第24話 異世界とメイドの組み合わせは最高だよな
井上さんが働いている某メイド喫茶にやってきた。
入り口の立て看板に『今流行りの異世界キャンペーン開催中』と書いてあったとおり。
まるで異世界に迷い込んだと錯覚するほど、店内は広く美しかった。
空気も澄んでいて清々しい気持ちになる。
綺麗な内装のなかでも一番、目を引くのは、レジの横に飾られた『聖剣・エクスカリバー』のレプリカだ。
井上さんは、同年代の女の子たちから『羨まし』がられるような、スレンダーな女性だ。
制服は、パフスリープの黒いワンピースと胸を強調する純白のエプロン。
エプロンは、短すぎて機能を果たしているとは、思えなかった。
白のニーソックスとブーツで、胸元を飾るリボンはない。
上半身は古典的な雰囲気を醸し出しているが、スカートはかなり短めで現代風にアレンジされている。
短いスカートの中が見えてしまいそうだな。
髪飾りは、リボンで可愛らしく飾られているタイプのホワイトブリムがいかにもメイドらしいな。
異世界とメイドの組み合わせは最高だよな。
俺はアイスティーを頼み、二三はイチゴパフェを頼んだ。
注文を聞き終えたメイドさんが厨房へと消えていく。
「ヒメちゃんと付き合ってるくせに、あんな美少女とも関係を持っているなんてお兄ちゃんって、意外と女たらしだったんだね。
まさかワタシのことも狙ってるの?」
いちごパフェを食べながら、上目遣いで聞いてきた。
「ああ、もう口元をこんなに汚しちゃって」
俺は妹の汚れた口元をそっとナプキンで拭き。
「井上さんはただのクラスメイトで『妹属性』もないし。
俺は理沙一筋だって、何度も言ってるだろう」
「お兄ちゃんって、本当につまらない男だよねぇ」
「二三、もう少し兄を敬うということをだな……」
「店内ではお静かにしてくださいね。
他のお客様の迷惑になりますので」
メイド服姿の井上さんに注意されてしまう。
フレームレスの丸いメガネに2本の3つ編みお下げとちょっと冷たい感じのする顔立ちで、白いこめかみには、思い切り青筋が浮き出ていたが、メイド服姿だとそれすらも可愛く見えてしまう。
「すみません」
「本当に気をつけてくださいね」
凍てつくような声でそう言い残すと井上さんは、清楚で沈着な表情を崩さないまま、空いている席の食器をテキパキと片付け始めた。
クラスメイトの横顔に見惚れてしまう。
姿勢よく背筋を伸ばす立ち姿は、気負うことも気取ることもなく親しみやすい愛嬌も持ち合わせていた。
抜き身の業物みたいな危険な美しさだ。
わずかながらも纏っている大人びた雰囲気が良いアクセントになっているな。
彼女は、艶めかしくそれでいて素朴な感じもあわせ持つ、まるで実体の掴めないミステリアスな少女だった。
「なんか、とっつきづらいよなーーあのメイドさん」
「ああ、それわかるわ。
まるで見えない壁のようなものを感じるんだよな」
「別に塩対応ってわけじゃないんだけど、愛想がないんだよな」
「見た目はいいだけどな。性格は最悪なんだよな」
身勝手な客の声が聞こえてきたが、当人はまるで気にしているようには見えなかった。
一見大人しそうだが、しっかりした『芯』の強さが見て取れるし。
まるでどこかのお嬢様といった気品が、何気ない仕草の中に自然と匂い立つ。
「きゃあっ!? 仕事ができる女性ってカッコイイわよねぇ。
お兄ちゃんもそう思わない」
二三は真っ直ぐな笑顔で、俺にそう告げた。
「そうだな。井上さんはめっちゃくっちゃ魅力的な女性だよな」
「お兄ちゃんの周りの女性って、みんなしっかとしているわよねぇ」
無邪気とも言える笑顔を向けられ、俺はただ困惑することしかできなかった。
兄として情けない限りだな。
井上さんが一生懸命『働く』姿をしばらく眺め、俺たちはメイド喫茶を後にした。
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