第18話 飛竜の棲みし カントラ渓谷

「どうも、エーシェさん。俺はルスマス冒険団団長のルスマスです。商団護衛の間顔を合わせることが多くなると思うのでよろしくお願いします」


「ええ、こちらこそよろしくです。ルスマスさん。では、次は私ですね。エーシェ冒険団団長エーシェです。どうぞよろしくお願いします。それにしても、貴方と赤髪の魔導師さんはランクA、銀髪の弓使いさんはランクBですか。かなり強いじゃないですか。でも、薄金髪の子はまだランクEだけど大丈夫なのですか?」


「大丈夫です。かなり強いんで」


 まずは互いの冒険団団長同士の挨拶から始まり、その後団員同士の挨拶と言う流れで自己紹介をした。


「それにしても、ルスマス冒険団には女の子の団員まで居るんだな! なあ、嬢ちゃん幾つなんだ? 名前は何て言うんだ?」


 身長2mはありそうな筋骨隆々で虎系獣人の巨大な斧を持つ戦士クグラが、歳と名前を聞いてきたのでついでに種族も一緒に答える。


「名前はシャルナで、歳は11だよ! まあ、人じゃなくて吸血鬼だけどね!」


 そう答えた瞬間、クグラとそれを聞いていた全員が一瞬黙った後、こう言ってきた。


「「「え? それ本当?」」」


 準備期間中、誰かに名前とか歳を聞かれたりした時のシミュレーションをしていた。その結果、今回みたいに長期間共に過ごすことになった場合、歳は11と言う設定で、種族は嘘偽りなく吸血鬼と答えることに決めた。隠していたとしても、いつか何かの拍子にバレるだろうと思ったからだ。


「えっと…… と言うことは日光防御スキル持ちって事かな? ルナちゃん」


 魔力が籠った杖を持ち、魔石の装飾がちりばめられた法衣を身に纏っていて、水髪で金の瞳を持つ賢者ネルがそう問いかけてくるので正直に答えた。


「うん。そうだよ」


「やっぱり…… でも、それほど頼りになる仲間を得られて幸せね。ルスマスさん」


「まあ、そうですね。地竜の迷宮に行方不明者の捜索に行った際にも助けられましたし」


「成る程。それならルナちゃんはまだランクはEだけど、実力的にはAもしくはSランク相当と言う訳ね」


 エーシェ冒険団の人たちと自己紹介込みの会話をしていると、どうやら外に今回の護衛対象であるアテン商団が到着したと外を見ていたギルド職員の人が、今回の依頼に参加する冒険団たちに呼びかけていたので、俺たちも後へ続いて外に出る。


「え~。冒険団の諸君、今回は我輩の商団護衛の為に集まってくれて感謝する。かなり長期間の旅となるだろうが、よろしく頼むぞ」


 商団長アテンの短めの挨拶が済むと、王都に向けての大移動が始まった。


「ねえユーラ、王都までどういう道のりで行くの?」


 そう俺が質問すると、隣に居るユーラが答えてくれた。まず、2つの山に挟まれたカントラ渓谷を抜けて、その先にあるフォレスタスの町で2泊してから出発し、ルスラ平原を縦断する。そこを抜けると王直轄領のアステンの町に入るので、そこでも商売と休憩も兼ねて2泊してから出発、エステイン峠を越えて王都ルテスに到着と言うことだ。2週間、下手すれば1ヶ月近くかかる大掛かりな旅となるらしい。


 ユーラに説明してもらいながら歩いていると、クグラと別の冒険団団員が何か話しているのを聞いた。


「そう言えば、最初に通るカントラ渓谷とその近くに確か、いつもの倍近くのワイバーンやその亜種が巣を周辺の山に作って住んでるって聞いたから、もしかすれば襲ってくるかもしれん。それに、エステイン峠に最近よくクレット盗賊団が出るみたいだしな。念には念を入れたんだろう」


「ああ、だから俺たちやルスマス冒険団、その他腕利きの冒険団が沢山居るわけか。本来こんなに要らないもんな。俺たちみたいなSランク冒険団1つ、AやBランクの冒険団それぞれ2つで十分だし」


 成る程。途中の要所にいつもより厄介な奴が出やすいのか。そんな場所を長期間旅をする事になればその分魔物や盗賊等に襲われる可能性が高まる。そのせいで沢山の積み荷にもしもの事があれば、どれだけの損失となるのか想像が安易に出来る。なら、腕利きの冒険団を雇ってそれらから守ってもらう為にお金を支出すれば、安全に王都まで行けて結果的に得をすると踏んだ訳だ。


 そんな事を考えながら歩いていると、最初の難関であるカントラ渓谷に到達した。


「よーしお前ら、こっから先は飛竜共の棲みかだ! いつもより多く居るらしいから自分や仲間の身を守りつつ、商団に傷を付けないように気をつけて行くぞ!」


「「「了解!!」」」


 クグラの呼び掛けを聞いた俺たちを含む他の冒険団の人たちは、そう答えた後前を行く商団や他の冒険団に続いてカントラ渓谷に入っていく。もっと歩きづらい場所なのかなと思ったら、よく他の商団や冒険者が通る為なのだろう。馬車が通りやすいように道が整備されていたので町を歩くのと大差はなかった。


「本当に助かったわ~。どんな凄い悪路で、進むのが遅くなるのかと思ってたら、意外と整備されてるじゃない。これならテント泊まりは2~3日で済みそうね。ルナちゃん」


 不意にネルに話し掛けられた俺は、どういう返事を返そうか少し考えた結果、こう聞いてみる事にしてみた。


「ネルって野宿は嫌なの?」


「そりゃあもう! かなり前、私たちがまだ新米だった頃に1週間、薬草採取の依頼の為に森に入ったら魔物に襲われてね。必死に逃げて迷った時に野宿して、死にかけた時の経験がトラウマになったから」


 詳しく聞いてみると、まだエーシェ冒険団が出来たてばかりだった頃に回復ポーションの材料の薬草『ヒール草』の採取依頼の為に森に入った際、いきなりその森に居ないはずの樹の形をした魔物に襲われた上、必死に逃げた為に道に迷って出られなくなると言う経験をしたかららしい。


 ロクにサバイバル知識もなかったらしいが、こんな森の中で死んでたまるかと奮起し、時折食べたものに当たってしまいながらも何とか救助されるまで生き残ったネル。確かに新米の頃にそんな事経験すればトラウマになるのも仕方ないだろう。


「ネルって凄いよね! そんな状況で諦めずに生き残ったんだから」


「ありがとうルナちゃん。話聞いてくれて」


「いや、私が聞いて答えてくれたんだから、こちらこそありがとう! ネル」


 そんな感じで話し込んで居ると、少し開けた場所に出た。どうやら1日目はここでテントを張って泊まるらしい。


「今日はここでテント張って泊まります。夜のカントラ渓谷は非常に危険なので決してこの場所から離れないでくださいね!!」


 アテン商団の人がそう言うと、皆はテントを張り始めた。俺たちも自前で用意したマジックテントを空いているスペースに張り、それを終えると中に入って既に準備期間に用意済みの食事を魔法のカバンから出して食べる。


 どうやらそのバッグに入れた物は時間が止まるらしく、2日程前に作っておいた食事も出来立てのままであった。


 食事を終えると、歩き疲れたのか皆すぐに眠りについたので、俺も寝ることにした。

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