっなにってる!わたしが・・・あんなおんなたらしをきになるはずがなかろう!」

 図星ずぼしだった。

「ほう、それがわかれた理由りゆうか」

「でたらめなこともうすな、そんなとおむかしことなぞ、とうにわすれたわ!もうかえる」



  ソワ ソワ



「そうか、では・・・またな」

 つばきの祖母そぼも、広間ひろまった。広間ひろま礼二れいじは、屋敷内やしきない敷地しきちいたくるまもうと、ふと屋敷やしきながめる。

「どうやらこまうごはじめたか・・・」



  バタンッ



 ゆるやかにくるま発信はっしんすると、後部座席こうぶざせきすわ礼二れいじは、運転手うんてんしゅ女秘書おんなひしょげる。

れい計画けいかくすすめてくれ」

「よろしいのですか?」

「ああ・・・」



  ♪♪♫ ♪♪♫ ♫♪!



鬼刀きとうです、これはこれは、何時いつぞやの・・・ええ・・・いまから、わかりました」



  ピッ



 電話でんわると、礼二れいじは、女秘書おんなひしょう。

「すまないが、役員会議やくいんかいぎをキャンセルして、このまえの、あの料亭りょうていってくれ」

「わかりました」



  ブロロロ・・・



 礼二れいじは、くるま繁華街はんかがいへとはしらせた。

 一方いっぽうあとけていたあやめは、つばきと一緒いっしょいけまえたたずむ。

「あやめおぼえてるか?最後さいごに、なつめとったのこと・・・」

「うん、おぼえてるよ」



 二年前にねんまえ──

 つばきとあやめは、人里離ひとざとはなれたやまにある病院びょういんていた。



  ・・・スタ スタ スタ



 ある病室びょうしつはいると、つばきはうなりう。

「なつめ元気げんきかー」

「つばきも元気げんきそうね」



  パタン カチャ



 んでいたほんじて、なつめは眼鏡めがねはずす。

「なつめさん、大丈夫だいじょうぶなんですか?」



  ニコッ



 心配しんぱいするあやめに、笑顔えがおかえすなつめ。

「ええ、大丈夫だいじょうぶよ。ただの検査入院けんさにゅういんだから」

 二人ふたりにとってなつめは、おねえさんであり、あごがれる先輩せんぱいでもあったのだ。

なんだかひまそうだな」

「そうだね、検査以外けんさいがいは、なにもやることないしね」

 いつもなら土曜どよう日曜にちよう使つかって、市内しない病院びょういん検査けんさをするなど配慮はいりょがされていた。だが今回こんかいは、ちがっていたのである。

「あの、なつめさん。どうして・・・こちらの病院びょういんへ?」

わたしいたんだけど・・・こっちの病院びょういんほうがゆっくりできて、しずかでごしやすいからって、ってたわ」

「そんなあまっちょろいことって、ほんとはなにかあるんじゃないか?」

 うたぐるつばきは、そんなこと平気へいきくちにする。

「もー、つばきちゃん、なんてことうの」

 つばきの直球ちょっきゅう物言ものいいに、ついわらってしまうなつめ。

「ふふふふ・・・つばきのとおりかもね、わたしもそうおもうわ」

「そうなんですか?」

心配しんぱいしなくて平気へいきよ」

「でも・・・」

たしかに・・・なにかあるにせよ、きっと大丈夫だいじょうぶよ」

「なつめさんがうなら・・・いつごろ学校がっこうれそうなんです?」

「そうね、まだ検査けんさいくつかあるみたいだけど・・・結果けっかければ、今月中こんげつちゅうってってたかな」

かった、せっかく中学生ちゅうがくせいになったなつめさんの制服姿せいふくすがた・・・はやたいなーー」

「そんなにたいなら、てみようか?」



  チラリ



 かべけてある制服せいふくに、なつめはけた。

退院たいいんするときに、かえろうかとおもってね。っててもらったんだ」

「それは・・・あとたのしみにとっておきます」

わってんな、あやめ。たのしみもなにも、制服着せいふくきてようがパジャマても・・・なつめはなつめだろ」

