令和のガリバー冒険記
日本のスターリン
令和のガリバー冒険記
レミュエル・ガリバーは3人の仲間を引き連れ大航海し、新天地を求めていた。4人の男たちは家に居場所がなく、故に家出し安住の地を求める旅に出たのである。
「未知のシャングリラは見つかるだろうか…」
2mを超える巨漢のドナルド・ダグラスがやる気のない顔で、鼻を掻きながら呟いた。それに対し、マック・マイティが覇気のある顔つきで答える。
「何弱音を吐いているんだ!何としても未知の楽園を見つけ出すんだ!」
マックは背伸びして、ドナルドを見上げながら発破をかけた。マックは身長が150cmにも満たない俗に言うチビである。巨大なドナルドと並ぶとゾウとネズミの様である。
「なぁ!君もそう思うだろ?オリバー!」
マックはオリバー・ノーバカサンに賛同を呼び掛けた。しかし、オリバーは上の空で全く聞こえていない。マックはオリバーを見上げながら怒鳴った。
「おい!聞いているのかよ!オリバー!」
「!!
ああ、すまない。考え事をしていてな」
オリバーは空想癖がありいつも何か考え事をしているのである。興奮するマックをガリバーが宥めた。
「落ち着けよ。ドナルドがネガティブなのもオリバーが空想にふけているのもいつものことじゃないか。今に始まった事じゃない」
「僕が短気なのも今に始まったことじゃないね!」
ガリバーの横やりに、マックが見上げながら反論した。ドナルドはかがんでマックに目線を併せながら言い返した。
「君は体だけじゃなく心も小さいな。君は心も体もチビだ」
「チビとはなんだ!!!チビチビ言うな!そういう君は独活の大木だろ!!」
「誰が独活の大木だ!うちの女房みたいな事を言いやがって!」
マックとドナルドは口論になった。これもいつもの光景である。ガリバーは椅子に腰をかけ、呆れながら二人を窘めようとする。
「せっかく家出してきたんだから家内の話はよそうぜ」
そうである。この4人は悪妻に嫌気がさし、4人で家出を決行する事にしたのだ。この4人は家に居場所が無かったのである。
ドナルドは泣きじゃくるような声で言い返さす。
「女房の愚痴ぐらいたまには言わせてくれよ!」
「…そうだな。たまには不満をハッキリ口に出した方がスッキリするかもな」
ドナルドとマックが珍しく意気投合した。共通の敵を見つけた仲間意識というやつだろうか。ガリバーもウムウムと頷き、それに賛同した。
「うちの女房の奴!僕を独活の大木・独活の大木と子供の頃のあだ名でしつこくバカにしやがって!確かに僕は頭の出来は良くないが、それでも僕なりに精一杯やっているんだぞ!僕が居なくなるとどうなるかを少しは思い知りやがれ!」
ドナルドが不満をぶつけた。3人もドナルドの不満に親身に耳を傾けた。4人はいつの間にか座り込んで談話している。
ドナルドはヒートアップした。その愚痴はさらに続く。
「うちの女房は専業主婦の癖に、あれをやりなさいこれをやりなさいと家事を押し付けてきやがる。挙句の果てに『今時男は料理ができなきゃ粗大ごみ同然』とまで言いやがる!それなら、『家事をしない専業主婦はニート同然』だろ!」
「そうだ!そうだ!」
「よく言った!」
マックとガリバーはドナルドに称賛の声を送った。オリバーもちゃんと話を聞いていて拍手する。
そう4人の奥さんは全員専業主婦だったのだ。それは働きたくても働けないのではなく、働きたくなくて専業主婦を志願しての事だった。
「子育てを分担しようと言うのは分かる!男も子育てすべきだというのは当然だ!だって父親なんだからな!子どもの面倒を見るのは親の義務だ!
だが育児の分担と家事の分担は別問題だ!」
今度はマックが文句を言った。それに便乗してガリバーも文句を続けた。
「共働きで家事を分担しようと言うのは当然だ!だが、専業主婦なのに家事を分担しろと言うのはおかしいだろ!」
「そうともそうとも!夫の仕事は分担できないのに妻の仕事だけ分担しようというのが理不尽だ!!!」
ガリバーの文句にドナルドが付け加えた。一同は不満の言い合いで大盛り上がりになった。
オリバーは場を盛り上げようとピューピューと口笛を吹いている。ドナルドはさらに不満を大砲の様にぶつけた。
「独活の大木独活の大木とまるで僕の事を役立たずみたいに言いやがって!買い物の荷物を全部持たせておいて何言っていやがるんだ!」
「そうだ!そうだ!
『男=荷物持ち』という発想は肉体的差別意識と精神的差別意識の二つからなる物だ!男が荷物を持つべきと言うのは、男性を単なる労力としか見なしていない精神的差別・男性は強くて当然という肉体的差別。これら二つの差別意識を肯定するのが女性至上主義者・ミサンドリストだ!
