第22話


グラセフ・ボナレードとエステル・ボナレードが登城命令を受けて会議室に現れた。すでにグラセフは爵位を娘たちに譲り無爵となっていた。そのため下手しもてに席を与えられていた。娘のエステルは咎人とがにんとして縄をたれて、父親の隣で床に跪いている。上手かみてには、王太子ジルスタットが座っており、隣には『冷酷宰相』ノイゼンヴァッハの隠しても隠しきれていない『ひんやり』とした気が溢れ出していた。


「トルスタイン。『キミのお義父君ちちぎみ』は、かなりおいかりのようだね」


「まだ『序の口』ですよ」


兄は反対隣に座る義父に目を向けながら、隣に座る私に囁いた。私は一度だけ激昂した義父を見たことがある。私がまだ子供だった頃、いま私の隣に座り私の言葉に驚いている兄を守ろうと思い、何の計画も作戦も考えずに動こうとした私に気付いた義父に叱られたのだ。


「無策は、自身も『守ろうとしている相手』も滅ぼすことになる」と。


そして、私は『自らをエサにしておびき寄せる』計画を立てた。義父は細かい綻びを直してくださり、一年で三貴族の不正を暴くことが出来た。その時から、私が尊敬する方が父から義父に変わった。

私は上手く隠していたつもりだったが、心がすさんでいたのだろう。そのため、純粋無垢で『大人の闇』を知らないリリアーシュ嬢と対面した。そして一目惚れして、義父と帰るリリアーシュ嬢を見送ると、その足で父にリリアーシュ嬢との婚約を申し出た。父は驚いていたが、婚約を認めてくれた。翌日に父は義父と相談の上、私たちの婚約を発表し、結婚と同時に臣籍降下することが伝えられた。そして後継者教育のためにノイゼンヴァッハ家預かりとなることも伝えられた。


私たちが社交界にデビュタントすると、初々しいリリアーシュの愛らしさに誰も反対されることはなかった。そして誰からも祝福されて現在に至っている。


そんな私に、エステルは馴れ馴れしく声を掛けて胸を押しつけてきた。

忘れているかも知れないが、エステルは私のひとつ下。リリアーシュ嬢と同じ10歳でしかない。10歳の身体に『大人の胸』。あまりにもアンバランスでしかない。


「あとでトルスタイン様のお部屋にお招き下さいよ〜」


「『不貞のエステル』を不敬罪で捕縛せよ!」


義父の言葉で縄を打たれたエステルは暴れて大声で騒いだ。


「イヤー!助けてください!トルスタイン様ー!私はトルスタインさまの未来の妻よ!王妃になって、私を見下してバカにした者たちを処刑台に送ってやるのよー!!」


すでに会議室に揃っていた貴族たちは『貴族の礼儀』を弁えていないエステルの言動に眉をひそめた。しかし義父の発した『不貞のエステル』という言葉に「アレが有名な」「さすが『不貞のエステル』の名に相応しいアバズレだ」とウワサしあった。

うん。いくつか訂正させて欲しいな。

まず、私はキミみたいな節操なしアバズレを婚約者にする気はないし、結婚する気はないよ。

私が大切に思い、守りたいのはリリアーシュ嬢だけだ。

そして、私は『第二王子』という立場。

私が国王になるには、兄に『死んでもらう』ことになるが私にはその気はない。もちろん兄はこんな女を婚約者にすることはない。

この女の言い張る『私と結婚して王妃になる』ことは決してない。

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