第31話「作戦決行」
満と真紀が家でテスト勉強をしていた頃、綾葉、広樹、美咲の三人は裕介の家に集結していた。裕介も加わり、四人はさっそく例の話題に取りかかる。
「全員集まったわね?」
「集まった~」
「ったく、なんで俺の家に……」
「あ、桐山、この漫画俺のだぞ。ずっと無いって思ってたら、お前が持ってたのかよ!」
「ははっ、悪い……」
「そこっ! 話題を
綾葉は裕介と広樹を指差して注意する。二人は反省して床に座る。
「さっそく本題に入るわよ」
「つってもよぉ、具体的にどうすんだ?」
「それを今から考えるのよ。では、『満君と真紀ちゃんをくっつけよう大作戦』を決行するにあたって、何かいいアイデアある人?」
シーン
部屋中が静まりかえる。
「まぁ、そりゃそうだよな。誰も恋愛なんてしたことないし」
「むしろこのまま恋愛せずに、五人いつまでも仲良くやっていきましょ~って感じのグループだったもんね……」
「そんな暗黙の了解があったのか……」
「でも、仲間が恋に悩んでたら、助けるのは当然! でも、みんなからアイデアが出ないんじゃねぇ……」
いいアイデアが誰も思い浮かばず、四人は途方に暮れた。
「というわけで、私から出させてもらうわ!」
かと思いきや、綾葉が名乗り出た。綾葉は持ってきた鞄から、とあるチラシを取り出す。
「なんかいいアイデアあんのか?」
ペラッ
綾葉はそのチラシを三人の前に見せる。
「福引き大会?」
「何だこれ?」
「今、七海商店街で福引き大会をやってるの。色々豪華な賞があるのよ~。三等は七海商店街で使える商品券5000円分! 二等は北海道産タラバガニセット!」
どれもこれも老若男女が喉から手が出そうなほど欲しがる代物だ。しかし、綾葉の目当ては他でもない……
「そして一等は、ドリームアイランドパークのペアチケット~!!!」
綾葉が余計なほどある胸を張って言い放つ。
「ドリームアイランドパークって……あの遊園地か」
「一等がそれなのか……」
「あっ、もしかして……」
「美咲、分かったようね。私の言いたいことが。そう! この一等のドリームアイランドパークのペアチケットを当てて、あの二人に素敵な遊園地デートをプレゼントしてあげましょう!」
綾葉は自信満々に宣言する。まるで既に自分達が一等の景品を手に入れることが決まっているように。
「いや、それは難しいだろ」
「どうせチケット当てるなら、俺達も一緒に行きてぇよ……」
男性陣から若干の反感の声が上がる。
「黙りなさい! 当てるったら当てるのよ! ていうか裕介、あんた計画に乗り気だったんじゃないの!?」
「うぅぅ……わかったよ」
「広樹も! わかったわね?」
「あぁ、満のためって言うなら、仕方ねぇか……」
「やろーやろー」
こうして四人は、福引き会場の七海商店街へ向かった。大量のおこづかいを手に。
七海商店街はこの街でもかなり愛着のある場となっている。スーパーや和菓子屋、喫茶店、ゲーム屋、書店、服屋、家電屋など、生活用品として必要なものが販売されているお店は、ほとんどこの商店街に並んでいる。
福引きは年に数回行っており、七海商店街での人気のイベントとなっている。
「いや~、人がいっぱい」
「全員福引き目当てか」
「うわっ! やっべぇなこの行列! 福引き会場が人で見えねぇぞ!」
「一等取られないかな?」
今日の商店街はみんな福引き目当ての買い物客で、いたるところに溢れかえっている。狙いの商品はそれぞれ違えど、全員が己の欲望に突き動かされて金をかき混ぜる。
「大丈夫、一等はまだ当たってないわ」
三等と二等は複数商品が用意されており、すでに何人か当選者が出ている様子だ。一等は一つだけの用意で、かなりの低確率に設定されているだけあって、まだ誰も手にしていない。
「みんな! 財布の中にお金はあるわね?」
「おう!」
「ああ」
「うん!」
各々自分の財布を手に持って見せる。手分けして福引きの券を手にいれる算段だ。
「どこでもいいから七海商店街のお店で買い物をしてね。1000円お買い上げにつき、福引き券一枚貰えるから。その一枚で一回福引きができる。覚えておいてね」
「おう!」
「ああ」
「うん!」
「それじゃあ、スタート!」
カンッ
耳には聞こえないゴングの音が鳴り響いた。かくして作戦は決行された。
「えっと、これとこれとこれと、とにかくたくさん買って……」
「私これも買う~」
