「本の男」

TNゴン汰

「本の男」

大沢太郎は、特殊な能力の持ち主であった。


その能力とは大量の読書をすることによって得た膨大な知識と、持って生まれた地頭の良さと発想力で、企業を生き返らせる企画案と、いろいろな予測を的中させる能力であった。


太郎は毎日、家で読書ばかりしていた。


外に出るといったら、図書館や本屋に通うくらいであり、まさに本の虫という男であった。


読書ばかりして10年以上が過ぎた。35歳になっていた。


太郎は企画案をブログやWordに書きとめ、予測もブログやWordに書き留めていた。


そして、それらがある程度、的中することがだんだん把握できた。


なぜなら、なぜか太郎の企画案が企業にいつの間にか採用されていたり、さらに予測に関してはすぐに結果が出るので太郎自身も把握可能だったからだ。


太郎は自分の企画案や予測力にはある程度の自信を持っていたが、それを発揮できる場所がなかった。


太郎はなぜ、このような地味でつまらない読書だけの生活を10年以上続けられたのだろうか?と読者の皆さんは思うだろう。


その理由はおいおい、判明していくのでお待ちを。



太郎がある日、珍しく遠出をすることになった。太郎はネット上でのコミュニケーションがかなり上手くなっていた。


リアルの知り合いもほぼいなく、ネットだけが頼りだったので、ネットの出会い系サイトなどで修行を積んでいたのだ。


試行錯誤の鬼であった。




そして、ネットで出会ったある女性と初めての対面の日。


女性の加代は、目の前に現れた男性に驚いた。


なぜなら、目の前の男はサングラスとマスク姿だったからだ。


加代は言った。「太郎さんですか?」


サングラスとマスク男は「はい」と言った。


加代は「太郎さん、なぜ、サングラスとマスクをしているのですか?怪しすぎますよw」と冗談めかして言って、「ネットでの気楽な話し方、接し方のほうがいいですよ」と付け加えた。


すると、太郎は「僕は実はパニック障害という病気なんです」と打ち明けた。


そして、「パニック障害のため、常に不安感があり、それが極限に達して、外出中はサングラスとマスクをつけないと出られなくなってしまったんです」と言った。


加代は「え!そうなんですか。それは初耳でした。そんな病気の持ち主だったとは」と言った。


加代は太郎の実力(企画力や予測力など)を知っていたため、その場ですぐに離れることをせず、「じゃ、室内、例えばカラオケ屋に入ってゆっくり話しましょう」と言った。


太郎は「はい」と言って、カラオケ屋についていった。



カラオケ屋での出来事。


太郎はカラオケ屋に入っても、サングラスは外さない。マスクは外したが。


そして、太郎はかなり歌が上手いことが加代にはわかった。


しかし、緊張している様子は伝わってきた。


「もしかして、病気のせいかな。。。」と内心、加代は思っていた。


太郎はカラオケ屋で打ち明け話を始めた。


「僕がなぜ10年以上も読書だけの生活をし続けてきたかというと、パニック障害のせいで、不安感が強く、外出が困難になっていたからなんです。」


「そして、この病気があるなら、外で仕事ができない、在宅以外ないとなり、必死で能力を磨いてきたというわけです。普通に外で働くなら、サングラスとマスク着用の人なんて雇いませんから」とサングラスをかけながら、太郎は言った。


加代は「そうなんだ」と神妙にうなずいて言った。


太郎は「でも、僕のこの能力もどうやら宝の持ち腐れのようだ。これまで長年かけて磨いてきた能力だけど、発揮できる場所がなかった。パニック障害のような強い不安感がある上に、さらに生きていくことに不安があるので、さらに悪化するという悪循環。」と言った後、深呼吸をしてから、


「だから、僕はこれからどうするべきか悩んでいるし、進路は不透明だし、稼げてないから余計に不安に拍車がかかり、人生厳しいモードになっている。加代さんは僕のような人はどうやって生きていったらいいと思う?」と問いかけた。


そこで、加代はぱっと目を見開いて「そんな太郎さんにはブログがお勧めかもよ。ブロガーって流行っているんだよ。在宅でしか働けないという覚悟があり、今まで必死に努力してきたのだから、ブロガーという職業は太郎さんにはうってつけだよ。」と熱弁をふるい、


さらに続けて「ブロガーは実はほとんどの人が脱落する職業で、だからこそ覚悟と熱意と時間と能力がある人しかなれない。後がない太郎さんには全てが備わっている気がするよ。普通の人は追い込まれていないから覚悟がなく、熱意も少なく、働いているから時間も少なく、能力構築もできていないからね」と強調して言った。


それを聞いた太郎は「いいことを聞いたよ。僕のようなある種、特殊な状況に置かれた人ほど、向いている職業があるということだね。」とサングラスの奥からの怪しい光をはなちながら言った。


加代と出会って、帰った後、太郎は人生を変えると決心し、ブログを書き始めることにした。


「」というダジャレのブログを作った。


ブログである。


太郎が過去、書きとめてきた記事を一気に解放するためのブログだ。


まずは「このブログに過去、書き溜めてきた全てを注ぎ込もう」という太郎の決意である。


「パニック障害と疲れやすさもあるし、外出が苦痛なので、在宅ワークという制約下に置かれたが、元々、内向型のこともあって刺激が少なくて満足する体質なのでブロガーという職業はうってつけかもしれない」と太郎は内心、思った。


「他の職業もあるかもしれないが、とりあえず、このメディアを完成させよう」


太郎のブログ執筆は続く。



後日談。


その後、加代はなんとあの超有名ブロガー「ウミダハヤル」の第5期生だということがわかった。


加代もブロガーだったのだ。


そして、「ウミダハヤル」氏はブログはオワコンだと言っていたようである。


太郎は加代に騙されたのか?と疑い始めつつも、「初めてしまったのだから仕方ない、他に道はないし」と思い、とりあえず続けることにしたのであった。


「ウミダハヤル」氏のことは知っていたが、「ああ、カモを釣る存在か」と思っていた程度の認識だったのだが、加代という存在を通して勧められると、やはり説得力が違っていた。


人の紹介というのは商売にとって一番、上手いやり方なのだ。古今東西、変わらない。


だが、太郎には他に道がない。とりあえず、「」の執筆を続けることにした。 


おしまい。


この小説はフィクションです。

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