第13話 社交ダンス&チョコ作り


 そして超一流ホテルの大広間を借りきって祝勝パーティーがとり行われていた。


 天井にはいくつも大きなシャンデリアが下がり、黒服をピシッと着こなした給仕係が洗練された身のこなしで豪華な料理を運んでいる。


「優勝おめでとうございます、理沙お嬢様」


「姫川様が優勝すると信じていました。

 ワタクシとお友達になってください」


「ちょっと、抜け駆けしないでちょうだい」


「ごめんなさい。

 彼と話があるので、これで失礼しますね」


 理沙は赤い薔薇をモチーフにしたドレスで、自分に群がるヒトたちに二言、三言断り。


 ドレスの裾を掴んで軽く膝を折り曲げる、とても優雅な一礼をしてからこちらに近づいてきた。


「凄い形相で俺のことを睨んでるんだけど」


「嫉妬の視線て、キモチいいわよねぇ」


「俺は居た堪れない気持ちになるけどな」


「龍一らしい答えね」


 ちなみ俺は執事服に赤ブルマという奇抜な恰好だ。


 あと斎藤さんと井上さんは『身分不相応』だと言って、参加を辞退してみたいだな。


 それからレイは白いユリをモチーフにしたドレス姿で、参加者たちに挨拶をしていた。


「まさか其方が……この本の作者である龍沙りゅうさじゃったとはな……全然、気がつかなかったのじゃ。

 灯台下暗とうだいもとくらしとは、まさにこのことだな。

 そこにいる大人気イラストレーター『RI♥SA』を賭けて、この『鳳凰院ほうおういん零稼れいか』と大喜利勝負をしなさい」


 いつも着ている漆黒のゴスロリで『愛理沙』が勝負を申し込んできた。


「はっ!? いきなり何を言ってるんだよ。

 なんで俺がそんな勝負を受けないといけないんだよ。

 メンドクせえな」


「いいじゃない?

 なんか面白そうだし、受けてあげなよ、龍一。

 鳳凰院ほうおういん零稼れいかって言えば、9歳で『電撃大賞』と『電撃イラスト大賞』をW受賞したことで一躍有名になった超売れっ子ラノベ作家兼イラストレーターだよ。

 確か? 今は、スライムに転生して大冒険をする『熱血バトルファンタジー』を書いていたはずだよ」


「それなら、俺も読んだことがあるぞ。

 今日から俺はスライムとして生きていくは、5000万部以上も売り上げ、アニメ化もされた大人気作品だな。

 未成年ということで顔出しはNG。

 その他の情報もすべて謎に包まれ、サイン会などのイベントも一度も開かれていないんだよな。

 まあ、理沙が受けろって……言うなら……メンドクさいけど……はぁ……その勝負、受けてやるよ」


 愛理沙がマルチな才能を持っていることは、知っていたものの。


 正直、驚いている。 


 でも、それを顔に出すことなく。


 ダルそうな感じで答えた。


「じゃあ、公平性を期すためにわたしぃが審判をやるね。

 あとは、理沙おねえちゃんもん参加してね。

 その方が面白くなると思うからね」


 挨拶回りを終えたレイが、理沙の参加を促す。


「わかった。

 じゃあ、レイちゃん。

 審判よろしくね」


「うん。

 じゃあ、お題を発表するね」


 まあ要約するとまあ、こんな内容だった。


『邪魔よ。どきなさい、クロネコ』


 真愛美ちゃんが物凄いスピードで丘を駆け上がってきた。


『あ、危ないな』


『もう、うっさいわ……ああ、ダメ……もう……』


 この続きを考えなさいというモノだった。


 で、理沙の答えは『……極太バ○ブ……キモチ良すぎる……』だった。


 まあ、理沙らしいといえば、理沙らしい回答だった。


 続いて愛理沙の答えは『こんなの簡単じゃないの。答えはこれしかありえないわ』と前置きを言った後。


 書かれた答えは『……ヒトの形をたもっていられないわ……』よ。


 自信満々に『キュートなスライム』が描かれていた。


 ちなみに俺の答えは『……し、尻尾が生えてきちゃう……』だ。


 だって、真愛美ちゃんに一番似合うのは『可愛らしい猫の尻尾』だと確信しているからだ。


「優勝者は『理沙おねえちゃん』です。

 理沙おねえちゃんの答えが一番おもしろかったです」


「つ、次は絶対に『負け』ないんだから」


 泣き叫びながら愛理沙はパーティー会場から飛び出していってしまった。


「龍一の言ってた通り。

 彼女って、とても面白いヒトね、ふふふ」


「だろう。

 白銀はくぎん夜叉姫やしゃひめなって呼ばれて、恐れられているけど。

 話してみるとめっちゃくっちゃ面白いヤツなんだよな」


「優勝した理沙おねえちゃんには、パパとダンスを踊ってもらいます」


 レイはパーティー会場にいる全員に聞こえるような、大きい声で叫び。


 音楽が流れ出す。


 パーティー会場の一角に陣取っているオーケストラが生演奏を始めた。


「龍一、私と一緒に踊ってくださるかしら」


「でも……俺、ダンスなんて……」


 それにこんな豪華な場所で、その主役と言っても過言ではない姫川理沙と踊ることに尻込みしてしまう。


「パパ、大丈夫だよ。

 理沙おねえちゃんが上手くリードしてくれるはずだから、ねぇ」


「ええ、任せて。

 音楽に合わせて、私の指示通りにカラダを合わせて、カラダを揺らしていれば恰好はつくはずよ」


「わ、わかった」


 俺は凄まじい羨望の視線にその身を晒しながら理沙と並んでダンス用のスペースに向かって歩き出す。


 そして俺は理沙の腰に左手を当て、踊り出す。


 周りを見渡すと、本当にダンスが好きで華麗なステップを披露しているのは、ほんの一握りだった。


 大半は、素人に毛が生えた程度のモノに見える。


 全然たいしたことないな。


「龍一って、体力がないだけで、運動神経が悪いわけじゃないんだよね。

 それにリズム感もあるし、物覚えも良いもんね。

 あと、私たち相性もいいみたいね」


 彼女の指示に合わせて踊っていたら、腕のなかに抱かれている理沙が俺のことを見上げて、ニッコリと微笑んできた。


 と……まあ、そんな感じで俺たちはパーティーを楽しんだのだった。


++++++++++++++++++++++




『理沙視点』


 某ホテルの厨房で、私はチョコレートと格闘していた。


「チョコはたくさんあるから、あと5、6失敗しても大丈夫だよ。

 だから、もっとリラックスしようか。

 今のままだと、すぐにバテちゃうよ。理沙おねえちゃん」


「ええ、それはわかっているんだけど。

 どうしても手に力が入ってしまうのよね」

 

「だったら、ここはもう開き直って、チョコを渡したい相手のことを思い浮かべながら作れば。

 自然と気持ちがウキウキしてきて、肩の力が抜けるかもしれないよ」


「でも、ちゃんと受け取ってもらえるかしら? 不安だわ」


「理沙おねえちゃんって、意外とめんどくさい性格だったのね。

 普段は、自信満々でまったく隙を見せない完璧超人なのに……」


 レイちゃんがあきれるのも仕方ないわよね。


 自分でも情けないと思うもの。


 いけない、いけない……今はチョコ作りに集中しないと……。

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