まず綾葉と美咲の二人は、和菓子屋に来ていた。三色団子やらどら焼きやら饅頭やらを、カゴの中にポンポンと入れていく。
「おばちゃん! とりあえずこんだけ!」
「あら、綾葉ちゃん。こんなにたくさんありがとうね~」
和菓子屋の店主の老婆が会計をする。綾葉達はこの和菓子によく通っており、店主の老婆も少々面識がある。
「いや~、福引きのおかげで商品がたくさん売れて売れて。経済が回るのが目に見えるのはいい気持ちやね~♪」
「えぇ、まったくです。オホホホホホ♪」
綾葉、完全にノリノリである。
「お会計4780円ね」
「ほら!」
綾葉は札束と小銭をトレーに差し出す。
「ありがとう。これ、福引き券4枚。がんばっておいで~」
「がんばりまぁ~す! 美咲、先に次行くね」
「あっ、うん……」
すぐには福引き会場には向かわず、綾葉は美咲を置いて次の店へ向かう。何枚か福引き券を溜めて、最後に一気に引くつもりらしい。
「どうする、このゼンラの伝説か……それともこの星のカビか……」
「両方買っちまえよ」
裕介と広樹の二人はゲーム屋に来ている。裕介は二つのゲームソフトのパッケージを手に取り、それぞれを睨み付けている。
「でも俺のおこづかいが……いや、ここは満のためだ! 腹をくくるぞ!」
裕介は二つのパッケージを両方レジカウンターまで持って行った。床に涙の跡を溢しながら。
「毎度あり~♪ これ福引き券8枚ね。がんばってね、お兄さん方」
「がんばりまぁぁぁぁぁす!!!」
涙で顔がぐしゃぐしゃになった裕介を、広樹は横から汚物を見るような眼差しで見つめる。
シャー
「どう?」
試着室のカーテンを開けて、新品のワンピースを身に纏う綾葉。
「似合ってるよ!」
「OK! これ購入っと」
シャー シャー
綾葉はマッハで着替えを済ませ、先程着たワンピースを抱えてレジカウンターへ向かう。
「美咲も、気に入ったものがあればすぐに買うのよ~」
綾葉は走りながら遠くから美咲に呼び掛ける。美咲は指でOKサインを送って返す。かつてこれほど雑に服を買う乙女がいただろうか……。多分いる。
四人は買い物を一旦中断し、商店街の中央にある石像の前に集まった。
「とりあえず買うの終了。福引き券の確認をしましょう」
「俺達、大荷物だな」
両手には、商店街で爆買いした商品の入った袋が大量に握られていた。一度地面に置かなくては、福引き券の枚数の確認ができない。
ドサッ
「よいしょっと……。えっと~福引き券~福引き券~」
「ふむふむ……」
四人は各々の手に入れた福引き券を両手に取り、枚数を数える。
「俺、5枚」
「はい!?」
広樹が数え終わった。一番早く数え終わったため、消費した金額は一番少ないようだ。
「なんでそんなに少ないわけ!?」
「福引きのためだけにわざわざ1万円以上も使えるか! 特に欲しいもんも何もねぇのに」
広樹がせいぜい購入したものといえば、最初に寄ったゲーム屋でのゲームソフトくらいだった。たが、仕方ない。親友の恋を応援するとはいえ、わざわざ自分の生活費を食い潰してまで尽くすことはない。全員のおこづかいには限りがあるのだ。
「私11枚……」
美咲が数え終わった。購入したものは和菓子、アクセサリー、衣服等。綾葉とほぼ同じだ。だが、費やした金額は綾葉よりは劣る。
「みんなまだまだね。私は……30枚よ!!!」
広樹と綾葉に福引き券の束を見せつける。それに見入る二人。
「綾葉すご~い!」
「3万も使ったのかよ!?」
「すべては親友のためよ♪」
別の意味で恋に溺れ過ぎて、金銭の感覚が麻痺する綾葉。
「それで? 裕介は?」
「ほらよ!」
しかし、それは綾葉だけではなかった。裕介は三人に福引き券の束を見せつけた。
「10……20……30……40……50!?」
「全部で50枚! 集めてやったぜ♪」
さらに上を行く者がいた。上には上があるものだ。
「5万……お前バカだろ……」
「何とでも言え! これで親友が幸せになれるなら、俺は何でもやってやる!」
「お前の幸せを棒に振るんじゃねぇよ!」
もはやそのつぎ込んだ金で遊園地のチケットが買えるのだが、そのことは裕介の頭の中にはもう浮かばない。何はともあれ、合計96枚。96回引く権利を得た。
「さぁ! 行くわよ!」
「行くぞぉぉぉぉぉ!!!」
「おぉ~」
「あぁ……」
一同は勇ましい足取りで福引き会場へと向かった。
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