第18話 調査対象外

「お二人さん。――うん。ちょっとだけ、良いかな?」

 そこまで黙って、器用にシャープペンを回しながら話を聞いていたひいらぎ先輩が、そのシャープペンを捕まえ、持ったままの右手を挙げる。


「先輩、お話に何か気が付く事でもありまして?」

「部長、今までの話で疑問な点がありましたか?」

 お姉様のみならず百合先輩にまで。いきなり二人に見つめられてあからさまに柊先輩はひるんだ。

 ……ただ、今回はがんばって引かない。


 体術と魔法を組み合わせて戦う体育会系超攻撃的魔法使い、カキツバタさんに修行の名目ではあったが、半分は本気で“潰しに行った”に違いない。

 と、周り中から言われているくらいにしごかれた。


 具体的には、技を見切れ。と言われて一方的にパンチとキックを浴びサンドバッグ状態になったり、山の中に置き去りにされたりしたらしい。

 魔法には一つも関係がないような気がするのだが。


 それでも潰れなかった精神力は伊達では無いらしい。



「当然、月夜野さんや谷合さんはわかっているだろうけど、あからさまに怪しいのが2年に居るよね?」

「どなたの事を仰って居ますの?」

「それは誰を想定していますか?」


「軽く平均を超える身長、銀髪碧眼、明らかに白人、でありながら日本語を流暢に話し、女子から大人気。アイルランドからの留学生。……普通課のカエサル・オルドリッジ」


 明らかに要らない情報が一部混ざっていた気がするが。――会話を盛り上げるというのはこうするものなんだろうか。

『会話ならともかく、別に会議は盛り上げる必要、無いんじゃ無いかな……』

 桜が正しいと、私も思う……。



「谷合さん、彼の身元って洗ってる? ホントにイギリス人じゃ無くてアイルランド人?」

「いえ、此所まで完全にノーマークです」


 アジア人以外の人間はノーマーク。

 人海戦術が使えない以上、対象を切り捨てる方法論としては正しいだろう。

 相手からしても、見かけで目立っては逆効果だ。



 この日本では、“少し”髪の色が明るくて、“少し”肌が黒くて、“少し”背が高いだけ。その私の見かけでさえ目立つのだ。

 大事なことなので何回でも繰り返す、本当に少しなのだ。――間違った。もとい。



 ……日本は基本、単民族で形成される国家。

 だから瞳の色に髪の色。見かけ上にほんの少しの差違があればそれだけで目立つ。

 背が高く明らかに白人で青い目、極めつけは金髪ですら無く銀髪。これで目立たない方がどうかしている。


「ガイジンだから、と言う話では無いんですよね? 先輩」

 だから一応釘を刺しておかないと。

 また空気を変える為に言ってみただけ、みたいな事だったら。


 今度こそは、柊先輩だけで無くお姉様と百合先輩以外の私達全員。

 この部屋にいたたまれなくなる。


「大事なことなのでもう一度言います。根拠はあるんですか?」

「別にウケ狙いじゃ無い。簡単だけど示せる根拠ならあるよ、サフランさん」

 意外にも柊先輩は、私に真面目な顔でそう返した。



「ねぇ、谷合さん。――今さっきの話、トランプ騎士団で絵札、なんだよね?」

「まぁ、……そうです」

「数字が大きい程エラい?」


「マークと数字で呼び合うと聞きます。ハート十三人で一部隊、の様な感じでしょうか。エースが一番ですけれど、現場に出てはこないですから十二名中キングが事実上のトップとみて良いでしょう。よその組織ですから詳細にわかるわけではないですが、――それがどうしたんです? 部長」


「だったら彼はカエサルだもの。ダイヤのキング。……可能性があるとは思わない?」

「分かり易すぎるとも思うけど。――そう言う可能性は否定できない、か……」

 百合先輩は考え込む。

 柊先輩の意見だというのに、思うところがあったらしい。

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