第27話


「ミリィの『聖なるちから』のことで気になっていることがある」


シュリが真剣な表情でオルガを見る。


『オルガは気付いている』


シュリはそう確信していた。

そんなシュリの表情にオルガは大きく、そして静かに深呼吸を繰り返してから話し出した。





「・・・それは本当のことでしょうか?」


「ええ。間違いないと思われます」


村長宅に集まった大人たちは、村長補佐オルガの言葉に困惑した表情で夫婦同士で。隣の人と。そしてひとりで俯いて考えこんでいる。


「ウチは息子です。『聖なるちから』が使えるのは女性だけでは・・・」


「実は・・・」


ナシードがそう前置きをして、自身の身に起きたことを説明する。


「私が受け取った『聖なるちから』は、離れた相手と意思疎通出来るというものです。近距離ですが、シュリと『念話』を試しています」


「練習して1時間。今では、俺からナシードに言葉を送ることが出来るようになった。・・・ちなみに俺自身に異状は出ていない」


シュリの言葉にナシード以外が慌て出した。『聖なるちから』を受けていないシュリが『聖なるちから』を使っているというのだ。


「シュリ!本当にどこにもおかしい所はないの?!」


青褪めたニーナに揺すられるシュリは、それでも冷静に「何も悪い所はない」と答えたが、すぐにナシードに向かって目を吊り上げた。


「誰が『頭以外で』だ!」


「あ。バレた」


「いま送って来ただろ!」


「ちょっと間違えただけだ」


「悪口を送るな!」


「シュリこそ『性格の悪いお前に言われたくない』って何だよ」


「事実だろうが」


二人の低次元の言い合いやりとりに誰もが笑い出した。最初はじめはシュリを心配していたニーナも、変わらない二人に安心したようにそっとため息を吐いた。



オルガが神殿で語っていたこと。


「ミリィと娘のユーリカはお互いの家にいながら話をしている」


ミリアーナから送られるだけではない。ユーリカからも送っているのだ。・・・キッカケは、ミリアーナから「ユーリカが『おじいちゃんがコンコンしてあつい』って」とシュリに教えに来たのだ。


「ユーリカはお家だろ?パパとママがいる」


「いないよう。ユーリカがないてるのー」


シュリは必死になって訴えるミリアーナを連れて、村長宅へ向かった。途中で自宅へ帰るシンシアとオルガの村長夫婦と会った。二人は出産予定が近いお宅へ行った帰りだった。出産の介助は女性の仕事だ。お湯を沸かしたりの雑務は男性の仕事だ。そのため、二人はだいたいの出産日を確認に行っていたそうだ。


「前村長が風邪で倒れてユーリカが泣いているようだ」


それを聞いたオルガが真っ先に村長宅へ帰ると、高熱を出し意識が朦朧な状態で床に倒れている義父を見つけた。そばでは何が起きているか分からないユーリカが泣いていた。

シュリがレリーナから預かった解熱剤と風邪薬を、とろみをつけた白湯で飲ませて翌朝には危機を脱した。神官としての知識を持っているオルガの見立てでは「シュリが薬を持って来てくれたからすぐに薬を飲ませることが出来て助かったが、もし自分たちが帰ってから薬を貰いに行っていたら間に合わなかった」らしい。意識がない状態では薬を飲ませることも難しかったからだ。

ミリアーナとユーリカの二人は「どうして分かったの?」と聞かれて当たり前のように言った。


「ミリィに『たすけて』っていったの」


「ユーリカが『たすけて』っていったの」


二人はこの日から、普通に離れていても話が出来るようになっていた。


「しかし、ミリアーナのちからは『声なきものと言葉をかわす』能力のはずだ。実際、レリーナのお腹の子とミリアーナは会話をしている。では、『離れている二人が会話できる』のは誰の能力だと思う?」


そのことを聞いた大人たちの中で、顔を見合わせている親たちがいた。

二人だけではない。すでに同じ『聖なるちから』を使っている子どもたちが現れているのだ。それは女の子だけではない。男の子でも見られていた。


「今は『間違ったこと』に使われていない。『聖なるちから』は神のちからだ。・・・ナシード。そのちからを手に入れる前に何を考えた?」


シュリに指摘されてナシードは顔をらせる。しかし、一瞬思い出したことをシュリに送ってしまっていた。


「『このオルスタ村を守りたい』。・・・やはり、か」


「だから、私の思考を読むな!」


「読んでない。ナシードが思い返したことが俺に送られて来ただけだ」


「だいたい、なんだ。『やはり』って」


ナシードの言葉にシュリは「仮説だ」とひと言告げて、集まっている人々に向けて聞いた。


「子供たちは『助けて』という救いを求める声を発信したのではないか?そして、それを娘たちのように『近しい誰か』が受け止めた」


シュリの言葉に「ウチの子は池に落ちて救いを求める友人の声を聞いた」と男性が手を上げた。それにあわせて「ウチの子は友達の母親が階段を踏み外して落ちて動かないと泣きながら訴えたわ」と次々と声が上がった。


「キッカケは分からない。しかし、子どもたちに現れた『聖なるちから』と、今回ナシードが得た『聖なるちから』。それがどんな意味を持つか分からないが・・・。『村の外』に知られて得することはない。・・・どう思う?」


「私は、このことを公表する気はない」


シュリに意見を振られて、ナシードは大きく息を吐くと最後に静かに告げた。


「私は授けられた『聖なるちから』でこれからもシュリと共にこのオルスタ村を守って行こう。・・・そして、私は『自分の血族』を外に残さない。このちからを受け継いだ子孫たちに悪用させないために」

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