第20話 秋の長雨


 放課後の空き教室。


「なあ、理沙の場合、創作活動で行き詰った場合は、どうしているんだ。

 参考までに聞かせて欲しいだ。

 ちなみに俺の場合は、理沙が描いてくれたイラストを見ることかな」


「これまた唐突な質問ね。

 やっぱり散歩かしら?

 カラダを動かすのは好きだし、頭の中がスッキリして、考えがまとまるのよね」


 理沙はパイプ椅子に腰かけたまま、彼女は脚を組み替える。


 制服のスカートの裾が流れて、健康的な肌色が奥まで見えそうだな。


「なるほどな、ちょっと話は変わるんだけどさあ。

 女の子が何か? 着るときは『上から着る』って、聞いたことがあるんだけど。

 アレって本当なのかな?

 めっちゃくっちゃ気になるんだけど」


「知らないわよぉ!? そんなこと……特に意識したことないし」


 理沙は白魚のような人差し指と親指で、前髪をいじっている。


 細くて柔らかそうな女の子の指。


 爪の先が桜色で、綺麗に手入れされているな。 


 そして嫌悪感がビンビン伝わってくる。


 ブラウスのボタンがいくつか開いているせいで、胸の膨らみと水色のブラジャーがわずかに覗き見えた。


「でも『ズボン』や『スカート』じゃ上半身は隠せないから、上着から先に着るのが一般的だと思うわぁ」


「まあ、普通はそうだよな。

 でも一番最初に穿くのは『パンツ』だよな。

 これは男性も女性も同じだと思うんだよな。

 人によっては『シャツ』が一番最初に着るというヒトもいるかもしれないけど……レアケースなどで、無視してもいいだろう。

 何かのプレイでもない限り『靴下』を一番最初に履くというヒトも、もちろんいないんじゃないかな」


「その考え方だと一番最初に『ブラ』を身に着けるヒトもいないわよねぇ。

 特殊な事情でパンツが履けない限り。

 ライトノベルでは何故か? パンツが履けないヒロインが登場すること稀にあるのよねぇ。男って本当にバカねぇ」


「確かに登場するな。

 何冊か読んだことがあるしな。

 きっとノーパン派か、パンツ派かで、意見が分かれるんだと思うな。

 ちなみに俺は、ノーパンでスパッツを履くというシチュエーションが好きだな 」


「私はパンツ派かしら。特に『縞パン』が大好きだよぉ。

 一般的にパンツやショーツと言えば『股間部を覆う下着』を指す言葉だけどねぇ。

 ファション用語だとパンツは『2つある穴に脚をそれぞれ通して穿くボトム』の総称であり、ショーツはそのうちの『短いモノ』を呼ぶだって、知っていた」


「つまりパンツとズボンは同義であり、ショートパンツやホットパンツも『ショーツ』に含まれるということか」


「そうねぇ。

 膝上までの長さの衣服は、だいたい含まれるんじゃないかしら」


「なるほどな……いろいろと勉強になったよ。

 ありがとう、理沙」


 俺は柔らかそうな太ももを見つめながら答えた。


 薄手の黒タイツに包まれた太ももは『芸術』だ。


 ヒトによって、太ももの『白さ』や『柔らかさ』にも違いがある。


 でもそこに『奥深さ』があるだよな。


 さらに黒タイツというアクセントを加えることで、艶めかしさも演出され。


 美少女フィギュアのような細くて滑らかな曲線美は、見てたのしむものだ。


 むっちりした柔らかな太ももで『膝枕』をしてもらったら『快眠』間違いなしだろうな。


 つまるところ、理沙の太ももはめっちゃくっちゃエロいのだ。


「なら、良かったわ」


 長机の上に置かれた理沙のスマホが、軽く振動する。


 メールでも届いたのか、彼女は手に取ると内容を確認していた。


「ごめん、龍一。今日は独りで帰ってくれる」


 先ほど、スマホを見ていた理沙はどこか深刻な表情を浮かべていた。


 それがメールのせいなのか気になった俺は、そう問い掛けたのだが……。


「龍一が気にするようなことじゃないから。

 本当にごめんね」


 帰り支度を整えると、早足で教室を出ていた。


「はぁ~~~……やっぱり止んでないのか」


 降りしきる雨の音を聞きながらシューズボックスを目指して階段を下りている。


 うかつにも、今日は傘を持ってきていなかった。


 朝は晴れていたし、天気予報も見ないで登校してきたらこのありさまだ。


 頼みの綱だった理沙は私用で先に帰っちゃったしな。


「傘、持っていくの忘れたでしょう。

 もうパパはドジっ子さんだね」


 心底、困り果てているとレイの声が聞こえてきた。


 満面の笑みを浮かべて。


「はい、これがパパの分の傘だよ」


 渡された傘は、くまさんの絵が描かれた子ども用だった。


 しかも濡れている、使用済み感が半端ないぜ。


 これで帰るのは、相合傘あいあいがさで帰るよりもめっちゃくっちゃハズイぞ!?


「レイ、これはちょっと、小さすぎないか?

 今、レイが持っている傘と交換することはできないかな?」


 一方、レイが両手で抱えている傘は、大人がゆうに2人は入れそうなビックサイズだった。


「パパは、もう立派な大人なんだからそんなワガママ言っちゃダメだよ」


「イヤ、でもどう考えても、レイが使うにしては大きすぎないか?」


「もうしょうがないな。

 特別にわたしぃの傘に入れてあげるね。

 うれしい、うれしいよね、パパ」


「それも無理だろう。

 身長差があり過ぎだよ」


「じゃあ、どうするのよ。

 この豪雨のなか傘もささずに帰ったら確実に風邪をひいちゃうよ。

 それでもいいの? ちゃんと答えてよ、パパ」


「そ、それは……」


「お困りのようね、クロネコ。

 妾に考えがあるわ。聞きたい」


「真愛美ちゃんも来ていたのかよ」


 姿を現した真愛美ちゃんは、いつも通りメイド服姿で手ぶらだった。


 つまり今レイが持っている傘が、真愛美ちゃんの傘ということになる。


「当たり前でしょう。

 黎、ひとりで行かせるのは、心配だったからね。

 どこか危なっかしいところもあるからね。

 それで聞きたいの、聞きたくないの

 どっちらかしら」


「聞きたい、聞きたいです。

 教えてください」


「まず、クロネコが黎をおんぶします。

 そして妾が傘を持って、三人で仲良く一つの傘に入って帰ります。

 これが妾の考えた妙案です」


「マナマナは天才だね。

 パパ、おんぶ、おんぶ、早くおんぶして」


 制服の裾を引っ張ってくるレイ。


 他に妙案は思い浮かばないので、しぶしぶといった感じでレイをおんぶする。


「パパの背中大きくて、温かくて、なんだか眠たくなってきたのですよ」


「では、帰りましょうか」


 真愛美ちゃんの方から、ぴったりカラダが触れ合う距離までくっついてきた。


「ああ」


 はたから見たらきっと仲の良い家族に見えるんだろうな。


 不意にそんなことを思ったが、決して口に出すことはせず、通学路を1つの傘の中に並んで歩いて帰った。


 屋敷に着いた時には、レイはすっかり熟睡していた。


 なんだかんだ言ってもレイは、まだまだお子さまだな。


 あとで真愛美ちゃんから聞いた話なんだけど、理沙のスマホに届いたメール内容は『バスケ部からの助っ人要請』だったみたいだな。


 深刻な顔をしてたから心配していたんだけど、脅迫メールじゃなくて本当に良かった。

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