部屋に住み着いた彼女のお話
南河原 候
婚約者・一
とある日、父に呼び出された。
だけど、僕は研究がしていたかったから、行かず部屋に籠って研究をして居たら、いきなり僕以外に出入り出来ない様にしていた結界魔法を破られ、“美しい” と言う言葉が似合う女性が入ってきた。
銀色の長髪、愛らしさもあり涼やかさもある顔立ち、僕が最初見て思った事は、肌綺麗だな~だ。
肌荒れとかシミが一切見られない白く美しい肌。上等な白一色のドレスを着ており、とても彼女に似合うと思う。
困惑が隠せない。だって、厳重に掛けておいた結界魔法が気づかない内に解かれて、顔も知らない美少女がいきなり入ってきたんだよ。百歩譲って、結界魔法が柔だったとする、うーん、でも、そんな簡単に解けない気も…………だけどね、誰、君、知らないんだけど。
新しい使用人と言う訳でも無さそうだし、じゃあ、誰って話になる。でも、僕は知らない。深紅色の目が僕を睨む様に見てくる。とても綺麗だ、目ってあんなに透き通っているものなんだろうか。
「ユクム様。お話がしたいので応接室まで来て下さいますか?」
「………嫌だ」
「何故?」
「もし、僕の事を知ってるなら分かるだろ。研究がしたいんだ」
僕は世間で言う、研究者だ。主に薬品に関する事を研究している。薬だって作るぞ。でも、まだまだ半人前だけどね。
「はい。理解しているつもりです。ですから、お越し下さい」
「っ………分かっている。!?」
顔横をすれすれで氷の槍が通って行く。ひいぇぇぇ、こわ。いきなり氷の槍を飛ばしてくるのかよ、それも殺さんかの勢いで。
「来て下さいますか?」
「……………はい」
また彼女の周りに冷気が集まる気配がして、僕は大人しく返事をしてしまった。脅迫だ。これは歴とした脅迫だ! 後で訴えてやる!
「ん。?? えっと、これは何のつもり?」
首と手に氷で作られた枷が付けられた。身体から力が抜ける感覚がした。立てない程ではないから立って居られるのだが、魔封じか。ちっ、厄介な物付けやがって。
「逃げない様に」
「僕は逃げないよ」
そう言ったのに、彼女は涼しい顔で枷と繋がった鎖を引っ張りながら黙って前を歩く。外してくれないのか。ちっ……転移で逃げようと思ったのに。僕は研究をしていたいんだから逃げない訳がないだろ?
だが、逃げる術が無いから大人しく着いて行く。
見慣れた廊下。たまに高そうな額縁に入った絵があったり、壺が置かれてたりとしている。下は上等な絨毯が敷かれている。
そこを枷を付けた男が美少女に引っ張られながら歩く光景は異様だ。自分でも思うし、これ以上続けて欲しくない。使用人が通る度に変な目で見られるんだ、何時も以上に引く目でな。
応接室に着いた。はあ、やっと解放される。よし、早速、転移の準備だ。彼女が応接室のドアノブに手を掛けようとした。
「ん。待て待て!! このまま入るのか!」
「うん。だって、ユクム様は転移で逃げる気でしょ?」
くっ、見抜かれてる。だが、ここで焦る訳には行かない。
「そんな事ないよ。僕は逃げない」
満面の笑みで言う。こんな清々しい笑顔なら彼女もきっと信じてくれるだろう。
「気持ち悪る」
「え!? 何で!」
「だって、妙に清々しくて」
ちっ、清々しい過ぎたか。こうなったら、もうあの手を!
「お願いします。マジでこのままだとか嫌なんです。そんな趣味があるとは思われなくないんで」
お願いだ、本当に………。中に居る少なくとも二人にはそんな趣味があるとか思われたくない。だから、泣きそうな声でお願いをする。
だと言うのに────彼女は暫く俺を見つめた後、躊躇無しにドアノブを勢い良く開けた。
マジかよ、こいつには慈悲がないのか。ああ、嫌だ。中に居る二人に何て思われるか。想像しただけで歩む足が止まる。でも、それを許してくれない彼女。なんなんだ、こいつは本当に。
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