第38話
ミリアーナの言葉を
驚いたことに、『相手の感情に揺さぶられる子供たち』が通信部に三割もいた。エンディもカリファの喜びの感情を全面に受けとってしまい、放送部に駆け込んでしまったことが分かった。
「子供に感情をコントロールしろという方が難しい」
「そうね。『受け取る側』だって感情を抑えろって言われても難しいわ」
「授業中の通話は禁止にしていても、家で感情に流されたら。・・・それも問題よね」
「それでは根本的な解決にならない」
「あの・・・。ちょっと確認してもいいかしら?」
応用学校で薬学科を受け持っているレリーナが、今日は基礎学校との合同会議に参加していた。普段なら合同会議でもレリーナは生徒の見守りで学校に残っている。会議の内容は、後で夫のシュリから説明してもらえるからだ。しかし、今回の議題は『聖なるちから』だったため、レリーナも参加していた。さらに保護者も参加する大きな会議になっていた。
「嫌な話をするけど・・・。その感情は『亡くなる時』はどうなるの?痛いや苦しいって感情が流れるのかしら?それに、感情だけなの?痛みまで共有するようなことはないのですか?」
レリーナの言葉に誰もが衝撃を受けた。誰ひとりとしてその考えまで至らなかったのだ。
「あの・・・。ウチの子が『聖なるちから』に目覚めた時なんですが。ウチの子が溺れた友達から助けを求められた時に呼吸困難を起こしたの。その時はパニックを起こしたからだと思っていたけど。今考えたら・・・」
その言葉はショックだった。
もし助からなかったら・・・一緒に死んでいたということにならないか?
「これは・・・。早く対策を考えないと 。生命に関わるケガをした時に、『受けた側』の方がショック死するかも知れない」
オルガの言う通り、事故は何時起きるか分からない。だからこそ、急いで対策を考える必要があった。しかし、重大な問題だからこそ、その場ですぐに解決策が出せなかった。
「これはすぐに案を出せないだろう。各自持ち帰って、次・・・五日後の『村民会議』に時間を作って話し合おう」
オルガの言葉に「五日後か・・・」と呟く保護者もいた。子供が通信部に在籍しているが、感情の共有はない。しかし、これから先もずっと共有しないとは限らないのだ。
他の保護者たちも、通信部じゃないからと言って安心できない。『動物や自然と意思疎通している子供』も大勢いるからだ。
大地に、果樹に、豊穣を願う子供もいる。風に受粉を頼む子供もいる。
そんな子たちは、嵐の日は家で震えているのだ。「悲鳴が聞こえる」と。
感覚の幅が広い子供たちだ。その共有相手が人に変わる可能性は高い。それも『不特定多数』に。
『ウチの子は大丈夫』なんて、誰も考えられなかった。
一週間後の村民会議にて、ひとつの案が腕輪と共に出された。
「これは『届く感情を撥ね付ける』効果を付けた腕輪です。これは通信部に効果があると思われますが・・・」
「自然界と心を通わせる連中には不向きなのか?」
「・・・いえ。感情を完全には撥ね付けられないのです。彼らは『機嫌』などの感情面を強く受け取ることに特化しています。そのため、弱いですが感情を受け取ってしまうようです」
たしかに一部の者たちでは効果が弱ってしまうだろう。しかし『何もしない』よりはいいだろう。
「・・・それでも現状打破にはなるだろう。生産を頼めるだろうか?」
「いえ。それより、各家庭で身に着けさせる物を用意してもらい、それに付与した方が早く、我々の負担も軽くなります」
「いずれ・・・季節の変わり目に、どの程度の軽減になったか。報告を貰えるだろうか」
嵐は季節の変わり目に起きやすい。『聖なるちから』で自然のちからを捻じ曲げることはしない。天候は『神の
その時に少しでも怯える子が減ればいい。
ただ、それだけだ。
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