「そーゆうことじゃないから、わたし、つばきちゃんのそーゆうとこきらい」

なんだよ、それ」

 そんなたわいもない会話かいわをする二人ふたりに、なつめの笑顔えがおえない。



  スタスタスタッ



 そこへ看護師かんごしはいってた。

鬼刀きとう なつめさん、そろそろ検査けんさ時間じかんです。あら、お友達ともだち?ごめんなさいね」

 看護師かんごしは、検査前けんさまえ血圧けつあつはかる。

「そうだった、つばきとあやめにたのみがあるんだけど・・・たのめるかな」

きゅうなんだよ」

なんですか、なつめさん?」

中学生ちゅうがくせいになると小等部しょうとうぶ中等部ちゅうとうぶじゃ、おな敷地内しきちないでもとうちがうから。おひるを、妹達いもうとたち一緒いっしょべてげてほしいの、いいかな?」

「そんことぐらい、べつにいいけどさ」

かえでちゃんもみじちゃん、二人ふたりは、そっくりでかわゆくて・・・あ、でもわたし、どっちがどっちだかわからないんです」

「そうだったわね」

「どうしてなつめさんとつばきちゃん、二人ふたり見分みわけること出来できるの?わたしだけわからないなんて・・・」

 とあやめがふくれる。

「つばきが二人ふたり見分みわけてることに、かえでもみじよろこんでたわ」

「もしかしてこつとか・・・なにかあるんですか?」

「それは・・・まだ内緒ないしょよ」

「えー、おしえてくれないんですか!?」

「ごめんね」

「ぷぷぷぷっ、残念ざんねんだったな、あやめ」



  ピピッ、ピピッ



ねつ血圧けつあつも・・・問題もんだいなしね。それでは検査けんさきましょうか」

 看護師かんごしあとについて、検査けんさかうなつめ。

「つばき、あやめ、こんどは学校がっこうおうね」

「またな、なつめ」

「なつめさん、つぎうのをたのしみにしてます」

 検査けんさかう、なつめのうし姿すがた見送みおく二人ふたり。それがなつめとった最後さいごで、最後さいご会話かいわだった。

 このよる──

 病院びょういんほのおつつまれた。その火災かさいにおいて、なつめはおくれ、ただ一人ひとり犠牲者ぎせいしゃとなったのだ。そのことに、つばきとあやめは、当時とうじ、なつめの叔父おじでもある鬼刀きとう 礼二れいじ抗議こうぎした。あたまく、だれよりもつよかったなつめが、ぬなんてありないと。そのうえ遺体いたいもなかったこと不自然ふしぜんだとおもったのだ。

 病院周辺びょういんしゅうへん山林さんりん捜索そうさくねがるも、そうそうにられる。というのも身内みうちである鬼刀きとう 礼二れいじ捜索そうさくめたからだった。



  もう・・・なつめはんだのだ!



 その一点張いってんばりで、捜索そうさく再開さいかいすることはなかったのである。



「ほんとだね、なつめちゃんがたのごとするなんて、一人ひとりなんでも出来できひとだったから・・・」

「それにしても、いまだにあやめは、かえでもみじちがいがわからないもんな、きひひひひ・・・」

 うつむきかなしいかおをするあやめを、つばきがからかう。

「あー、にしてるのに、つばきちゃんおしえてくれないんだもん」

「あれはかえでおもえばかえでで、もみじおもえばもみじさ」

「それっておもみで、こたえになってない」

「そうだっけ」

「ふふふふ」

 とあやめ。

「へへへへっ」

 と二人ふたりしてわらうが、不意ふい真剣しんけんかおをするつばき。

「あやめ、たのみがある」

「わかってる」

 あやめは、わかっていた。

 のろいを解呪かいじゅしなければ身代みがわりとなり、かえでもみじのろいをがせることに、つばきが納得なっとくするはずがないと。

 かえでもみじには、特別とくべつ能力のうりょくがあった。ものたいする病魔びょうまどく、そしてのろいなどを、体内たいないんでふうじること出来できる。しかし、それは万能ばんのうではない。それはやがて限界げんかいむかえ、自身じしんへとりかかるものだった。



