第29話


出産で弱ったレリーナが、人並みの生活に戻れるまでに半年かかった。母子ともに生死を彷徨さまよったため極限まで衰弱していたのだ。


レリーナが回復するまでの間、ミリアーナとユーリカは出来る限り双子のそばにいた。レリーナが回復してからも、二人は双子のそばを離れない。

シュリの両親が双子の世話をする姿を毎日見ていたからか、『小さなお母さんズ』は自分たちの出来ることをするようになった。といっても、沐浴時はタオルや肌着を用意したり、使い終わった哺乳瓶を洗ったり。煮沸消毒など、お湯を使うことはシュリたち大人がしていたが。

・・・それでも、彼女たちの手伝いのおかげで、大人たちが助かっていたのは事実だった。



実は、『変わった』のは彼女たちだけではなかった。


村の『聖なるちから』が現れた50人近い子供たちは、大人の手伝いが出来ることを喜び、『自分が出来ること』を手伝っていく。けっして『出過ぎたこと』はしない。


「分かんないけど、『こうするんだよ』って教えてくれるの」


どの子も、そう口にする。


「誰が教えてくれるの?」


「分かんない」


子供たちも分かっていない。しかし、子供たちは誰ひとり間違ったことはしていない。そして、何かする時は必ず大人に確認してから。刃物を使うことなどには手を出さない。


そのことを遠い王城で知ったナシードが、自分の『聖なるちから』を調べ続けてひとつの結論に達した。しかし、それを確かめるため、ナシードがオルスタ村を訪れたのは、冬支度が始まる頃だった。





「かわいいミリィ、ユーリカ。小さな兄妹を紹介してもらえるかな?」


「コッチが『リュシーナ』」


「コッチが『リュオン』」


「・・・どうやって見分けるんだ?」


「俺にも分からん」


「・・・親だろ」


「見た目がそっくりなんだ。分かるわけがないだろ」


「・・・・・・親だろ」


「コイツら。同じ位置にホクロがあるんだぞ」


「ミリィ。ユーリカ。キミたちはどう見分けているんだ?」


ナシードの言葉に、二人は顔を見合わせて「「 んー?」」とミリアーナは右に、ユーリカは左に首を傾げる。


「リュシーナは『おひさまのいろ』なの」


「リュオンは『おつきさまのいろ』なの」


二人の話だと、双子は『おひさま』と『おつきさま』の光を纏っているらしい。それで見分けているらしい。


「んー?」


シュリとナシードが双子をジッと見るが、『纏っている光』を見ることができなかった。


「パパ。みえない?」


ミリアーナがシュリの腕に掴まると、っすらだが、双子の周りに光が見えた。


「ナシード。手を貸せ」


ミリアーナを膝に乗せたシュリがナシードの腕を掴む。するとナシードにも双子が纏う光を見ることが出来た。シュリにも、さきほどより強い光が見えた。


「・・・これが『双子の光』、か」


【 そして、これが『ミリィのちから』か 】


【 これはどう見る? 】


【 『どう』とは? 】


【 『双子のちから』だ 】


【 ・・・・・・『ひと』だと思うか? 】


【 やはりそう見たか 】


ミリアーナを通して見た双子は、『ひと』ではなく『精霊』に近いものだった。

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