Task Force Of OSAKA Bay ~大阪湾機動部隊~

有木 としもと

第1話

「若干、反論を述べたい」

 背の高い男の発言を受けて、僅かに場が緊張した。

「確かに攻撃先として海岸沿いの遊園地は魅力的だ。どの時間帯でも間違いなく人が溢れていて、山ほどのカメラが待ち構えている。宣伝効果も高いだろう」


「では、何が問題なんだ?」

 眼鏡を掛けた男が苛立たしげな空気を隠しもせずに言った。

 自分のプランにケチをつけられた、そう感じたのだろう。

 しかし、長身の男は動じずに話を続ける。


「単純な位置関係だ。計画では襲撃後にメンバーが新幹線で東京に戻り、直ちに羽田から出国することになっている」

「関東では国際スポーツ大会の真っ最中だ。日本政府に羽田と成田を完全封鎖するような決断力はない」

「問題はそこじゃない。現行のプランだと船は神戸か大阪方面の港に戻ることになる。新幹線に乗るとなれば、そこから新大阪駅方面への移動が必要だろう。だが、遊園地を攻撃したとなれば、臨海部から大挙して避難民が動き出す。新大阪方面の交通機関は大混乱になっている可能性が高い。下手をすれば麻痺状態だ。すんなりと通り抜けられるとは思えない」


 眼鏡の男は、椅子に深く座り直して両手を組んだ。

 長身の男が語る意見に聞くべき価値を感じて。

「更に言えば、だ」

 背の高い男は壁に貼られた地図に近づく。

「俺達のやろうとしていることを良く考えてくれ。BC兵器の攻撃。そう誤解させることが計画のキモになっている。逆に考えてみよう。攻撃が成功した場合、日本政府はどんな行動を取るだろうか? 被害の拡大を防ぐため、なんとしても東京方面への移動を阻止しようとする公算が高い。例えば、そうだな。京都あたりで新幹線をストップさせて大阪方面からの移動に制限をかける、そんな対策を取ってもおかしくはない」

 眼鏡の男が頷いた。

「確かに。中途半端な対応だが、それゆえにありそうな話だ」

「そのためには、攻撃開始の時間には既に待避メンバーが新大阪に到着している。そんなスケジュールが望ましいと思う」


 外国人らしき風貌の男が口を挟んだ。

「関西国際空港ならどうだ?」

「位置的には良いと思うが、問題が二つある」

 長身の男はそう答えた。

「一つ目は警戒態勢。空港は基本的に飛行物体に対する監視が厳重だ」

「発見したとしても、奴らに十分な対策を取る時間はないと思うが」

「そうとも言い切れない。行ったことのある奴なら分かるだろうが、空港ってのは要するに巨大なビルだ。屋外を歩いている人間は意外なほどに少ない」


 脳内に現場のイメージが浮かぶよう、暫しの間を置く。

「しかもアナウンス設備は完璧だ。一般人も基本的には空港側の指示に従って動く。建物の内部に退避させるぐらい簡単だろう。もしそうなれば、こちらに打つ手は無くなるぞ。運営会社のために無償で芝生の消毒でもするのか?」

「それでも一定の効果はある」

「元々が心理的な効果を狙った計画だ。刺激臭に触れてパニックになる人々を欠いたら、インパクトは大幅に失われる」

 なおも食い下がろうとする外国人の男を、眼鏡の男が手で制した。

 精神の余裕を取り戻したのか、落ち着いて壁の地図を指し示す。

「それでは、君の意見を聞こうか」

 長身の男は軽く頷くと、ゆっくり地図に近づいた。

「大阪湾は淡路島によって囲まれている。そこから出るには明石海峡大橋の下を西に抜けるか、友ヶ島水道を南に行くしかない。当たり前の話だが、どちらにも海上保安庁の監視体制が敷かれている。余計なリスクを抱えないために、計画は湾内だけで完結させることが必要だ。ここまでは良いか?」

「結構だ」

「もうとっくに見当はついていると思うが」


 そう言って、男は地図の一点を指した。

「条件は海に近いこと。屋外に多くの一般人が集まり、その時間帯が読みやすいこと。そして撤退の経路を確保できる場所。となれば候補地は一つしかあるまい」

 KOBE。

 男の指した地点には、そう書かれていた。

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