  ソロー・・・



「まあ・・・すこしは成長せいちょうしているようだの」

 かえろうとしていたつばきの祖母そぼだが、にわ二人ふたりるのを見掛みかけ、物陰ものかげから様子ようすうかがっていた。

 このから、つばきとあやめは二手ふたてかれ、よるまちまわる。あやかしの情報じょうほうると、そこへかう。そこで遭遇そうぐうする餓鬼がき小物こものあやかしをたおすも、化蜘蛛ばけぐもかんする手掛てかかりをことはなく。それでも二人ふたりは、けるまでけた。

 そうして二日ふつかぎ、五日いつかぎると疲労ひろう寝不足ねぶそくのせいか、学校がっこうてもている二人ふたり

「つばきちゃん、あやめちゃん、おひるだよ!」

 昼食ちゅうしょく時間じかんになってもていた二人ふたりを、斗鬼とき 桃香ももかこしてげる。

「ん?ひるか・・・」

「ふあー、こしてくれてありがと・・・おやすみなさい・・・スー、スー」

 寝惚ねぼけているのか、あやめは、またねむる。



  ジィ・・・・・・



 小等部しょうとうぶ屋上おくじょうから、つばきらの教室きょうしつのぞかえでもみじ

馬鹿ばかね、闇雲やみくもさがしても、化蜘蛛ばけぐもつからないのに」

「わざわざのろいをかけてまで、遠回とおまわしなことするからにはなにかあるわ。それまでちましょ」

 そう予見よけんしていたかえでは、つばきにさずにいたのだ。

 のろいが成就じょうじゅするまえよる──

 つばきは出掛でかける準備じゅんびをして、玄関げんかんようとした。それをめる、つばきの祖母そぼ

「つばきて、いま大事だいじ連絡れんらくがきた!」

なんだよ、こっちも大事だいじようがあるんだぜ」

「わかっておる」



  ♫♫♪ ♫♫♪ ♪♪!



