第14話 女性用の露天風呂との仕切りって、ヒノキの板 みたいなのだけなのか?

『龍一視点』


 学校の宿泊行事で定番イベントと言えば『枕投げ』だな。


 などと思いながらも俺は、参加しなかった。


 はっきり言って、何が面白いのか? わからなかったからだ。


 だが日頃の疲れをとるために温泉には入った。


「ふぅ~~~、とてもキモチがいいわ。

 一日の疲れが、溶けていくかのようね」


「なんだか、年寄りくさいですよ、姫川さん」


「ここの温泉は、疲労回復や美肌効果もあるみたいですよ」

「姫川理沙、どっちらが長く潜っていられるか? 潜水勝負だ」


「ええ、いいわよ。

 温泉で潜水勝負は鉄板ネタですもの」


「じゃあ、わたしぃが審判をやるね。

 2人とも頑張って」


 井上さんや愛理沙ちゃん、レイの声まで聞こえてきた。


 女性用の露天風呂との仕切りって、ヒノキの板みたいなのだけなのか?


 そのせいで『女性陣』の話し声が聞こえてきた。


「でもはるちゃんって、着痩きやせするタイプだったのね」


「そういう彩ちゃんって、スタイルいいですよね」


 思わず聞き耳を立ててしまう。


 二人とも名前で呼び合っていた。


 斎藤さんと井上さんって仲が良かったんだ。


「この勝負は、愛理沙ちゃんの勝ち」


「姫川理沙。

 其方の敗因は、その牛のようにデカい乳じゃ」


 レイが高々と宣言し、愛理沙のドヤ顔が目に浮かぶ。


「姫川さんのオッパイって、デカいですよね。

 羨ましいです。

 どうすれば、大玉のスイカみたいな、オッパイになるんですかね」


 井上さんの素朴な疑問に対して理沙は……。


「知らないわよ。

 自然と大きくなっちゃ……きゃあっ!? 

 ちょ、ちょっと!? 斎藤さん。

 へ、ヘンなところ、触らないでよ」


「でもさ、姫川さんのオッパイって、大きいけど全然垂れたりしてないよね。

 張りがあるって言うか」


「日々、私は胸が垂れないように。色々と気を遣っているわ」


 山の温泉は、伝統的な日本文化だよな。


 岩盤浴なんていう貴重な体験もできたし。


 浴衣姿のクラスメイトも見れたし。


 女湯を覗くのは失敗したけど。


 露天風呂から見た夜景は、ほんとうにキレイだったな。


 でも常連客から一昔前の露天風呂なら、男湯と女湯の間にはドアがあり、そこから子供が出入りしていたため、見る気がなくても、容易に『女性の裸』見ることができたという話しを聞いたときは、ショックを受けたが……やっぱり来てよかったな。


 ちなみに夕食は『山で採れた山菜料理』だった。


 まさに郷土料理だ。


 これまた貴重な経験ができた。


 小説家として引き出しが増えたような気がした。


 お土産コーナで、妹から頼まれた『温泉饅頭』を購入し。


 少し夜風にあたろうと思って、玄関から外に出ると既に先客が居た。


「龍一も涼みにきたの。火照ったカラダに夜風がキモチいいわよぉ」


 確か? 女子は『温泉卓球』をやっていたな。


 まあ理沙の圧勝だったみたいだけど。


 それにしても浴衣姿の理沙は、超絶カワイイな。


 白い基調とした花柄で、手にはうちわが握られ、金色のキレイな髪に真っ赤なかんざしが良く似合っていた。


 ふっくらとやわらかそうな耳たぶに、抜けるような白い肌。


 首筋は今にも折れそうなほど細く、華奢な肩は少女そのもので、月明かりの下で見る彼女はとても幻想的だった。


 全身から醸し出されるのは、どこか浮き世離れしたお姫様めいた可愛らしさだ。


「そういうわけじゃないだが、ただ部屋に戻ると強制的に『枕投げ』に参加させられちゃうからな。逃げてきた」


 俺は嫌みにならないように、冗談めいた口調で叫ぶと


「情けないわね。そのくらいのことで逃げ出すなんて。

 でも、龍一らしいわねぇ。

 無駄な争いごとを好まないところが」 


 胸に手を当てて理沙は、ほっこり笑う。


 俺のことを見つめる、どこまでも真っ直ぐな瞳は、優しく純粋な光を宿していた。


「だろう。俺は平和主義なんだよ。

 どっかの誰かさんと違ってな。

 今日だって何度、死にかけたことか」


 苦悩の叫びは、残響とともに満月を浮かべた夜空に吸い込まれる。

 

 ヒロインに振りまされる主人公の気持ちが、今なら痛いほどわかるぜ。


「でも退屈はしなかったでしょ。

 それに人生には、とっびきりのスパイスが必要だと思わない。

 一度っきりの人生なんだからさあ」


 切れ上がった顎は美しく、鋭い瞳は見る者に畏怖を生じさせる。


 唇は傲慢に吊り上がり、鼻筋は天すらも我が物であるかのようにそそり立っていた。


「漫画の主人公が言いそうなことをサラッと言えちゃうなんて。

 やっぱり理沙は、カッコイイな。

 俺には無理だよ」


「何、ヘタレたこと言ってるのよ。

 ほんとうに情けないわね。

 男のクセになよなよしちゃって」


「ぐはぁっ」


 長い髪が揺蕩たゆたうようにゆらゆらと揺れ。


 必殺の回し蹴りが首に飛んできた。


 太ももにみなぎるのは、力と意志、そして圧倒的なまでの生命の息吹だ。


「府抜けたこと言ってゴメン。

 俺、頑張って小説を書くよ。

 理沙の言う通り人生にはとびっきりのスパイスが必要だもんな」


「やっぱり龍一は、変わっているわね。

 普通の人はそんなこと言わないもの」


 まだ見ぬ何かにわくわくする子供の笑みだ。


 普通に生きると言うのが一番、難しいのかもしれないな。


 たぶん俺は……サラリーマンには慣れない。


 だからこそも何があっても小説を書き続けていく。


 それが俺のアイデンティティだから。


 そして別れ際に理沙からチョコを貰った。


 ハート型でストロベリー味のめちゃくちゃ甘い。


 愛情がたっぷりとつまった、世界に一つしかない。


 市販品では『手作りチョコ』理沙から貰った。


 メッセージカードみたいなモノは、入っていなかったけど。


 理沙のキモチは、十分過ぎるくらい伝わってきた。


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