人間の評価は口コミで決まる!?

ちびまるフォイ

口コミなんてなくなってしまえば!

「はあ……これで50社めも落ちたか……。

 せっかくいい感じの会社の口コミだったのに……」


新社会人になって入った会社はすぐやめてしまった。

次こそはちゃんとした環境の職場をと口コミを参考に就職活動をしているが、

いまだに日の目を見ないまま澱んだ日々を過ごしている。


「あれ……? これは?」


ふと、目についたサイトを開いてみると

そこには自分の名前や他の人の名前がずらりと並んでいた。


【 人間口コミ 】


「こんなものがあるのか……」


自分の名前を選ぶと投稿数は3件。


-----------

山田太郎(3)

-----------

★★★☆☆

いい人です。優しいし思いやりがあります。


★★★☆☆

誰にでも人当たりがよくて穏やかです。


★★★☆☆

悪い人ではない。



自分の口コミを自分で見た第一印象は「パッとしない」だった。

せめて自分を変えていこうと街に出ると、街では誰もがなにか投稿していた。


小さい画面を覗き込むような前傾姿勢で、一心不乱に指を走らせている。


「みんながみんな誰かを評価しているんだ。

 3件なんてしょぼい口コミじゃダメだ。自分を磨かなくちゃ!」


引きこもりがちだった自分を見直して、

セミナーに参加したり、起業家たちの集いに顔を出したり

普段行かないような集まりにも率先して参加するようになった。


とくに気をつけたのは「けして悪口を言わない」ということだった。


「ほんとさぁ、あいつってクズだよな」

「むかつくわ。俺だったら殴ってるね」

「ほんとどいつもこいつもバカだよなぁ」


口を開けば悪口を呼吸頻度で出し続ける人がいた。


その人自身が悪いことをしているわけではないものの、

人からは自然と嫌われ遠ざけられて孤立していく。


それを見ていると良い口コミを増やすためには、

とにかく「他人にストレスを与えない」というのを意識していった。


結果は徐々に現れていった。


「君は本当に熱心に話を聞いてくれるね」

「今度お互いを相互評価し合う集会があるんだ。君もどうかな」

「今の時代に求められるのは君のような存在だよ」


「ありがとうございます!」


「「「 君の口コミを書かせてくれ 」」」


下手なおべっかを使うでもなく自然と周囲に人は増えていった。

いままで一人でやっていた就職活動も仲間や友達が増えてお互いに励まし会うことができた。


「では最終面接をはじめさせていただきます」

「よろしくおねがいします」


「君の口コミを拝見してもいいかな?」


「え……? いいですけど」


「こ、これは! ★5がこんなに! しかもサクラ臭くない! 採用だ!!!」


「いいんですか!? まだ面接はじまって数秒ですよ!?」


「良いに決まっているだろう! こんなにも人から慕われる人間が変なやつなわけがない!」


「ありがとうございます!!」


難航していた就職活動も充実した口コミを紋所のように突きつけて合格をもぎ取った。


「おめでとう。ついに就職できたんだな」


「ああ、みんなのおかげだよ! 本当にありがとう!

 俺は一足先に会社の歯車として頑張るけど、みんなも就職活動頑張って!!」


その日の就職祝賀会は夜遅くまで飲み明かした。

目がさめたときには自分の家で寝ていた。


「いたた……だいぶ飲みすぎたなぁ。……あれ?」


自分の口コミを見ると憎悪に満ちた悪評が飛び交っていた。



-----------

山田太郎(5321)