 つばきのスマホがった。

なんだ、あやめか?」

いますぐ、こっちへて!」

 あわてた様子ようすのあやめだった。

「こっち?こっちってどこだよ」

「だからいえいえだよ!」

「いいけどさ、なにかあったのか?」

「あったから電話でんわしてるの!」

「で、なに?」

「だから化蜘蛛ばけぐもから、連絡れんらくがきたってってるの!」

なにっ!?今時いまどきあやかしもスマホ使つかうのかよ!」

 ちがったところに、つばきは驚嘆きょうたんする。

「もう、つばきちゃんの馬鹿ばか!いいからはやてよ!」



  ピッ ツー、ツー・・・



 一方的いっぽうてきに、あやめは通話つうわってしまうが、つばきの祖母そぼにも、おなじような電話でんわがきていた。

馬鹿ばかなことってないで、はやかんか!」

なんだよ、二人ふたりして馬鹿馬鹿ばかばかって・・・どうしてそんなにおこってんだ」

 なぜおこられるのかと、つばきはおもいつつ、あやめの屋敷やしきへといそぐ。



  スタコラッ スタタッ



 玄関口げんかんぐちっていたあやめから、こと経緯けいいき、がっかりするつばき。

なんだ、手紙てがみかよ・・・」

 それはあやめも化蜘蛛ばけぐもことさぐるため、また、よる公園こうえん出掛でかけようとしていた。



 すこまえ──

準備じょんびよし、出掛でかけるとしますか!」

 いつもの格好かっこうに、いつものゆみ矢筒やづつたずさえ、玄関げんかんて、屋敷門やしきもんかう、あやめ。



  ・・・スタスタスタ ピタッ



なにかな、あれ?」



  ヒラリ フワリ



 ちゅうものづく。

あやしい・・・」

 よくれば、めぐらした蜘蛛くもいとつるしてある。

かみ・・・手紙てがみかな、どうしよう。つばきちゃんならすぐるんだろうけど」

 るからないかまよう、でもになる。

「むむうー・・・」



  ジトー・・・



 しかし、あやめはながめるだけ。そうしている姿すがたを、ふと見掛みかけたあやめの祖母そぼ

「あやめ、そこでなにしてるんだね」

「お祖母様ばあさま!」



  コレコレ コウコウ



 説明せつめいすると、祖母そぼう。

「だらしないだね、んでもらいたいのだから、そうしているんだろうに。さっさとってなさい!」

「ええっ、わたし!?」

「ほかにだれるんだね」



  キョロ キョロ

  ソロリ ソロリ・・・



 左右さゆう確認かくにんして、おそおそちかづく。



  バッ、クルリン ダーッ



 手紙てがみつかむと、一目散いちもくさんもどった。

 そして手紙てがみには、こうかれていた。



  “○○○ちょう かごみ第八区だいはっく ○○番地ばんち


   34番倉庫ばんそうこ 明日あす 午後十時ごごじゅうじ


   つばき あやめ 両名りょうめい られたし


         のろいをかけた蜘蛛くもより„



「どうするつもりだね?」

 あやめの祖母そぼうと、つばきはまよわずこたえる。

くにまってる」

わなだよ」

「だとしても、けば化蜘蛛ばけぐもえる。のろいをくチャンスだぞ!」

「そうだけど・・・」

「それにご指名しめいとくればくっきゃねー」



  パシッ



 こぶして、つばきはたたか気満々きまんまんである。

安心あんしんしなさい、私達わたしたちくつもりだから」

ってくれよ、ありがたいけど・・・こうは二人ふたりいとってる。それに祖母ばあさんたちたら全力ぜんりょくたたかえない」

「つばきちゃん!」

「わかってる、でもいってうからには、化蜘蛛ばけぐもに・・・なんらかのさく勝算しょうさんがあるってことだ。だったら・・・そのうえを越《こ

》え上回うわまわるには、あのちからしかない」

「そうだね、そのちからたよことになるかもれぬ」

「お祖母様ばあさま・・・」

「どっちにしろ・・・つばきにしたって、あやめがあぶなくなればまよわずちから使つかう。そしてあやめも、つばきをたすけるためなら、ちから使つかうはずでしょ」

「それは・・・」

ただしだね、あまりぶっんだことされてはこまるよ。あと大変たいへんだからね」

「わかってるって、なつめみたいに上手うま出来できるかわかんないけど・・・あやめが一緒いっしょならなんとかなるさ。な、あやめ」

「しょうがないな、つばきちゃんをてるひとないと、なにするかわかんないからね」

「それだと、わたしがいつもひと迷惑めいわくかけてるみたいじゃないか!」

ちがうってうの?だったらってみようか・・・たしか、あれは幼稚園ようちえんときだったかなあ。トイレのことおぼえてる?つばきちゃん」



  ニタ ニタ



「わーっ、わーっ、わかったわかったから、もういいよ!」



  カー・・・



 われておもしたのか、つばきはかおあかくする。このあと二人ふたりは、あやめの祖母そぼともはなってめた。連夜れんやつかれと寝不足ねぶそくいやすため、つぎ学校がっこうやすむ、つばきにあやめだった。



  キン コン カン コン・・・



 翌朝よくあさ学校がっこうのホームルームの時間じかん

「えーー、鬼門おにかどさん、鬼龍院きりゅういんさんはおやすみです」

 担任たんにんが、そうつたえる。

「つばきちゃん、あやめちゃんやすみなんだ」

 いているせきて、斗鬼とき 桃香ももかつぶやいた。



  ・・・カチ カチ カチ カチッ



 そうしてよる──

 倉庫そうこなら区画くかくを、つばきとあやめがあるく。



  ・・・スタ スタ スタ



 今夜こんやも、フードきパーカーにデニムのショートパンツとスニーカーのつばき。そしてこしベルトにかたなす。あやめも巫女みこ身形みなりに、ゆみ矢筒やづつたずさえる。ならんである二人ふたりだが、つばきにはになることがあった。



