僕の尻(ケツ)が乾くまで。

捺椰 祭

あらすじ

 ※ 以下、ネタバレあり。


▼第一幕 陽炎

 自殺を考える若手サラリーマンは、会社の屋上から飛び降りる寸前、突如として現れた便器に座る男とであう。自殺を止めるわけでも無く、男は話を聞きたいのだという。話すうちに男は自殺をやめることを決め、一度捨てた命の使い方を考える。

 便器の男は「トイレをきれいに使うように」と言って消えていなくなる。


▼第二幕 紫陽花

市営図書館で便せんを広げる少女は、愛する人への手紙を書きかねていた。そこに突如として現れた便器に座るスーツ姿の変態は少女にゲームを持ちかける。話を聞かせてくれる代わりに、十五分後に目の前から便器ごと一瞬にして消えるというのだ。雨のある日、トイレの神様を自称する変態は、少女の話を聞く。


▼第三幕 リノリウム

 裕福でない家庭に育ち、今では掃除を生業とするカリスマ社長の児島孝明は、幼少時代を振り返る。彼が初めて友達になった、『といれのようせいさん』は突如として狭い家の中に現れた。頭も悪く、上手に話もできず、友達もできなかった少年が自分の力で成長するサクセスストーリー。


▼第四幕 猟豹

 尊敬する祖父が寝たきりになり、介護の問題で少女の家族は壊れつつあった。どうしようも無い状況を絶望しつつ、誰もいない家に帰るとトイレの中から物音が

する。トイレの神様を自称する不法侵入者は、少女のどこにでもある絶望の話を聞きたいのだという。

 会話の中で少女は気がついてしまう。自分が祖父は死を求めていることを。


▼第五幕 菊の花束

 公園の噴水の縁に腰掛ける六十過ぎの男はハイカラな菊の花束を脇に時間を潰していた。すぐそばのベンチに座った男に話しかけられ、身の上話を始める。話の中で熟年離婚してだいぶ会っていない元妻に逢いに行く決心を固め、男を見るとベンチではなく便器に座った男がいた。六十過ぎの男は花を抱えて妻に逢いに行く。


▼第零幕 白磁 (ネタバレ!)

 楽しいサラリーマン生活に一抹の空虚さも感じていた『僕』は、誰かのためになる仕事をしたいと考えていた。そんな折、トイレの個室の異常空間に幽閉され、自称トイレの神様に「トイレの神様を布教するためのトイレの神主になれ」と言われる。悪魔の契約は履行され、ひょんなことから僕は『便器ごとワープして悩んでいる人の話を聞く』移動式の懺悔部屋のような体質になってしまった。


▼君の心を満たすまで。 (エピローグ)

 第一幕で自殺しようとしていたサラリーマンは会社を辞めて戦場のカメラマンとなっていた。片方の目は潰れ、何本か指が無い有様になってしまっても彼は後悔していない。来日は個展のためだが、目的は二つある。一つはお金を稼ぐこと、一つはどこにいるかわからない便器の男に感謝を表明することだ。

 言いつけを守り「トイレをきれいに使っていること」をどこかにいる彼に伝えたいための『世界のトイレ』の個展だった。たまたまはいった空港のトイレで紙を切らした悲痛な声をきく。

 ドア越しの個室の中の男に、懐かしさを感じ「あなたがトイレの神様か?」と問おうとしてやめる。

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