第39話


子供たちの手首には1センチ幅の銀の腕輪が通されている。成長と共に腕から手首に嵌める位置を変えていく腕輪それは、子供たちの誕生祝いに村から贈られるプレゼントとなった。

赤ん坊だからといって楽観視出来ないことを、レリーナとシュリ夫婦の5歳になる双子が答えた。


「「 あかちゃんカワイイー」」


シンシアとオルガの夫婦に新しく家族となったアシュア。彼が生まれた時の騒動から一週間。レリーナとシュリが家族とジュードとニーナ、ナシードも一緒に誕生祝いを持ってきたのだった。


「リュオンもリュシーナも。生まれた頃はこんな感じだったのよ」


「「 ちがうよー」」


「・・・何が違うの?」


「だって。あかちゃん『こわい。こわい』ってないたって」


「まどを ガタガタならされて こわかったって」


双子の言葉に大人たちは驚きで顔を見合わせる。それほど強い風ではなかったが、窓を揺らし続けていた。それに驚いたのか、アシュアは泣き続けていたのだ。


「あかちゃん。かぜさんは 『おめでとー』っていいにきてたんだよー」


「はやく いっしょにあそぼーって」


「モーモーさんが おいしいミルクいっぱいくれるっていったの?」


「「 よかったねー」」


レリーナが抱いた状態でラグの敷かれた床に座り、リュオンとリュシーナが近くから見ている。


『赤ちゃんは弱いから触ってはダメよ』


この村の子たちは、その言いつけをよく守っている。

生まれた頃のことを覚えている子がいる。


「何にも見えなくて怖かったの。ママに抱かれて安心してたら、いろんな人が手や足やほっぺたを触ってきて。だから『やめて』って泣いたら、ママから離されたの。怖くて泣いてたら『この子はママしかダメなのね』って。『声じゃない声』で腹を立てられたの。私・・・今でも、その人が怖い」


「ボクもそう。寝てるとお兄ちゃんたちが触って起こすの。でもボクが大きな声で『ヤダー!』って泣くと、お母さんがすぐにきて『もう大丈夫』って言ってくれて安心したんだ。お兄ちゃんたちはパパにいっぱい怒られるんだよ」


そんな話をする子たち。その子の親は誰もが心当たりがあったそうで、幼少期に想像だけで話をする『作り話』ではないらしい。


「ねえ。リュシーナ。この子は動物とお話しが出来る子なの?」


レリーナの問いかけにリュシーナは首を左右に振る。


「このこはねえ。『なんのちからも もってない』よ」


ヴェルヘルミーナ。愛称ミナ。ユーリカの妹でリュシーナたちの翌年に生まれた。

イーファン。ミナの双子の弟。

この子たちも生まれつき『聖なるちから』を持っていない。しかし、途中から目覚める可能性がある。

ただ・・・アシュアと違い、『動物の声』は聞いていない。今も「聞こえた」ということもない。季節の変わり目に荒れる風が出す物音に怯えるが、風自体を怖がることもない。


「レリーナ。これを」


オルガが先日の村民会議で預かっていた腕輪をレリーナに渡すと、レリーナは受け取りアシュアの左腕に通す。


「ママ!あかちゃんが『しずかになった』って!」


「しぃー。だよ、リュシーナ。あかちゃん『ねむい』んだって」


リュシーナが驚いた声を上げてリュオンに注意される。リュオンの言葉通り、アシュアはウトウトと眠りはじめていた。


「効果は抜群なようだな」


「そうだな。腕輪の作成を依頼しよう」


「銀は『悪しきものを払うチカラがある』と言われている。子供たちの心を守り、すこやかな成長を願う意味も込めて銀製の腕輪にしよう。それを『村からの贈り物』として誕生祝いのひとつにしようと思う。・・・シンシア。それでいいか?」


「そうね。それを亡くなった時に回収して、浄化してもらってまた送る。銀がいつまでもあると思わないし、大切に使っていけば伝承されて受け継がれていくわ。それこそ、私たちやこの子たち亡き後にも」


「神殿で家ごと、家系ごとに預かってもらおう。それを代々継承する」


「私たち大人も着けましょう。そうすれば、村では代々身に着けるものとして、子供たちも抵抗がないでしょう?」


レリーナの言葉に、大人たちは同意するように頷いた。


「まずは子供たちからだ。それから大人用も作って貰おう」


こうして、このオルスタ村に『新たな伝統』が生まれることとなった。

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