-----------

★☆☆☆☆

最低な人間です。すぐ暴力を振るいます


★☆☆☆☆

酒を飲むと暴れる厄介な男です。友人の友人が殺されました。


★☆☆☆☆

息がめっちゃくさい


★☆☆☆☆

歩くだけで周囲の草木が枯れる。害獣認定したほうがいい



「なんだよこれ……どうして急に……?!」


誰に恨まれることをしたのだろうか。

悪口も愚痴もぐっとこらえて毎日頑張ってやっと就職をもぎとって……。


「まさか、それが原因か!?」



★☆☆☆☆

こんなやつを採用する会社があったら世も末。

きっと地盤沈下して空から隕石落下して株価暴落。それくらい害悪。



憎悪が見て取れる文面だが犯人が誰かはわからない。

昨日まではみんな楽しそうに笑ってお酒を飲んでいたじゃないか。


『もしもし? 山田さんですか?』


「え? あ、はい」


『採用の件ですが取り消しになりました。

 貴殿のますますのご反映を願ってお祈りしております』


「採用取り消し!? どうしてですか!?」


『お祈りした神が言うには、口コミがえぐかったので……』


「あれは誰かが俺をおとしめるように書いたものですよ!!

 本気にしないでください!!」


『だとしても、それだけ恨まれるようなことをしたのでしょう?

 そういう厄介な人間はいらないです。スネに傷のない

 清廉潔白で七三分けのスーツが似合う人だけがほしいんです』


「そんな……」


口コミで悪評を書いた人間の思う通りになってしまった。

しょうがないと腹をくくって再スタートをはじめる。


「口コミが低いので書類審査はお受けできません」

「口コミが低い人は弊社に入ることはできません」

「あなたの口コミではこの動画を見ることはできません」

「あなたのような口コミでは当店への入店をお断りしています」

「君のような口コミの人はバイト代も半分だから」

「はなちゃん離れて! 口コミが悪い人よ! 危険よ!」


もはや就職活動どころの問題ではなくなった。


俺に刻まれたいくつもの悪い口コミは、

体に刻まれたタトゥーよりも人を遠ざけてしまう。


「口コミなかじゃなくて俺自身を見てくれよ!

 明らかに口コミが嘘だってわかるだろう!!」


「そう言って襲う気よ!」

「口コミにそう書いてあったもの!!」

「はやくこの犯罪者予備軍を吊るして!!」


口コミが悪くなってしまったことで街にもいられなくなった。

借りていた家も大家さんから追い出されてしまい、バイトもできなくなった。


やることといえばもう河川敷でハトの餌やりくらいしか……。


「はぁ……これからどうしよう……」


落ち込んでいると肩にぽんと手が載せられた。


「お困りですか?」


「あなたは?」


「私は口コミ削除人でしてね。あなたのような人の悩みも消しに来たんですよ」


「クチコミ削除人……。え、まさか口コミを消せるんですか!?」


「もちろんです。跡形もなく、完膚なきまでにゼロにします」


これまでに付いたいい口コミも消えてしまうが、

いつも人の目につくのは悪い口コミばかり。相殺などない。


だったら完全にリセットして口コミゼロから再スタートしたほうが、

より俺の本質に近い優しくて思いやりのあるイケメンな口コミが再投稿されるはずだ。


「お願いします! 俺の口コミを削除してください!!」


「かしこまりました。ではいきますよ。きぇぇぇーーい!!」


 ・

 ・

 ・


「ふぅ、これで口コミは消えました」


「ありがとうございます!」


背中に背負わされていた重い悪評をやっと下ろすことができた。

早速試してみようと近くのコンビニに行く。


さっきまでは店員と目があうなりカラーボールを投げられたものだが。


「……あれ?」


自動ドアが開かない。

それどころか後ろから来た人が俺に気づかずぶつかってくる。


「ちょ、ちょっと!」


思わず声をかけたが周りの人はぽかんとするばかり。


「……いま、何か聞こえた?」

「空耳だろ」


「おい! 人にぶつかって空耳はないだろ!?」


「やっぱり何か聞こえた?」

「いいからチキン買おうぜ」


「お、おい! まだ話は……!」


誰もが俺のことを認識しない。

まるで透明人間にでもなったかのように。



"あなたのような人の悩みも消しに来たんですよ"



「まさか……口コミが消えたんじゃなくて……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人間の評価は口コミで決まる!? ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