恋溢れるさかずき

西秋 進穂

美人占い師と押しに弱い男子大学生


「――ようこそ《占いの館》へ。


さあて、早速だけどあんた様が占って・・・欲しいことは……なるほど、なるほど。《恋占い》ってわけね。

あーいやいや、恥ずかしがることはないよ。この私、《超美人占い師》の仕事は恋愛相談だと言っても過言じゃあないしさ。

恋に恋する男子大学生。そんなあんた様には――コレだ!


ドュルルルルルルル……ドュン!

名付けて『銀色の杯カラスのコップ』。

――どんなアルコールでも湧いて出てくる魅惑のさかずきさ。


そう、その通り! 『飲まして酔わしてドッキドキ』大作戦!


……まあ、聞きなさいって。悪い話じゃあない。

面白い決まりが三つあるんだよ。


一つ。

あんた様は対象者を決める。その人にどんな・・・アルコールでも提供できる。


二つ。

選択した相手は一度だけチェンジ出来る。なんとまあ優しい仕様だね。


三つ。

飲んだ相手はあんた様にとって都合のいい《酔い方》をする。


……あ、その顔。疑っているね? 

さっきも売れたのになあ。この《魔法を無効化する指輪》と一緒に。

この指輪も欲しいかい? 要らない? セットでお買い得なのに。


まあせめてこのコップだけ持って行きなさいな。

代金はそうだね――コレが役に立ったらでいいよ。出血大サービスだ。


……え? まだ信じられない? ――わかったよ。欲張りさんなんだから。特別だぞ? この部屋から出たら意中の相手と《運命的に》出くわすことにしといてあげる。


ほら、行った、行った。占い師も暇じゃないんでね――」






――こんなの、信じるバカがどこにいると思う?


占いからの帰り道。日差しが強い。

俺は自身の右手を見た。

優勝トロフィーみたいな形をした銀色の杯が、そこにはあった。


……本当俺って押しに弱いよなあ。

押すこと・・・・は出来ないのにさ。


「……はぁ」

そうやって三十センチくらい肩を落としつつ、大通りの方へと角を曲がる。




――するとすれ違いざまに人とぶつかりそうになった


「あっ、と……すみません」

「ああ、こちらこそごめんなさい」

顔を見合わせる。

どえらい美人がそこにはいた。というかこの人は――


「……霧島きりしま先輩?」

「へ? なんだ、遊太ゆうたじゃないの」


目の前で「よっ」とえくぼを作る女性。この人こそが俺の恋するお相手――霧島先輩。

なのだが……どうしてここに?



――意中の相手と《運命的》出くわすことにしといてあげる



おいおいまさか、うそだろ?

あの占い師――本物なのか?



「おーい、遊太? 何考え込んでんの。ていうかこんなとこでなにやってんの?」

「えーと、まあ別に――」貴方との恋模様を占ってました、とは言えない。

「なによ」

「あ、そうだ」

「ん?」先輩は小首をかしげた。



「あの、先輩。……のど、渇きませんか?」



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