  ジロ、ジロー



 あやめも、になることがあった。それは、つばきの視線しせん



  ジィー



「・・・」

 たまらずに、あやめがう。

「つばきちゃん、さっきからになるんだけど」

「うーん、いていいか?」

「なぁに?」

「いつもの矢筒やづつはわかるんだけど・・・もうひとつの矢筒やづつって・・・いいつくりだとおもってさ」



  ギク



 ふたつの矢筒やづつ用意よういして、あやめはってていたのである。

「それにはいっているも・・・いいものだし、ってよ」



  サワ



「ひゃっ!?」



  サワサワサワッ



 あやめの巫女みこふくを、つばきはたしかめるようにさわる。

「どうしたの?きゅうに・・・」

今日きょうかぎってか・・・全体的ぜんたいてきにいいものだよな」



  ドキッ



「そうかな、たまたまあたらしく仕立したてたのをたんだよ」

「で、いくらだ?」

「えーと・・・なんだっけ?」

矢筒やづつ矢筒やづつだよ」

かな・・・」

「ほんとか?」

 わそうとしないあやめに、つばきはかおちかづけせまる。



  グイ、グググ・・・



二十にじゅう・・・だったかなあ」

「に・・・にに、二十にじゅう!?」



  カチン、コチン



 おどろかたまるもなおし、さらにう、つばき。

は?」

一本いっぽん一万三千いちまんさんぜんです。税別ぜいべつだけど」

 いいつくりの矢筒やづつには、十本じゅっぽんほどはいっている。

「これは?」



 パサ



 巫女みこふくそでを、つばきはつまむ。

うえしたで、あ、でもやすくしてもらったんだよ」

「いくら?」

はち・・・まんだったような」

「それで?」

「え、なに?」

「ほかにもあるんだろ?」



  ジーーーーーイ



 つばきの目線めせんが、あやめの足元あしもとく。

「ああー、これは・・・足袋たびいちで、草履ぞうりだとおもう」



  二十・・・十三・・・八・・・一・・・二


  チャリチャリ チャリンッ ¥¥¥



なんだとーっ!」

 その金額きんかくに、つばきはこえげる。

「これ全部ぜんぶ・・・お祖母様ばあさましてもらったものだから、わたししくてったわけじゃないよ」

「こっちは昨日きのう、あやめの祖母ばあさんにたのんで、研師とぎしかたないそぎでやってもらった代金だいきん自分じぶんしたんだぞ!」

「そうわれても・・・」

「さてはっ!?」



  ズボッ ズボッ



なにするの、つばきちゃん!?」

 突然とつぜんと、つばきは、あやめのふくなかんだ。

なかは、普段ふだんいつもけてるものだよ!」



  サワッ、サワサワ・・・



「もう、やだーっ!」

 あやめがきべそをかくも、無視むししてなかをまさぐるつばき。

かえったら、ぎの代金返だいきんかえしてもらうからな!」



  バシッ



 こぶして、そう決意けついするつばきに、着付きつなおすあやめがさけぶ。

「つばきちゃんの馬鹿ばかーっ!」

 それからというもの、あやめはつんけんした態度たいどで、つばきとはくちかない。

「そろそろ機嫌直きげんなおせよ」



  プイッ



「ふん・・・」

 そっぽをかお正面しょうめんまわり、あやめにわせ、ゆるしをこうつばき。



  サッ、パンッ



ゆるしてくれ、あやめ」



  プイッ



「ふんだっ」

 またそっぽをくと、あやめは、つばきをいてあるす。



  スタ スタ スタ



「だったら、あやめがゆるしてくれるまで、ここうごかないぞ!」



  ドデーーン



 あぐらをかいてすわむと、かたなたせつ、つばき。それでもあやめは、意地いじ無視むしする。



  ツン・・・



「・・・」



  ガシャン!



 なにかが、地面じめんおとがした。



  ・・・ピタ



 まると、すこにしてかえってる、あやめ。



  クル



「つばきちゃん!?」

 つばきがむねさえ、まえのめる。



  ダダッ



「やだよっ、しっかりしてつばきちゃん!?」

 あわててり、心配しんぱいであやめは、つばきのかおのぞく。

「なぁーんて、ひかかってやんの」

 したりかおのつばきに、あやめはがる。



  スク・・・



うそついたんだ」

 つばきもつと、こしベルトにかたなす。

「こうでもしないと、口利くちきいてくれないじゃん」

 


