タイム・ラブ
KMT
序章「それぞれの時代」
第1話「幸せ」
KMT『タイム・ラブ』
あぁ、幸せだなぁ……。
幸せとは何かなんて、今まで考えたこともなかった。でも今、少しだけ分かった気がする。幸せというのは、今のように授業中にお昼寝をした時に感じられる、この何とも言えない心地よさのことではないか。
うん、悪くない。むしろ最高だ。幸せだ。
こんな幸せを、これからも味わうことができるのだろうか。大人になったら、一人の社会人としての自覚を持ったら、このような瞬間は味わえなくなってしまうのか。
そんなのは嫌だ。ならどうするか、決まっている。今味わっておくのだ、この幸せを。
「むにゃむにゃ……」
自分の中で一人、午後の楽園に心を預けていると、早速奴がやって来た。奴とは誰か。言うまでもない、古典の
「神野さん、授業中ですよ。起きてしっかり授業を受けなさい」
田辺先生は、授業中によく居眠りをしてしまう子が、よく言われるであろう台詞を発した。私は居眠り常習犯なので、もう何度も同じ台詞を聞いている。別に言われなくても分かっている。分かっていた上で、あえて寝ていたのだ。
そもそも何よ、古典って。そんな昔の書物を見直していて、一体何になるっていうのかしら。いつまでも過去の遺産に浸っていてはダメよ。輝かしい未来を見つめなくちゃ!
そう思いながらも、渋々授業に意識を戻す私。もう嫌になっちゃう。とりあえず返事をしておこう。
「は~い……」
授業に意識を戻す田辺先生。あの人、顔は美人なのに、ああいう風に厳しいからモテないのよねぇ……。まぁ、私も性格ガサツだからモテないんだけど。
「相変わらずね、真紀は」
隣の席から
んで、私が神野真紀、このお話の主人公。
私としたことが、主人公より先に脇役を紹介してしまうとは。
あ、そこのアナタ、今「神野」を「かみの」って読んだわね? 残念正解は「じんの」でした~(笑)。
私の名前は
「もうすぐ夏休みだからって、だらけてちゃダメよ」
直美は真面目だ。それはもう余計に思えるほど。彼女のメガネのレンズが光を反射し、いかにも優等生という風格を醸し出す。夏休みが近づいてくるとつい浮かれてしまう私の愉快な心を、彼女は理解してはくれない。そして、私は不真面目だ。
「はいはい、気をつけますわよ~♪」
全然反省してない返事で、私は軽く流した。
ピーヒョロロロロー
トンビだろうか。青く澄み切った空に鳥の鳴き声が響いている。まだ秋ではないけど、トンビらしき鳥の群れが窓の向こうに飛んでいるのが見えたような気がした。
そして、ビルだらけのこの街の風景には、鳥の鳴き声はなんとも不釣り合いだ。まるで田舎の懐かしさが、遅れてやって来たかのようだった。
そして、この後訪れる "遅れた時代" で、一生心に残るようなとてつもない体験をしてしまうことなど、この時の私はもちろん知らない……。
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