第25話 最強召喚士、思わぬところで敵と遭遇する
「ど、どういうこと? イビルだけは契る必要は無い?」
「忘れたか? 植物妖精だけは、純粋にキサマの召喚で呼び出したということを」
「そ、そういえばそうだった……」
トルエノに言われるがまま、心を込めたことで初めて召喚出来たのが、イビルだった。
「イビルは俺に逆らうことが無い妖精だから、トルエノとルムデスにした契りはしなくていいってことだよね?」
「くくく、そうだ。我は逆らうつもりは無いが、ライゼルが覚醒するには、二つの契約をする必要があったまでのこと。闇と光……これで我の一つ目の望みは叶えられた」
トルエノの思惑通りに事が進んだ、そういうことらしい。
「コホン……わたくしもあなたに逆らいませんからね? ですが、悪魔の思うままにしない為にも、わたくしはライゼルに厳しくしていきますから! こ、これは嫌いの行為ではなく、好きの裏返しでもあるのです」
「も、もちろん、ルムデスのことは分かっているつもりだよ。ありがとう!」
「と、とんでもございません……わたくしはあなたに尽くすことを決めたのですから、お礼なんて」
キスをされたことがそんなにも嬉しかったのか、ルムデスは顔をずっと隠したままだ。
「ライゼル。あの女もキサマに似た能力があるようだな。そうでなければ、幻獣をすぐに懐柔出来るはずが無い」
「アサレアは合成士だからね。きっと獣であるトルエノや、ルムデスの傷も癒せるはずだよ」
「主の言うことならば従う他は無い。もっとも、我が傷を負うことは無いのだがな……くくく」
言われてみればその通りかもしれない。
あれだけ容赦のない力を発揮するトルエノに、傷を負わせるモノなんていないだろう。
「では我は幻獣と合成女の所にでも向かうとする。キサマはエルフとギルドとやらに行ってみるがいい! くっくっく、面白いモノが見られるはずだ」
「え? 面白いモノ?」
「と、とにかく行きましょう! 元々、ギルドを探していたのでしょう? 先程の儀で、ギルドへのわだかまりは薄れたはずです」
言われてみればその通りだった。
ルムデスが見せた光の断罪、そして再生で何かが吹っ切れたのか、不信と疑念は解消されていた。
「それにしても、面白いモノって何でしょうか? すでに悪魔は知っている風でしたが……」
「そうだね。とにかくこの町にはギルドがあって、そこに何かがあるのは間違いないんだと思う」
「つ、ついて行きます。ですが、手……手を繋いでもよろしいですか――」
「う、うん」
トルエノは主と服従者という意味合いが強く、その関係を崩していない。
だけどルムデスは、二つ目の契り以降から純粋な気持ちを出して、俺に好意を持ち始めた。
彼女たちの傍にいれば、俺はもっと強くなって行けそうな気がする。
「あ、あそこじゃないですか? 随分と賑わっているみたいですが……」
「ホントだ。小さな町だけど、イックスはロランナ村みたいに活発なギルドなのかも」
照れくさそうにしながら、手を繋いだまま二人でギルドの中に足を踏み入れた。
「これが人間が集うギルドなのですか? 人だかりが出来ているようですが……」
「――な、何でこの町に……」
「どうしました、ライゼル」
「ルムデス……今すぐここから出よう」
「え? 何故――あっ!?」
有無を言わさずルムデスの手を引っ張った所で、あいつの声が聞こえて来た。
『おやおや、意外な所で出会ったなぁ? なぁ、最弱』
忘れるはずもなく、見間違える筈も無い。
近い内にサーチをかけて、倒そうと思っていた憎き相手だ。
「イゴル……何でここにいる?」
「ははっ、雑魚オリアンと弱虫ルジェクを倒して、態度もでかくなりやがったか」
「……何でギルド……この町に来ている?」
「おっと、ここでやり合うほど俺はバカじゃないぜ? 上級召喚士ってのは、力もそうだが行動も上級でなければいけねえわけだ。そういう意味じゃ、あいつらは半端な召喚士だったわけだ!」