  クルリ



 あやめは、けた。

今度こんど・・・こんな真似まねしたら、一生口利いっしょうくちきかないんだからっ!」

 だが、あやめはわかっていた。しわになるほどのあとが、ふくについていたこと。もうつばきに、時間じかんせまっていることに。ようやくなんとかゆるしてもらったつばきは、あやめととも目的もくてき倉庫そうこかうのだった。

「つばきちゃん・・・いていい?」

きゅうにどうしたんだ?」

蜘蛛くもあざは、いま・・・どうなってるの?」

 まだ不安ふあんなのか、あやめはたしかめる。

「あれ・・・あさむねのことにあったけど、さっき着替きがえてたときはなくなってた」

えた・・・ってことないよね」

「・・・ないんじゃないか、あやめの祖母ばあさんのとおりなら、もう心臓しんぞう到達とうたつしてて・・・いまかと心臓しんぞうやぶろうとしたりして!」

「もうっ、そんな心配しんぱいさせるようなことわないでよっ!」

心配しんぱいすんなって、ここで化蜘蛛ばけぐもたおせば・・・なんとかなる。あやめが一緒いっしょだからな」

「うん、そうだよね。やっぱりわたしないと・・・つばきちゃん一人ひとりだと無理むりだからね」

なにっ、それだと一人ひとりじゃ、なに出来できないみたいじゃないか?」

「そうだよ」

 さっきの仕返しかえしに、あやめがからかう。

「こんど一緒いっしょ風呂入ふろはいったら、さわさわしてやるからな」



  ニギ ニギ・・・



 つばきのそのが、ふくをまさぐられる記憶きおくを、あやめのあたまこす。



  ゾワワ



「いーだっ、もうつばきちゃんとは、お風呂ふろはいらないもん」



  ニヒ



「いいのか、だったら・・・もう頭洗あたまあらってやんないぞ」

「うっ、ずるい!」

 じつは、一緒いっしょ風呂ふろはいるとつばきにあたまあらってもらうことが、あやめのたのしみだったのだ。そんな緊張感きんちょうかんのない会話かいわをしているうちに、34番倉庫ばんそうこまえ二人ふたり

「ここか?34番倉庫ばんそうこって・・・」

 しろかれた番号ばんごうあおる。まえの、おおきなシャッターはひらきそうにもない。

「どっからはいるんだ?」

「あっちじゃないかな・・・」

 あやめの方向ほうこうすみひと出入でいりりするドアがあった。



  ガチャ・・・



 そのドアは、かぎかっておらず。



  ・・・ギギィー



 簡単かんたんひらくと、倉庫内そうこないあしれるつばきにあやめ。



  トコ トコ トコ



 黒闇くらやみなかを、二人ふたりあるく。



  ガチャンコッ!



 勝手かってまるドア。



  ドタドタドタッ



 あやめはあわててもどり、ドアノブをまわす。



  ガチャ、ガチャ・・・



かないよ、つばきちゃん!」

わな定番ていばんだな・・・」

 あやめは、おもちからめた。



  グ、ググゥ



「ふにゅにゅうー!」



  バキンッ!



 れる、ドアノブ。

「あちゃー・・・」

心配しんぱいすんなよ、すぐにられるってあやめ。だから・・・絶対勝ぜったいかつ!」

「そう・・・だね、てばられるよね」



  コトン



 そっと地面じめんにドアノブをき、小走こばしりにあやめは、つばきにあゆる。



  トタタタッ



化蜘蛛ばけぐもてやったぞ!」

 わざと大声おおごえげて、つばきはらせる。

「ヨクタネエ」

 うえ天井てんじょうからこえがする。

ようってなんだ?」

「クッククク・・・のろイヲイテヤロウトッテルノダヨ」

「そんなことって、なにうらがあるんじゃないんです?」

たしカニ・・・ホカニ理由りゆうガアルカラシタノサ」

「へえ、その理由りゆうってなんだ?」

 つばきが、なんとなくいてみた。

「オ前達まえたち心臓しんぞうラエバ、おにちからこと出来できルソウダ」 

「そんなもないこと、だれってるんです?」

 あやめが、否定ひていする。

「フホホホ、ラナイトデモおもッテルノカイ。鬼門おにかど ツバキ、鬼龍院きりゅういん アヤメ、鬼刀きとう かえで二椛もみじ・・・オ前達まえたちハ、おにイテイルノダロウ?」

