第14話 入部届、受理
「入部届はこれで良い?」
「結構ですわ。百合さん、ようこそ古道具愛好会へ。……富良野君も、改めてよろしくお願い致します。――柊先輩。後で、で結構ですので生徒会執行部への提出をお願い致します」
部長代理、と書かれた黒光りする三角形の柱が立つデスク。そこに正面を向いて座るお姉様と、その後ろ、腕組みで窓際にもたれ、窓の外を見る百合先輩。
全く目を合わせないで会話をする二人。
この二人が揃うと当たり前の会話が、どうしてこうも、すこぶる恐ろしいものに聞こえるものか。
「順調に部員も集まって、部活に格上げも考えなくちゃいけないね、月夜野さん」
空気を変えようとでもするかのように、柊先輩がお姉様に明るく声をかける。
「魔法使いと結界師以外は、扉に触れると入部意欲を失って扉を開けずにそのまま帰りたくなってしまう。と言うお
「いつの間にそんな術式張ってたの! 気が付かなかった……」
部室の雰囲気を空気を変えよう。
と言う試みは見事に失敗、柊先輩だけが大ダメージを受けた。
初めからわかっている。
お姉様と百合さんが好んでこの空気を作っているのだ。
柊先輩如きが口先で何かしようが、その程度で何かが変わるはずが無い。
放課後、予定通りに百合先輩と富良野君は部室へとやってきて、入部届をその場で書いた。
ちなみに富良野君は、当然のように入り口に一番近いパイプ椅子に“おずおずと”と言う表現が相応しく思える感じで収まっている。
非常の際を想定し、最短脱出ルートを確保してるかのようにも見える。
……多分、立場が逆なら私もそうする。
大葉さんが重たい空気に耐えられなくなったのか、口を開く。
「アヤメちゃん、こう見えて俺も暇じゃない。どうにも部活じゃなくて、学級会で無くなった給食費問題を話し合ってるような雰囲気なんだが、どうなんだよ。……俺は戻っても良いか?」
「時間の許す限りで結構ですから、大葉さんもこのまま同席を願いたいのですが」
ちなみに大葉さんも“実法学院 施設管理部”と刺繍された用務員の作業服でこの場に居るのだが、彼は入り口のドアにもたれて立ってる。
格好を付けているようにも、いつでも逃げ出せる体制を整えているようにも見える。
……後者の公算が強いと思う。
「さて、あやめさん。……まずはそのお二人。神代サンと南光クン、お二人がどうして振興会に関わりを持つようになったのか、具体的にお話し願えないかしら。あなたたち数名以外、私でさえ。ほんの数行のテキストでしか知らないのだけれども」
「よろしいでしょう。――あら、柊先輩。何処に行かれるのですか? 全員揃った状態でないと情報の共有という面で問題がありますわ。どうしても緊急でお手洗いに、と言う様な事で無ければまずは座っていて頂けますか?」
「いや、あの……、はい」
部長で先輩なのに、ほぼお姉様が柊先輩を虐めているようにしか見えない。
まぁ、彼が居なければ。私は桜や仁史君と出会う事は無かったのだけれど、一方。
大騒ぎになった原因は彼なのである。
その顛末を話そうというのだから、逃げたくもなるだろう。
そしてその彼が、こっちをチラチラと見るのは、私が怒りだすのでは無いか。
と言う疑念を持っているからに違いない。
そして彼の心配通りに私は話の途中で怒り出し、桜になだめられるのだ。きっと。
「話の発端は、通常業務の野良魔法使い狩りでしたの……」
つい先日。新興住宅地うつくしヶ丘の中央にある公園に、私と大葉さんが野良魔法使いを追い込んだ。
……補則しておけばその野良魔法使いは、振興会に所属していないいわゆる“野良”としては最強クラスであったので、私と大葉さんのコンビが派遣される事になった。
だが彼は後に改心し、マゾヒスティックな性癖が無ければ耐えられない。とまで言われる振興会一のスパルタ教育で有名な、体術もこなせる超攻撃的魔法使い、カキツバタさんの修行をたった数週間で納め、見事クラスDの炎使いとして振興会入りとなった。
それがコードネームヒイラギ。
今、目の前に決まり悪そうに座る
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます