こんにちは、ドッペルゲンガーさん。

いっくん

プロローグ こんにちは、ドッペルゲンガーさん。

 ピピピ、ピピピ、ピピピ……

 

 「んっ……」

 

 ピピピ、ピピピ、ピガチャ……

 

 「ふぅ、後五分だけ、おやすみ……」

 

 ピッピッピッピ、ピッピッピッピ、ピッピッピッピ……

 

 「あー、もうわかったわかった…」



 

 目覚まし時計の音ってなんでこうも人を不快にするんだろう。ただの単音の連続なのに。


 仕方なく体を起こし、いつものようにもう一つの目覚ましも止める。


 

 「ふぁぁぁぁ……。おーい一葉、朝だぞー」


 「んー、後五分だけ、おやすみ……」


 

 バシッ!

 

 「いったぁ!なにするの」

 

 布団に再び引きこもろうとする私の頭を遠慮のない平手打ちが襲った。

 

 「私だってあんたの目覚ましのせいで起こされたんだからこれでおあいこよ」

 

 「全然おあいこじゃなぁい!」


 

 「はぁ、ほんと私達って全然似てないよね」

 

 「ん?どゆこと?」

 

 「なんでもない。それより、今朝の朝食当番は誰だっけー?」

 


 私の方を見ながらわざとらしく言う姉の双璃(ふたり)。


 そして今朝の当番が私だったのを思い出すのに3秒ほどかかった。


 

 「あ、あのですねっ、これにはちゃんとした理由がありまして……」


 「へぇ?怒りの鉄槌を下す前に一応理由を聞こーか」


 そう言いながら双璃は握りしめた拳を見せつけるそぶりをした。



 「き、昨日は夜遅くまでバイトしてまして、いつもより帰りが遅かったのですよ。だから疲れちゃって、ハハハ……」


 「それで、家に帰ってきた後は布団で何してたんだっけ?」


 「ユーブーブを見ていました…。あっでもね?これは私にとって大事な日課だから、だれにもこの至福の時を阻止することはできぃっ!?」


バシッ!!!

 

 言い終える前に鉄槌が下った。


 

 「日付変わっても3時間以上動画見つづけてるバカは一葉くらいよ」


 「何言ってるの?!ネコ動画は癒しだから!5時間でも10時間でも見てられるからっ!」

 


 「いや、そこで熱弁されても困る」

 

 「あ、ごめん……」

 

 「まぁいいや。とにかく今すぐ作ってよ。簡単なものでいいから」

 

 「か、かしこまりましたっ!」

 

 

 そういって、私はバタバタと台所へ向かう。

 って言っても、隣の部屋だけど。

 

 家賃4万、最寄り駅徒歩10分の1K。

 


 2人で住むにはちょっと狭いけど昼間はお互い学校だし、放課後はバイトだからぶっちゃけそんなに部屋にいる率高くないし、なんならお金ないし。


 そんなわけで私、黒木一葉(かずは)と姉の双璃(ふたり)でこの狭い部屋に同居しているのだ。




 「ねぇ、私のファンデ使ったー?」


 リビングから双璃の声がした。


 「んー、使ってないと思うよー」


 「えー?あっ、ごめん、あった」

 

 女子高生といえど、今どきの子はほとんどメイクをして学校へ行く。


 もちろん、教師たちにバレない範囲でだけど。


 

 「はーい、朝食できましたよー」

 

 ちょうど学校を出る準備ができたタイミングで、双璃が小さな楕円テーブルに二人分の朝食を並べ始めた。今朝はスクランブルエッグにトースト、それからコーヒーだ。

 

 「わぁ、今日はザ・洋風朝食だね」

 「これが一番簡単に手早くできるからねー。ささ、コーヒーが冷めないうちに食べよ」

 

 二人ともまずはコーヒーに手を出す。


 双璃は砂糖とミルクをたっぷり入れるのがいつものパターン。それに対して、私は何もいれない、完全ブラックだ。別に甘いのが嫌いというわけではないが、朝はこのほどよい苦みが脳をフル起動させる燃料になるのだ。賛否両論はあるのだろうが。

 

 「うん、朝のこの時間はほんとスキ」

 「それも料理上手な私のおかげだね!」

 

 と自慢げに無に等しい胸を張る双璃。

 

 「えぇ、そうね……。もう少しゆっくりこの時間を満喫できたらもっと幸せだったんだろうけど」

 「あ、アハハハハ……、次はもっと早起きするから許して?」

 「はぁ。まぁ、このおいしい朝食に免じて今日は許してあげる」

 

 普段からマイペースでふわふわしている私だけど、料理は普通に上手な方だと思う。

 

 「で、一葉は今日もバイトあるの?」

 「んー?ひょうはほふじはんふぁであふひょ」

 「いや、何言ってるか全然わかんないから。飲み込んでからしゃべって」

 

 女子のかけらもないな、この子……。

 

 「ごくんっ。今日は夕方の6時半から。終わりは10時くらいかなー」

 

 「そう。それじゃぁ今日は夕食いらない?」

 

 「うん。って、双璃は今日バイトないの?」

 

 「あるけど、本屋だから賄いないし」

 

 「そっか。それなら私が何かバイトから持って帰ろうか?」

 

 「いやいやだめでしょ普通に。それに一葉のとこ、テイクアウトないよね?」

 

 「ははは、よくご存じで。冗談でーす」

 

 イラァッ。こいつ、一度顔面にマーガリン塗りたくってやろうかな……。


 

 「「ごちそうさまでした」」

 

 私たちは協力して皿洗いを手早くすまし、順番に歯磨きをした。

 

 「さて、それじゃぁ、そろそろ学校行こうかな」

 

 「え、ま、待って。私まだメイクも着替えも……」

 


 「じゃぁ、今日はバラバラで登校ってことで」

 

 「ちょ、ちょっと待って。いや、待ってください、双璃様!私、まだ学校までの道覚えきれてないんですけど!?」

 

 「それなら心配いらないわ。このや、さ、し、い、お姉さんが助けてあげるから」

 

 そう言って、双璃はおもむろにスマホを取り出し、手慣れた手つきでそれを操作した。

 

 ピロンッ

 

 「ん?なにこれ…地図?」

 

 「それ、学校までのルートマップだから。それなら、方向音痴のあなたでもなんとか間に合うんじゃないかな…二限目には?」

 

 「い、いやいや、一限間に合わないの確定みたいに言わないで!一限、古典の鬼頭先生だから、絶対遅刻できないやつだから!」

 

 「それじゃぁまた後でね。一葉、ちゃん?」

 

 「え、待って、ほんとに置い……」

  

 ガチャ。

 

 私はガチで慌てた彼女を置いて、ササっと学校へ向かった。





 キーンコーンカーンコーン


 「よーし、じゃぁ、授業はここまで」

 

 ガラッ

 

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、……」

 

 一限終了とともに、今朝見捨てた双璃が息を切らせて教室へ入ってきた。

 そして、膝に腕を付いて、呼吸を整えながら、横目でこっちのほうをジッと睨んできた。

 

 「はぁっ、はぁっ、一葉っ、はぁっ、あんたっ、覚えてなさ……」

 

 「おい、一葉。俺の授業に遅刻とはいい度胸してるなぁ。この後職員室来なさい」

 

 「ひぇッ!?」

 

 ものすごい形相の鬼頭先生に圧倒されて、完全に固まってしまった一葉。

 

 そんな彼女に、なんとか笑いを抑え、声には出さず口だけで一言。


 『ご愁傷様、ドッペルゲンガーさん』

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こんにちは、ドッペルゲンガーさん。 いっくん @ikkun4869

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