憧憬

とろり。

第1話

題名

憧憬



 憧れがあった。

 彼女は成績優秀でスポーツ万能、欠点など見あたらない人だ。誰に対しても優しく接する彼女は私の憧れだった。

 私は暗い性格で、成績はダメ、スポーツもダメな欠点ばかりの人間だ。人見知りするし上手く話せない。

「もう少し、肩の力を抜いたら?」

 彼女は笑顔でそう言った。私は視線を下げた。どうしても人と話すのは苦手で、彼女と話すのもやはり苦手。ドクッドクッと心臓の音が耳に伝わる。頬は自然に赤く染まった。

「ぁ、ぁりがとう……」

 必死に絞り出した言葉は彼女の耳に届く前に宙に消えた。

 歩き出した彼女の背中が徐々に小さくなっていく。

(伝えなきゃ……)

 私は一歩また一歩と走り出した。

 彼女に追いつくと彼女は私に気づき「どうしたの?」と言った。いつもと変わらない笑顔がとても眩しい。

「な、なんでもない……」

 私は急に怖じ気付いて今の気持ちを伝えることができなかった。そして私はその場から逃げた。


 好きです


 その言葉が出なかった。

(やっぱり、女の子が女の子に告白することは変なのかな……)

 誰もいない教室に戻ると、夕日が輝いていた。教室をオレンジ色に染める。黄昏の時間。

 私は彼女の机にそっと触れた。そして――。


 好きです


 不意に聞こえた声に振り向くと彼女が確かにそこにいた。





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憧憬 とろり。 @towanosakura

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