第7話 最弱召喚士、生まれて初めて強さを知る

「……召喚士、あの者たちは味方ですか? それとも……いえ、あなたの状況を見るにそうでは無いのでしょう」

「う、動けない……」


 ルムデスさんが何かを言っているけど今はそれどころではなく、全身を呪縛魔法で動けなくさせられている。


 ロランナ村から追い出されただけでなく、元々はオリアンの執拗な追い回しによるものなのに、どうしてこんなことになってしまうのだろうか。


 味方でもないエルフが近くにいても、助けてくれる感じでもない。


「気をしっかり保つことです! わたくしは時機を見て動くとします。それまであなたは耐えてごらんなさい。そうすれば天があなたに味方する」


 そんなことを言い放ち、枝から枝へ飛び移ってどこかに行ってしまった。


「そ、そんな……っ!?」


「「詠唱用意!」」


「ひ、ひえええ!?」

 

 全身硬直状態のまま、ギルド連中の魔法詠唱が容赦なく耳に届いて来る。連中のいる所から距離があるとはいえ、拘束されて動けない俺は絶好の的になっている。


 諦めるしかないのかと目を閉じるしか出来なかった。


 召喚スキル -20000 耐性スキル 9000000 リジェネーション永久付与


「えっ……!?」


 驚いて思わず開いた目をもう一度閉じると、数字は見えなくなっていた。


 今まで変化の無かった召喚スキルは何故かマイナスになっていて、耐性は跳ね上がり、リジェネーションという何かの能力が永久的に付いたみたいだった。


 連続して体に衝撃を与えて来たらしい魔法は、雷と水属性のようで、せっかく乾いて来た下衣が所々で濡れて来ている。


「う、うわー!? ――って、ん? あれ?」


 痛くも無ければ痺れも無い……むしろ、くすぐったさを感じる雷魔法だった。


『最弱のライゼル! どうした、激痛と痺れで抵抗出来ないのか? どうだ、これが俺たちの強さだ!』


「は、はは……ははは」


 召喚こそまともに出来ずに追放されたギルドだったけど、こんな強さで所属出来ているんだ……。


『その水は単なる水魔法じゃない! 水には毒性が含まれている! 徐々にライゼルの全身は侵されながら、動くことも出来なくなるわけだ。お前に許されるのは口ごたえだけだ! せめてもの慈悲だ!』


 何だかどこかで聞いたセリフだけど、ギルドマスターがそんなことを言いながら、俺を追い出していた気がする。 


 たまたまだったのか、黒魔法士による雷と水攻撃は、完全に耐性が出来ていて何事もなく過ごせた。


 多少のくすぐったさを感じたものの、ダメージは全く無かった。もしかしたら、永久付与された能力が関係しているのかもしれない。


「あ、あの、もう魔法は終わりですか?」


『なっ!?』


 魔法は確かにダメージが無かったものの、全身を呪縛されていることに変わりはなく、さすがにこれを解呪出来る手段は持っていない。


 そんなことを思っていると、その為に連れて来たかと思ってしまう屈強そうな戦士たちを、前面に4,5人並べ始めた。


『剣を構えろ! そしてそのまま最弱ライゼルを痛みつけるぞ!』


「「おおおおー!」」


 ――などと、指示役の声で戦士たちが俺の所に向かって来ている。


 これはあまりに卑怯すぎる。


 魔法には確かにダメージを負うことは無かったけど、だからといってひどい。


「多勢に無勢というのは好きではありませんね。いいでしょう、召喚士の耐えと差し伸べの手に免じて、わたくしがあの者たちを追い出してみせます」


「……えっ? ルムデスさん!?」


 気づいたら目の前にルムデスさんの背中が見えていて、彼女の全身が光で光っているようにも見えた。


「召喚士、いえ、あなたの名前をお聞かせなさい。そうすれば、その呪縛は素直に解けることでしょう」

「お、俺はライゼル。ライゼル・バリーチェ」

「ではライゼル、神聖族長であるわたくし、ルムデス・セイクレッドの加護を与えることをお約束致しましょう。わたくしの後ろで見ているだけで全てが終わることでしょう」


 神聖? ただの上品そうなエルフさんじゃなかったということかな?


