私は聖女になる気はありません。

アーエル

第一章

第1話



アストリア帝国の外れにある小さな村『オルスタ』。

自給自足のこの村で、私『レリーナ』15歳は一人で住んでいる。

父は5年前に。母は先月亡くなった。

以前から、早く起きた朝は村の外にある森に入って、実を摘んで来てはお菓子やジャム作りに使っていた。

今朝も『チェチの実』が沢山摘めた。



「レリ!おはよう!」


「おはようシア」


私が村に戻ると、幼馴染みのシアことシンシアと会った。

彼女は山で山菜を採ってきたらしい。


「また・・・チェチの実の方が薬草より多くない?」


呆れたように言われて、私も苦笑いするしかなかった。

そう。私は祖母の代から『薬師くすし』を生業なりわいとしてきた。

私が両親を亡くしても一人で生きていけるのは、その仕事を幼い頃から習い、受け継いできたからだ。



「ねえ。そういえば領主様のところに神官様が来てるらしいよ?」


「神官?何故神殿じゃなく領主様のところに?」


「『聖女さま探し』じゃない?」


今の聖女さまは『ご高齢』だと聞いたことがある。

『聖なるちから』が弱まり、各地に妖魔や魔獣が現れるようになったそうだ。

そのため、次代の聖女さまを探していると聞いている。


「領主様のところに来たって事はビアンカが『次代の聖女』ってこと?」


「ありえないでしょ。『あのビアンカ』だもん」


シアの言葉は辛辣だ。

いや。多分。この村だけではない。

この領地で、ビアンカに好評価を付けるのは誰もいな・・・一人だけいた。

彼女の父親で領主の『ダントン男爵』だ。

それほど、彼女は『村の嫌われ者』なのだ。

・・・私も、小さい頃から酷いイジメを受けてきた。

ただ、シンシアが。他の幼馴染みたちがいたから性格がひねくれずにすんだ。

その代わり、ビアンカの性格が異常なくらい捻くれた。

だいたいこの村は領主の館から一番離れているのに、何故わざわざ来るのだろうか。



「あ。キミたち。ちょっといいかな?」


私の後ろから見知らぬ男が、困ったような表情で近付いてきた。


「・・・シア。ごめん」


「うん。いいよ。またあとでね」


私はシアにあとを任せて、逃げるように家へと急いだ。

摘んだ薬草が傷む前に風通しの良い場所に吊るして乾燥させたいし、何より『見知らぬ男』は嫌いだ。




「あ!ちょっとキミ・・・」


「止めてもらえます?」


シンシアが男の前に立ち塞がる。

その目はキツく、男は思わずひるんだ。


「おい。シンシア。どうした?」


「何だ?コイツ。シンシア。何があった?」


シンシアの様子に気付いた村の男たちが、2人の周りに集まり出す。


「コイツ。レリに『声をかけた』んだよ」


「いや。俺は領主の所に来た『神官見習い』で・・・」


「『余所者よそもの』がレリーナに何の用だ!」


牛農家のジェシーが鍬を片手に寄ってきた。


「あ、あの。明日・・・村の教会で『聖女さま探し』のために、女性の皆さんには『鑑定』を受けて頂くことになったので・・・」


「それとレリーナと何の関係があるんだ」


「あ・・・いえ。ただ教会に伝えて貰えたらと思って・・・」


「そんなの自分で伝えに行け!」


「はい〜〜〜っ!!」


すみませんでしたー!

『神官見習い』は、そう叫んで逃げるように教会へ走って行った。




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