第10話



「最後はレリーナだね」


「はい」


「ではこの水晶玉に手を乗せて」


村の神官に促されるように、レリーナは水晶玉に触れた。

同時に水晶玉から光が溢れ出した。






「私は『聖女』になりません」


「いや。しかし・・・」





この村で水晶玉が認めた『聖女候補』はレリーナただ一人だった。

しかし、レリーナは『聖女の子孫の特権』として、聖女候補を辞退した。

村の誰もがレリーナの意思を尊重することにした。

唯一粘っているのは、王都から来た神官見習いのエイギースだけだ。

彼はレリーナ一家が領主親娘に受けた仕打ちを知らない。

だからこそ、レリーナの家まで押しかけてきて、無理矢理連れ出そうとした。

シュリが竹刀で太刀打ちし、大人たちもそれに気付いて叩きのめした。

無理矢理家から引き摺り出されたレリーナは、恐怖から気を失ってしまった。

それをいいことに、エイギースは連れ去ろうとしたのだ。

『神官見習い』という立場を悪用した『人攫ひとさらい』として、村の神殿と村長から、王都の神殿へ訴えが出された。

エイギースは王都で罪を問われることになった。

レリーナの『事情』を知らなかったとはいえ、エイギースの行動は女性に対して失礼な行動でしかなかった。

エイギースは自身のことしか考えていなかったが、先輩神官も、見習い神官の行動を止められなかった責任を問われることになる。

しかし、レリーナが受けたであろう精神的なショックを考えると、その程度の罰では許されないのだ。




「レリ。大丈夫?」


レリーナが目を覚ましたのは自分の部屋のベッドだった。


「わたし・・・?」


身体を起こそうとして、腕の痛みで『受けた仕打ち』を思い出してガクガクと身体を震わせる。

そんなレリーナをシンシアが強く抱きしめて、優しく背を撫でる。


「落ち着いて。大丈夫よ、レリ。約束通り、シュリが『やっつけてくれた』のよ」


「シュリくんが?」


「そうよ。でもね。そのせいでシュリが・・・」




バンッと勢いよく部屋の扉が開かれた。

それと同時にレリーナが部屋へ飛び込んできた。


「レリ姉ちゃん・・・」


「シュリくん。ケガは?咳は出ていない?苦しくない?」


「レ、レリ姉ちゃん!落ち着いて!僕なら大丈夫だから!」


シュリの無事を確認すると、レリーナはシュリを強く抱きしめ「良かった」と呟いた。


「・・・ごめん。レリ姉ちゃん。僕がレリ姉ちゃんから離れたから、レリ姉ちゃんに怖い思いさせた・・・」


「 そんなことないよ。『悪い人』から私を守ってくれたんでしょ。ありがとう。シュリくん」


床に膝をついているレリーナは、シュリの肩に顔をうずめているため様子を知ることが出来ない。

しかし、抱きしめてくる腕と声は震えていた。

そんなレリーナを強く抱きしめて、やっと『大好きなレリ姉ちゃんを守れた』という実感が湧いてきたと共に、『もっと強くなって、レリ姉ちゃんを守りたい』と心に誓った。



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