「あ、危ないよ! いくら何でも一人で相手をするのは……」

「心配無用です。召喚士のあなたでは確かに難しいと思いますが、わたくしの光に敵う者など――」


 確かにルムデスから感じられる光は、神々しさを感じる。


 そうは言われても、耐性がついた俺一人で今度も耐えれば、済む話なんじゃないのだろうか。


「ライゼル、何を遊んでいる……?」

「え、トルエノ!? い、いつの間にここに?」

「無論、キサマがまがい物の雷と水浴びをした辺りからだ。エルフとは契りをしたのかと思えば、そうではないようだな」


 雷と水浴びって、見ていただけなんてあんまりすぎる……なんて思っていたら、振り向いたルムデスさんが唖然としていることに気付いた。


「あ、悪魔!? それも悪魔の女王が何故ここに……」

「くくっ、我の本当の姿が見えているか。翠瞳は伊達では無かったようだな。貴様はエルフ族の……それも神聖の長だろう?」

「だとしたら、何とするのです?」

「くくっ、その前に……」

「うっ? な、何、トルエノ」

「キサマはイビルと戯れているがいい! そうでなければ我も思いきり出来ぬからな」

「えっ!? 何を言って――」

「……なるほど。召喚士の動きを止めることで、悪魔の本性を見せるということですか。いいでしょう、悪魔の思い通りにするのは納得が行きませんが、ここであなたを捕らえられるならば面目が立ちます」


 俺を追って来たギルド連中は向かってくるのをやめて、こっちの様子を眺めている。


「くくくっ、ライゼル、せいぜい遠くへ逃げて見せろ!」

「ひっ、ひいいいい!?」


 とにかく巻き込まれないように、この場から離れるしかなかった。


 走り出そうとした時を狙っていたかのようにして、イビル母さんが俺を思いきり受け止めて、抱きしめてきた。


「まぁまぁ! ライゼルちゃん、甘えたいの?」

「い、いや、ここから逃げ……」

「え? なぁに? 背中を預けたいの~? じゃあ、はい」


 何を勘違いしてくれたのか、俺の体をくるっと回転させて、支えるような姿勢で捕まえられてしまった。


「ま、待って! 今すぐここから離れ――」

「ん~?」


 何をどう表現していいか分からないものの、何も知らないイビル母さんに動きを封じられた。


「くくっ、神聖エルフが人間ごときにその力を放つか」


「悪魔に言われる筋合いなどありません。わたくしは、召喚士ライゼルを加護することを約束しました。そこに見える人間たちは多勢でありながら、ライゼルに攻撃を仕掛けようとしたのです。あなたのような悪魔も人間と似たようなものではありませんか!」


「くっくっく……キサマの光で我を抑えるつもりか。面白い」


 もしかしなくても、トルエノの本当の力とエルフ族の戦いが始まってしまうのだろうか。


 その前にロランナ村からの連中を先にどうにかしないと駄目な気がする。


 ルムデスさんと召喚の契りを結ばないことには、トルエノと戦いを始めてしまいかねない。


「イビル、あ、あのさ、トルエノに伝えたいことがあるんだけど、離してもらっていい?」

「うふふ~ライゼルちゃん、身の程はわきまえてね?」

「ひっ!?」

「最弱ちゃんは、大人しく引っ込んでないとすぐにやられてしまうの~」


 ここにきて毒舌発動? もしかして水は足りているけど、光が足りなくなったのかもしれない。


「ご、ごめんなさいっ! い、行かないと!」

「そう……そうなんだぁ。それじゃあ、ライゼルちゃん――」

「へ?」


 イビル母さんに後ろから抱きしめられていた体は、一瞬だけ自由を得た……と思っていたら、俺の体を抱えたイビルの手によって、空に放り投げられていた。


「えっ……」

「うふふ~いってらっしゃぁい!」

「そんなー!」


 物凄い力で空に投げられたばかりではなく、トルエノとルムデスの頭上を通り越して、ギルド連中の中心目がけて地上に落ちてしまった。


「「ライゼル!? お、お前、どこから落ちて来た……」」


 ざわざわと声が聞こえて来ているものの、あまりの展開に意識を失いかけていた。


「うーん……」

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