第24話 魔法射的(景品付き)!
「あやめにも用事はあったんだが、まぁそりゃ今度でいいやな。――そりゃそうとクロ、あやめの言ってた桜ちゃんってなぁ、そのお嬢ちゃんかぃ?」
「……は、初めまして。か、神代です、神代桜と言います。華ちゃんと同級生です!」
「ほぉ。……目は確かなようだな、嬢ちゃん」
「あの、先生。……色々やりずらいんで桜って呼んで貰って良いですか?」
「はっはっは……。おいらぁ、先生なんて高尚なもんじゃねぇやぃ」
マエストロを前にしても桜は全く気圧されない。たいした胆力ではある。
それはそれとして。
「あの、マエストロ。――桜の目が良い、とは。それはどう言う……?」
「嬢ちゃん、桜か、……気にしていたその腕だ。そいつぁ、若手では最近一番の職人が作って、人間国宝のジジィが漆を塗ったもんだぃ」
桜が気に入っていたのは、ほぼ値段の付けようが無い、とんでもない品物だった。
「両方とも女子高生をイメージしたんだそうでな」
……もう既に意味がわからない。ただのお椀にしか見えないがそんな人達が作ったのであれば、そのお値段は軽く一個100、000円を超えるだろう。
制作時のイメージをどうしようとそれは勝手だが、一方。女子高生には絶対に買えないではないか。
「うん、なんかわかります。……これ、すごくかわいいですっ!」
「技術を知らずとも、ものの善し悪しを見抜く。……いい目ぇしてやがら。こいつぁホンモノだな」
……わからない。一般的な女子高生ならわかる感覚なんだろうか、これは。
「クロ、ちょいとお嬢ちゃんを借りんぜ? 下行って、小一時間くれぇだな」
――その間、暇だろうからよぉ。おめぇにも手伝ってもらって良いかぃ。そう言うとマエストロは木の箱に9分割されたガラスが付いた、良く分からないものを取り出す。
大きさこそ一抱えしか無いが、見た目はTVで先日見た、サッカーボールや野球のボールをぶつけるアレのようだ。
ご丁寧に1~9までの数字まで書いてある。
マエストロが横に付いたスイッチを入れると、壁にかけられたディスプレイにも灯が入り黒い背景に【Hit 0:Combo 0 :Cap 0.7/500】の白い数字。
この辺が、私がこの人をリスペクトする理由である。
木工職人でありながら、電子工作にも詳しく、お店のHPを自分で作り、SNSで情報発信するのもお弟子さんだけで無く自分自身も三回に一回は出てくる。
パソコンやスマホを普通に操り、簡単なプログラムさえ自分で組む。
先日も、木工職人なのに半田ごてを用途別で四本(台、なのだろうか。数え方がわからない)買い集めた、とお弟子さんが呆れていた。
何でも自分でやらないと気が済まない。
どころか、やるからにはある程度は精通しないと納得出来ない。人には頼みたくない。
この人は何処までも職人なのだ。
「いったい……?」
「クロ、ガラスを叩き割る気で魔力をぶつけろ。――良いからよぉ! うだうだ抜かしてねぇで、とっとと6番を狙いやがれ、っつってんだぃ!」
厚みは無いが放射線遮蔽ガラスをベースにした魔法遮断ガラスだろう、しかもマエストロ手ずから調整をしている。ならばかなりのパワーがないとこれは割れない。
――割っても良いのですね? 私は人差し指を箱に向ける。
必要は無いのだがこれで集中が高まり命中率も上がる。何でも形は大事だ。
『
人差し指から、コンクリートさえ穿つ魔道の弾が6、と書かれたガラスに撃ち出される。割れというなら割ってみせるのみ。
だが。
ガラスの割れる音は聞こえず、6番のガラスに裏側から照明がともり。魔力は何処かへと飲み込まれ、箱からはピンポン♪ と脳天気な音が聞こえる。
「……これは」
どうやらガラスを支える枠に、魔力吸収のギミックが仕込んであるらしい。
「安心しな。今の五倍で撃ったって壊れやしねぇ。誰が作ったと思ってやがんでぇ。――クロ、おめぇ。押さえて撃って一発で2弱かぃ。あやめ程じゃねぇがだいぶ強くなったな」
ディスプレイは背景が朱くなって【Hit 1:Combo 1 Cap 2.5/500】の表示をだしている。
「魔力を黙ってフラスコに吸い取られる、っつうのもつまんねぇだろ? 真ん中をスタートとして次の数字を予想して撃て。今んとこ、5-6。と来たわけだな。――今の倍で何回撃てる?」
魔力の源は人の意思。街中は非常に効率良く魔力を吸い上げる事が出来る。
今の倍なら。コンクリートの塀を打ち抜き立木をなぎ倒す程のパワーになる。
当然消耗は激しいが、ここは街の真ん中、場所が良い。連射が効く。
とはいえ、体力の限界は自ずとある。
「……インターバル30秒弱で85、6発。90まで撃てるかどうか」
――自分の限界を、感情抜きで機械的に計算出来るのがあなたのすごいところですのよ? かつて、修業時代にお姉様に言われたのを思い出す
。
「クロが使えるってんなら、あやめに用事はなくなったぜ。ランプはランダムじゃあねぇ。法則性を探して当てろ。12コンボ超えたら、値段関係無しにこの店のものだったらなんでも一つ、くれてやらぁ。――おい、桜。つったな? ……着いて来な」
「……はい。――華ちゃん、あとでね」
マエストロは、桜を従えてカウンターの奥の階段へと消える。
そして箱と対峙した形で残される私。
――すぅ。右手の人差し指を伸ばす。
「次は……2番!」
ピンポン♪ 2番の窓に明かりが点き、表示が
【Hit 2:Combo 2 :Cap 5.8/500】
に変わる。
「ならば、……次、7番っ!」
ブブー♪ いかにも不愉快な音が鳴ると。ディスプレイは青い背景になって表示が、
【Hit 3:Combo 0 :Cap 8.7/500】
に変わる。
コンボ数が減ったのはいかにも精神的に負担である。
何故どうでも良い事に負担を感じるか。
答えは簡単。12コンボ。これで桜の気にしていたとんでもないお値段のお椀、これを手中にすることが出来る。
たった9枚のパネルだが、同じパネルが連続する可能性を否定するなら単純に1/8、それを引き当てただけ。まぐれでは絶対に続かない。
力を弱くして回数を増やせば時間を減らして試行回数を増やせるが、表示のヒット数が増えるから、その時点でインチキは即バレる。
12コンボと言ったからにはパターンがあるはず。
ならば一周期は最低12。
残りはどんなに頑張っても80回強。時間も魔法も。そんなに数多くは試せない。
マエストロがランダムでは無い、と言いきった以上。――なんとしてもこのロジックを解いて12コンボを!
もはや、この時の私は桜にお椀をプレゼントする為、次のパネルはどこか。
それ以外のことは考えていなかった。
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