「なぜ、っている?」

 つばきが、かえす。

「ソレハ・・・オ前達まえたち人物じんぶつ、カラタモノ」

 二人ふたりが、さきおもいついた人物じんぶつ、それは鬼刀きとう 礼二れいじだった。

「あの野郎やろう・・・」

「あのひとぐる、そんな・・・」

わたしハ、おにちから二興味きょうみハナイ。ソレニ心臓しんぞうラッタトコロデ、おにちからことナド、出来できナイことグライワカッテイル」

「なら、どうしてのろいをかけて・・・ここへしたんだ?」

「オ前達まえたちヲ、ころセトワレテネエ」

「くそっ、裏切うらぎったのか!」

「・・・」

 その事実じじつに、あやめは言葉ことばない。

「ドウダイ二人共ふたりともわたし配下はいかニナルナラ、のろイヲイトヤラヌことモナイゾ。おな化物同士ばけものどうし・・・仲良なかよクヤロウデナイカイ」

「それは後免ごめんだ!」

 つばきは、まよわずことわる。

「つばきちゃん・・・」

「それにだ、わたしやあやめ、かえでもみじ人間にんげんだ!おまえのようなやつ・・・化蜘蛛ばけぐもしたにつくつもりはない!」

「ホウ、デハヌノヲツカ?トッテモ時間じかんハナイガネ・・・」

「いや、つなんてことはしない。おまえを、いますぐぶっばしてのろいをかせてもらう!」

出来できルノカイ、いまノオ前達まえたち二・・・ヒィッヒヒヒヒヒ!」

 あやめが、る。



  ビュン



 かわ化蜘蛛ばけぐも



  ガサッ



 つぎは、連続れんぞくる。



  ビュン、ビュン



 しかし、巨体きょたい似合にあわず化蜘蛛ばけぐもは、天井てんじょう周囲しゅういったいとつたい、びんしょうにかわす。



  ガザザッ



「ナカナカ正確せいかくダ、暗闇くらやみデモエルノカイ。ソレハおにセルモノナノカエ、クククッ・・・」

 ひとでは、限界げんかいがある。おにちから解放かいほうすることで、つばきとあやめは、暗闇くらやみなかにおいて化蜘蛛ばけぐもとらえていたのだ。



  バァサッ



 突如とつじょ倉庫内そうこないげられた荷物にもつから、すつばき。

「であああっ!」



 化蜘蛛ばけぐもかってかり、不意ふいつ。



  ブオッ



あまイッ!」

 はなつと、化蜘蛛ばけぐもしりが、つばきにけられる、つぎ瞬間しゅんかん



  ボシュン



 しりからいとはなたれる。

「!」



  ドバアッ



 はなたれるいといきおいで、つばきは天井てんじょう蜘蛛くもりつけられた。あやめの注意ちゅういき、そこから化蜘蛛ばけぐもかって、一気いっき仕掛しかける戦法せんぽうだった。

残念ざんねんダッタネェ」

「つばきちゃん!?」



  グ、グググッ・・・



なんだ、れねえ!?」

 いとがへばりつき、蜘蛛くもからせない。

「マダマダイクヨ、ホラッ!」



  ボシュ、ボシュンッ・・・



 またいとはなち、身動みうごきがれないよう、つばきをりつけかためる。だが、そうさせまいとあやめが、もうひとつの矢筒やづつから取《と

》り、ゆみをつがえ──



  キ



 ──



  ヒュン



タラナイネェ」

 ける必要ひつようもなく、れる。



  ババッ



「はっ!」

 両手りょうてをかざすあやめ、その瞬間しゅんかん



  ビタ



 ちゅうまる。



「やあああ、はっ!」



  ブンッ



 化蜘蛛ばけぐもかって、両手りょうてろした。



  ビビュンッ



 まっていたが、化蜘蛛ばけぐもを射《い

》る。



  ビシィ!



