第7話



咎人とがにん『ゾルムス』に問う。父である国王の喪に服さず、国葬を執り行わぬまま『国王』を名乗ったのは何故か」


―――――― え?『父上が亡くなった』?

知らない!何故?どういうこと?

隣で同じように跪いている宰相たちに目を向ける。

誰も僕を見ないで俯いている。

どうして?そんなこと『誰も教えてくれなかった』じゃないか。

兄上・・・僕は父上が亡くなったなんて『知らなかった』だけなんだ。

兄上。兄上。僕を助けて下さい。

今の『あわれな僕』を救い出してくれるのは、もう兄上しかいないんだ。




ノルヴィスは横に立つ『宰相』に目で合図をする。

それを受けたアマルスは頷くと、一段下に控える側近に合図を送る。

側近が扉を開くと老若男女の民が順番に出てきて、一列に並ぶと2メートル上にいるノルヴィスに向かい『立位礼』で敬意をあらわす。


「この者たちに『発言』を許す。咎人『ゾルムス』の罪をみなに明かすが良い」


彼らはノルヴィスに許されると姿勢を正して刑場に振り返る。

ノルヴィスから見て右、『上座かみざ』に立つ男性が一歩前に進むと観覧席がシンと静まり返る。

他の老若男女は用意された椅子に腰を下ろす。


「私は『ゾルムス』の通っていた学院の薬草学教師でした。2年前の入学後に『ひとつの宿題』を出したところ、『宿題をしたくない』との理由から左足の骨を砕かれました。今の私の左足は、膝から下は義足で歩行もままなりません。そんな私を『ゾルムス』は「見苦しい」の一言で学院から追い出しました」


男性の言葉に観覧席で聞いている人たちはざわつく。

学院の生徒たちは『学院を辞められた』としか聞いていない。

しかし『弟殿下』が男性の足を砕いた事は知られていた。

『出された宿題』は『次の授業までに薬草園からひとつ、薬草を摘んでくること』だった。

男性の授業を受けた生徒は知っている。

次の授業で、その薬草の『名前』と『効能』を詳しく説明してくれることを。


「学院から身一つで追い出された私に、『ノルヴィス国王陛下』は『王立研究院』を紹介して下さいました。私は陛下に恩を返すために薬草学研究を続けました。この度、その研究成果が認められて、研究院の『薬草学教師』に任命されました。私の、『どんな形であれ、もう一度教壇に立ちたい』という願いが叶います」


男性は頭を下げてから一歩下がる。

観覧席から割れんばかりの拍手と大歓声が男性に贈られる。

着席した彼は大粒の涙をこぼしながら、再び立ち上がり深く頭を下げた。

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