第34話
「トルスタイン様!邸に馬車が・・・」
「
正直な話、ミンティア姫の騒動時に王都不在だったことにどれほど感謝したことか。
エステルの騒動では、話を聞いた義母は領都から帰って来ようとした。あの時、義弟のルーファス殿が熱を出したために帰還は叶わなかったが。
ただし、手紙が届いた。
私とリリアーシュ嬢には『勉強は
しかし義父には『現時点での詳細を寄越せ』というものだった。そう。『冷酷宰相の奥方様』は温室育ちの貴族令嬢ではなかった。
─── それだけ『危険と背中合わせの暗黒時代』だったそうだ。
義父は爵位の譲渡などで娘たちを守ったが、当事者であるエステルとグラセフは邸を追われ市井を彷徨っていた。─── それは義母メリーベルの
『ハルストン男爵家アモンとエステルの婚約はそのままに。本人は北部の神殿経営の学校に入れなさい。寄宿学校のため『余計な情報』がシャットアウト出来るでしょう。エステルはまだ10歳の少女です。これから教育すればいくらでも淑女と成長出来るでしょう。そして父親のグラセフを
義父はミラルダ神官長に協力を仰ぎ、グラセフに「ある貴族領が人材不足になっているそうです。
実際に義母はいくつかの仕事の補佐官を望んでいた。仕事に男女は関係ない。ただ『主犯・従犯に関わらず、犯罪に加担していないか』が大事だ。
たしかにグラセフは犯罪には手を貸していない。だが『娘を差別し教育と躾を
義母は躾に厳しい。しかし、厳しいだけでなく優しい。『線引き』がされており、『必要以上に詰め込むな。休む時はちゃんと休め。ただし『すべきこと』をしないで休むのは怠惰だ』と私にも教育している。
「我が家に婿入りするのであれば、殿下とはいえ我が家族。我が家の方針に従って頂きます」
初対面で六歳になる前の私に義母はそう言った。私は「もちろんです。宜しくお願いします。
「お帰りなさい。リリアーシュ。トルスタイン」
「ただいま戻りました。お母様」
「ただいま戻りました。義母上もお帰りなさいませ。領地の方は如何でしたか?あとでお話し頂けると嬉しいのですが」
言外に『グラセフはどうなりましたか?』と聞いてみた。そんな私に義母は微笑み「そうね。私も『学院のこと』を聞きたいわ。特にリリアーシュはまだ学院生活が始まったばかりだもの。色々と大変でしょうね」と返された。『代わりにエステルやミンティア姫が『しでかしたこと』を聞かせてくれますよね』ということだ。
「はい。先に勉強を済ませて参ります。義母上も長時間の移動でお疲れでしょう」
「そうですね。ではお茶の時間をご一緒しましょう」
「はい。お母様。あの、お茶の後にマナーレッスンをお願いしても宜しいでしょうか?」
「いいわよ。何か授業で困ったことでもあったのかしら?」
義母の問いかけにリリアーシュ嬢は「いいえ」と左右に首を振る。
「いまミルッヒ様。あの、クラフテラ国の第三王女様なのですが、その方を
「そうね。ご家庭によって所作が違うわね。でもエンリ嬢やシュスラン嬢とは同じではなくて?」
「はい。そうなんです」
「リリアーシュ。私が貴女に教えたのは『宮廷マナー』と呼ばれる、上位貴族のパーティーで使われるマナーです。貴女は私の後を継ぎ領主になるのですよ?王族の方々の前で一般のマナーを使っては恥さらしになってしまいます。エンリ嬢とシュスラン嬢も上位貴族ですから、王城のパーティーに出ても恥ずかしくないように宮廷マナーを習ったのでしょう」
「リリアーシュ嬢。ミルッヒ嬢は隣国とはいえ王族です。出来れば『宮廷マナー』を覚えて頂いた方が宜しいかと思いますよ」
「はい。分かりました」
「では部屋へ下がらせて頂きます」
「それではお母様。失礼します」
「お茶の時間に、またお会いしましょう」
温室のある廊下を進まれた義母と別れ、私とリリアーシュ嬢は階段を上がる。その際にリリアーシュ嬢に手を差し出すのも忘れない。「婚約者といえど、婚前の女性に無闇に触れてはいけない」というマナーがあるためリリアーシュ嬢に触れることが出来ないが、このような階段では手を差し伸べるのは男性として当たり前だ。ただし『婚約者以外』には節度というものがあるが。
『これもマナーレッスン』と思っているリリアーシュ嬢はきっと気付いていない。
─── 私の、早鐘のように打ち
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