第11話 聖人貴族の治める町 ルトレーバ

「ふふっ、可愛い寝顔。本当に無事で良かった…… ルナ」


 あの時、『アイツら止めてくるからちょっと待ってて』と言って飛んでいったルナを見た時、私は正直不安と恐怖で押し潰されそうになった。またの様に、何も出来ずに我が子を死なせたあの心が壊れていくような思いをするのではないかと思った。


 だが、実際は違った。今まで見たことのない圧倒的な氷の奥義魔法で敵を一掃して、傷ひとつ負わずに無事に戻ってきた。その安心感から私がルナを我が子の様に抱き抱えると、恐らく奥義魔法の反動による疲れからだろう。まるで彼女は倒れるように眠った。


「ユーラってルナに出会ってから凄い元気になったよね。今までは笑っててもどこか虚ろな目をしていたけど、今は活気に満ち溢れてるし」


「確かにな。これもルナのお陰だな。俺でもどうしようもなかったユーラの心を元気にしてもらえて感謝しかない」


「ええ、何だかルナに会ってから心に幸せが満ちてくるようです。種族は違うし、我が子が生き返った訳ではないのは分かってますけど。それよりもルスマス、あとどれくらいで着きそうですか?」


「正確な日時は何とも言えんな。魔物がそこそこ出てるから、強いて言うなら後半日位か」


 今私たちはルトレーバに向かうために地図を見ながらエシュテール家の衛兵の見回りのないルートで進んでいる。そうすると自然と遠回りとなって、林の中や整備されていない山道を通ることになる。当然、魔物の討伐など行われていないのでちょくちょく出てくるスライムやオーク、ヴェノムウルフ等の対処に追われることとなり、時間が余計にかかってしまうのだ。


「邪魔だ退けぇ! 化け物ども!『グランバスタード』」


 土属性を纏った剣をルスマスが振るたびに、魔物が真っ二つにされていく。リニルシアは『全隠蔽オールハイディングスキルに魔力を使ってしまった上に子供たちの入った魔法の箱マジックボックスを持っていて、私は奥義魔法を使った反動で眠ってしまったルナを抱えている為弓が使えない。なのでルスマス1人に戦闘をほぼ任せっぱなしの状態だ。


「ごめんなさいルスマス。貴方1人に任せっぱなしで」


「気にすんなユーラ。いつもお前に助けてもらってるし、これくらいはな。それより、ルナは大丈夫か? 抱き抱えられてから意識を失ったようだが」


「あの時の氷の奥義魔法の反動で眠ってしまっただけだから大丈夫。いつ起きるのかは分からないけど」


「成る程、それは良かった。それにしても、あの時の奥義魔法何て魔法だったか忘れたが、異常な程の広範囲かつ高威力だったな。ステータス見ただけでもヤバい奴だなと思ったが、案の定ヤバい奴だった。仲間で良かった」


「確かにね…… ってルスマス、またオークが出たよ。しかも挟み撃ちにされてる」


「またか! さっきから鬱陶うっとうしいわコイツら! 休む暇ねぇ! リニルシア、お前格闘出来ただろ。後ろの奴頼むぞ」


「魔力ほとんど無いからいざってときに危ないんだけど…… まあ、了解」


 そんな感じで出てくる魔物たちを片っ端から両断したり潰したりしながら歩くこと約半日、日が沈んで真っ暗になった時ようやくそれらしき町が見えてきた。地図を見せてもらうと、今見えている町は、ルトレーバで間違いないようだ。ようやくエシュテールの勢力圏から抜けた! まともに休める、私はそう思った。町の入り口まで来たら、そこに居る衛兵たちにルナの物も含めてギルドカードを見せる。


「うむ。ギルドカードは問題ないようだが…… その箱に入っている子供たちは何だ? どう言うことか説明してもらおうか」


「あ、はい。実は……」


 衛兵に怪しまれた私たちは、ティアネイドの町で起こった出来事について覚えている限りの全てを話した。


「了解した。それでは今夜はこの町の宿に泊まるといい。明日、バルトレイ様に面会してもらうことになるが、大丈夫か?」


「はい。問題ありません」


「それは良かった。それにしてもあのエシュテールの馬鹿、のか。これでもう30回目だぞ! この前もこってり王に絞られたと言うのに……」


 何だかバルトレイの衛兵たちはエシュテールに苛立っているようだった。こっちにも散々迷惑をかけていたのだろう。一体何をしたのか気になるので聞いてみた。


「あの、どうかされましたか?」


「ああ、済まぬ冒険者よ。実は……」


 聞けば私たちと同じか似た理由でここ最近この町に逃げてくる商人や冒険者、エシュテールの女性衛兵が後を絶たないと言う。それを見かねた『イージア・バルトレイ』が王城に出向いて数々の証拠と共に『今すぐにでもリーア・エシュテールを追放し、厳罰に処すべきです! このままではオルア地方の民が無駄に苦しみ、王の評判も下がります。どうかお考えください!』と直談判に行ったと言う。


 だが、王はロクに動いてくれなかったらしく、厳重注意で済まされたようだった。それをこの町の館で聞いたバルトレイは『我が王は馬鹿なのか!? あんなゴミを放置しておけばいずれ国家運営に支障が出ることも分からんのか!』といきどおっていたという。


 それを聞いた私は、エシュテール家とは真逆のいい貴族だと、こんな人が治めている領地の領民はさぞかし幸せだろうと、そんな事を考えつつ町に入って衛兵が用意してくれた宿に行く。


「では、私はこれで。明日再びここに来るから、箱に入った子供たちと一緒に付いてきてくれ。お前の抱えているもな」


「はい」


 そうして衛兵は、宿から出ていった。


(ごめんねルナ。貴女が吸血鬼だってこと勝手に喋っちゃった)


 そう心の中で謝りつつ、疲れていたので食事も取らずに部屋に入ってルナを抱きながら横になる。


「おやすみなさい。ルナ」


 そうして直ぐに私は、眠りについた。





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