 不意ふい攻撃こうげき反応はんのうおくれ、化蜘蛛ばけぐもにかすりきずわせた。

はずれた?」

「オヤおどろキダネェ、ソンナ芸当げいとう出来できルノカイ」

「それなら・・・」

 つぎ二本にほんち、ゆみにつがえると、あやめは同時どうじる。



  バビュン



 左右さゆう二本にほんあやつり、化蜘蛛ばけぐもまどわす。



  バッ ヒュン


  バ、ババッ ヒュヒュン 



「くっ・・・」

 かなり酷使こくしするのか、あやめはしばる。

「もうめろ、あやめっ!」



  ・・・ポタ ポタポタ



 からながれる、なみだ操作そうさあやまったのか、一本いっぽんの矢《や

》が大きくれる。



  ヒューーン



「げげっ、こっちる!?」

 れたが、つばきをる。



  ドスッ



 は、つばきをかすめた。

あぶねえ・・・」

「ドウヤラ限界げんかいノヨウダネェ」

「まだ・・・まだ頑張がんばれるも!」

 それでもあやめはり、もう一本いっぽんあやつる 。 

「あやめのやつ無理むりしやがって・・・」



  シューー・・・



 がかすった箇所かしょさった周辺しゅうへん蜘蛛くもいとを、かししていたのだ。そのいと変化へんかに、つばきがづく。

「(いとが・・・けてる!一本いっぽん一万三千いちまんさんぜん効果こうかか?税別ぜいべつだけど・・・これならいけるぞ!)」

おにちからトハ、ソノ程度ていどノモノカイ?よわイネエ・・・」

 とあやめのほう意識いしきき、化蜘蛛ばけぐもはつばきをける様子ようすもない。すると、さらにおにちから解放かいほうする、つばき。



  ズア



 かみ変色へんしょくし、ひとみけもののようなわる。

「そっちこそ、なめるなっ!」



  ビリッ、ビリビリッ


 ふうじられていた蜘蛛くもいとから、つばきはやぶる。

「ホウ、ソウタカ!」

 だが、またしりをつばきにける化蜘蛛ばけぐも

「させないっ!」



  ズア



 あやめもおにちから解放かいほうする。つばきとおなじくかみ変色へんしょくし、けもののようなわる。かざすから、半透明はんとうめいかれる。と瞬時しゅんじ半透明はんとうめいゆみにして、ゆみをつがえる。



  ボシュッ、ボシュンッ、ボシュンッ!



 化蜘蛛ばけぐもが、つばきにいとはなつも、それよりはやく、あやめがる。

鬼火玉おにびだま!」



  ビュボッ



 はなたれるは、あおたまとなり、一瞬いっしゅんいとはらう。



  ボボオオオッ



馬鹿ばかナ!?」

 化蜘蛛ばけぐもおどろひるすきに、天井てんじょうぶつばき。



  ドンッ



「これでわりだっ!」

「マダワリジャナイヨ!」

 化蜘蛛ばけぐもは、いとはなとうとする。



  ドス


いとガ・・・ナゼ?」

 いとはなこと出来できない化蜘蛛ばけぐも。だがづく、あやめがあやつっていたしりさっていることに。



  ドシュッ



 つばきは、化蜘蛛ばけぐもかたなす。



  ギャアアア!



  ブチッ ブチブチッ・・・



 突如とつじょ足場あしばいとやぶれ、地面じめんちるつばきに化蜘蛛ばけぐも



  ドドドーーン



 暗闇くらやみに、土埃つちぼこりがう。

「つばきちゃん!?」

「いててて・・・げほっ、げふ、ふー・・・大丈夫だいじょうぶだ」

 あやめにかって、ゆっくりとあるくつばき。



  トコ トコ トコ



滅却完了めっきゃくかんりょう!」

「やった、つばきちゃん!」

 二人ふたりは、なんとか化蜘蛛ばけぐもたおし、つばきはのろいをいたのだった。







 







 


  






 









 









  




   































 













  







 






  







  














 



   




  



 






  










 


      







 




  
























 





 



 





 


 




 


 






 









 



 



  




  

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