第21話
「殿下。旦那様がお帰りになりました」
「早いお帰りですね。
「旦那様の書斎に」
「分かりました。今から伺いますとお伝えください」
「はい。承知いたしました」
ウルは頭を下げて、先触れとして訪室の意思を義父へ伝えに向かいました。
私も
宿題のレポートに『再提出』はありません。でも今回はリリアーシュ嬢の指摘を受けて、改めて作成しました。
義父に少しでも言葉を頂けたら良いのですが。
そう考えながら歩いていると、書斎の前でウルが待っており、私が近付くと扉をノックして許可を得て扉を開いてくれた。そのまま私は足を止めることをせずに書斎へと歩を進める。
「お帰りなさい、義父上。早いお帰りなのは学園の事でしょうか?」
「ただ今戻りました、殿下。今日はリリィだけでなく多数の令嬢の心をお守りくださり、ありがとうございます」
義父は私服に着替えていました。一度帰宅してまた出かけるということではなさそうです。執務机の端にレポートの束を置くと、義父はチラリと目だけを動かして確認したようです。
「義父上。時間がある時に評価をお願い出来ますか?」
「殿下。今週分はすでに済んでいたと記憶しておりますが?」
「はい。ですが、本日リリアーシュ嬢に先にお渡ししたレポートを読んで頂き意見を伺いました。そして、私のレポートには民のことが何も考えられていないことを指摘されました。それを踏まえて新たなレポートを完成させることが出来ました。お
「分かりました。お預かり致します」
義父に勧められてソファーに座ると義父は向かいに腰掛ける。
「改めて。リリィや他の令嬢の心を助けてくださり誠にありがとうございます」
「リリアーシュ嬢はともかく、他の令嬢の心まで助けた覚えはないのですが」
「殿下はリリィに『エステルの存在自体が間違い』と仰られたそうですね」
「はい。リリアーシュ嬢のクラスにも私のクラスにも、彼女のような体型の者はおりません。ですから『彼女の存在は異質だから気にしなくていい』と申し上げました」
「リリィはその殿下のお言葉を教室で話したそうです。そのため『殿下が仰るならそうなんだ』とどの令嬢も納得したそうです。そのおかげで、一限目を休講にしただけで落ち着いたようです」
ですが『エステル・ボナレード伯爵令嬢の編入拒否』で、落ち着いたはずの彼女たちの心を再び揺るがしてしまいました。
「それに関しては学院に抗議文を送らせていただきます」
「その際に『せめてすべての授業を終えてから伝える配慮を頂きたかった』という一文を添えて頂けますか?」
「ふむ。たしかにその配慮があれば騒動ももう少し小さく出来たでしょう」
「残念ながら、そうならなかった可能性が高いです」
「 ─── 殿下?それはどう言うことですか?」
「私が見た感じでは、教師たちはリリアーシュ嬢たちを子供と見下し『時間が解決してくれる』と軽視していたようです。そのため、配慮が足りなかったようです。 ─── 特別科の生徒は、幼い頃より『後継者教育』を受けている子息令嬢がほとんどです。幼いとはいえ大人と近い考え方をします。そんな彼女たちが「家名を
私の言葉に義父は難しそうに表情を歪められた。私が言ったことは何も確証がない。『机上の空論』でしかないのだ。しかし、ありえないとは言い切れない。相手は10歳の少女だ。大人になった時に何かのきっかけで思い出したら。その時に心が傷ついていたら・・・。
「『死を選ぶ可能性はある』ということですか」
「『死を選ぶ可能性が高い』ということです」
「改めてグラセフ・ボナレードとエステル・ボナレードを城に呼び出しましょう。いえ。王立学院初等部特別科に在籍する三学年の保護者も呼び出すことに致しましょう」
デスクに戻った義父がサラサラと書状を書くと封蝋する。ウルが「私が陛下にお届け致します」と封筒を受け取ると、そのまま部屋を後にした。
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