イゴルの周りは、この町か他の町の連中なのか、スキルの高そうな魔法士が集まっている。
「……ライゼル、あの人間から悪しきモノを感じます」
「そうか、トルエノが言っていたモノってそういうことだったんだ」
「相変わらず黒い女です……しかし、どうされますか」
今の俺ならイゴルだろうと関係なく消せるはず。
そうだとしてもこんな町の中で力を出すわけには行かない。
「おい、ライゼル! お前ごときがあいつらをやったと思ってなかったが、そこにいるエルフだとか、悪魔を召喚したってのは本当か? お前だけじゃやれるわけねえもんなぁ。なぁ?」
「……試してみればいい」
「おっ、おいおい……マジなのかよ? あのダークエルフの言っていたことがマジなら、俺も反則的な獣を呼んでおかないと駄目かぁ?」
「ダークエルフ?」
「ライゼルのことなら何でも分かるっていうんで、途中まで行動していた女だ。そいつの言ってたことはマジだったわけか。はははっ! 面白ぇな……くそ野郎」
まさか闇エルフのユーベルのことなのか。
俺につきまとうと言っていたけど、イゴルなんかに情報を与えているなんて思わなかった。
『おう、お前ら! もっと仲間を集められるか? ここに立ってる弱そうな奴が俺らの敵だ!』
「そいつですか? 召喚士とエルフ、それと悪魔でしたっけ?」
『あぁ、そうだ。俺だけでも強力な奴を呼べるが、妙な自信を持ちやがってる最弱野郎にはお前らの力が必要だ。もっとかき集めておけ!』
「了解しました! 今すぐ!」
俺を目の前にしておきながら、イゴルはかかってくる気配を見せない。
余程の自身なのか、挑発のつもりであえてスキルの高い連中を相当数集めるつもりがあるらしい。
「なぁ、最弱。ミスってとんでもねえ化け物を呼んで、無理やり従わせたんだろうが、てめえ自身が強くなったとか勘違いしてんじゃねえだろうな?」
「……さぁね」
「へっ、残りは俺だけだから楽勝だと思ってるんなら、最弱のてめえ一人だけで向かって来い! 獣を使って俺や他の奴等を倒そうとしていたつもりがあるなら、てめえは弱いままだ! あぁ? 分かってんのか?」
「元よりそのつもりだ。イゴル、俺はお前を倒さない」
「はぁ? 倒さないんじゃなくて、倒せない……だろうが!」
「消す。お前と、お前に関わる人間は全て灰にしてやる。せいぜい準備をしておけ! 俺はもう最弱じゃない」
「……ははっ、はははっ! 泣かせやがるねぇ。いいぜ、最弱野郎一人で何が出来るか見届けてやるよ。いや、見届ける前にてめえは惨めな姿でさらしてやるよ! じゃあな! 弱虫ライゼル。ここで事を起こさないのも、俺の慈悲だ!」
どこまでも舐めた態度を取り続けるイゴルだった。
ギルドに集まっていた魔法士、戦士はほんの10人くらい。
俺一人の為にどれくらいかき集めて来るのか、そういう意味では面白いモノを見られた。
「ラ、ライゼル……わたくしたち抜きで、あの悪しき人間と戦うつもりですか?」
「……大丈夫。ルムデスもトルエノも俺と契ったからね。だから信じてもらうしかないよ」
「それにしても、やはりあの闇エルフが一枚かんでいました。名をあげてしまった以上、何かしらの手段でライゼルに近づいて来ると思っていましたが、まさか敵に情報を与えているとは……」
「俺は落ち着いているよ」
「は、はい」
本当なら、あの場で闇に呑まれてしまえとまで思っていた。
それだと、せっかくルムデスが断罪してくれたのが無意味になる。
目の前にイゴルがいた、それだけで俺の覚悟と心は決定した。
「ルムデス、皆の所に戻ろうか」
「はい、ライゼル様」
イゴルを前にしても何も怖さを感じることが無かった。
迷うことなく、憎きイゴルを俺の手で消し去ってやる。
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