僕のように力の弱い男だっている!男だというだけで肉体労働を強制するのは、力の弱い男性の人権や個性を無視するものだ!」
マックも怒りを爆発させた。マックは小柄ゆえに力が弱く、手足も細い。奥さんからは「女のような細腕」とよくバカにされていた。にも拘らず、「そういうのは男性の仕事」とマックの奥さんはマックに買い物の荷物運びをさせていたのだ。
ドナルドはマックに力強く賛同した。
「そもそも力の強い女性だっているのをミサンドリストは無視するな!アスリートの女性は一般男性より力が強い女性も多くいる!男の方が力が強いという思い込みは単に女が怠けているだけだ!」
ドナルドはゴリラのドラミングの真似をしながら勇ましく肉体的差別を糾弾した。ガリバー・マック・オリバーは拍手喝采した。
ドナルドはさらに演説の様に話続ける。
「そもそも世間は男性のDV被害に疎過ぎだ!力の弱い男性も居れば、凶器を使って夫を脅す妻もいる。武器を使われたら力の強い男性だって女性に敵わない!
そもそも児童虐待の一種とされる面前DVは夫が被害者でも成立する。夫のDV被害を軽視する事は子どもたちの情操教育にも悪影響があるんだ!なのに、男性のDV被害者を救済する制度が少なすぎる!もっと男性のDV被害を問題視する社会を作らなければならない!」
「いいぞ!いいぞドナルド!もっと言え!」
「ビバ・ドナルド!ビバ・ドナルド!!」
政治家のように熱弁するドナルドに対して、ガリバーとマックはエールを送った。マック・ドナルド・オリバーは妻から凶器を使ったDVを受けていたのである。しかし、まともな男性のDV被害の相談口がなく、相談しても夫にも問題があると門前払いされてしまっていたのだ。ドナルドはそうした男性のDV被害を相談できる場所の無さや男性のDV被害は男性の方に問題があるという悪しき風潮を嘆いていた。
「君もなんか言えよ!オリバー!」
ガリバーがオリバーに話を振った。他の二人もオリバーの一言に期待した。オリバーも妻から理不尽なDVを受けており、オリバーにも何か思うところがあるはずだからだ。
「ごめん、聴いて居なかった…」
「おーーーーい!!!!」
きょとんとするオリバーにマックが怒号を飛ばした。こうして、不満を言いながらも4人は新天地を求めて航海を続けるのだった。
そして、4人はついに未知の島を発見する。
「随分と小さな島だなぁ……」
「人は住んでいるのか?」
オリバーが島の小ささに驚き、ドナルドは人を探した。マックは人気が無いのを良い事にニヤニヤと呟いた。
「誰も住んでいなかったら、ここに理想郷を建設するのもありかもな」
「いや!まて!向こうにミニチュアがあるぞ!」
ガリバーが建物のミニチュアを発見した。4人はミニチュアのある場所まで駈け出した。そこにはミニチュアの建物がズラリと並んでいた。
ドナルドはミニチュアの街を見て感嘆とした。
「本当だ!よくできているなぁ
…という事はこれを設置した人がどこかに居るはずだが…」
「待て!よく見て見ろ!中に人が入っているぞ!」
マックは血相を変えてビルのミニチュアを指さした。それを聞いたドナルドは半笑いした。
「冗談はよせ!こんな小さな建物の中に人が入れるわけないだろ。例え君でも!」
「な、なんだと!?」
マックは激怒した。しかし、ガリバーとオリバーはその怒りよりもビルの中身に気がいった。
「見て見ろよドナルド!本当に人が入っているぞ!」
「ビルの中に小人が入っている!」
ガリバーはドナルドにマックの話が本当だと伝え、同時にオリバーは小人の姿に驚く。しかし、ドナルドはまだ信用しない。
「三人で僕を揶揄うのはよせ!下手な芝居で僕を揶揄わないでくれ」
「これでもまだ信じないか!?」
マックは道端を歩いていた小人をつまみ上げた。小人はハムスターが威嚇するような声の大きさで叫んだ!
「わー!巨人だぁ!!」
ドナルドはついに3人の話が現実だと理解した。しかし、マックはドナルドが自分の話を信じてくれたことよりもっと嬉しい事があった。
「聞いたか!?僕の事を巨人だってよ!」
4人の前には小人の人だかりができていた。小人の野次馬である。騒動を聞きつけた小人の役人たちがメガフォンを使って4人に話しかけた。
「あなた方の目的はなんですか?あなた方は怪獣じゃありませんよね?」
小人の役人の声が街に響き渡った。役人の質問にガリバーが代表して答えた。
「僕達の目的は…そうだな…
観光だよ」
それを聞いた役人たちは、ガリバー達を歓迎し、4人を宮殿まで案内した。
「ようこそ!ここはホビット国です!」
「なるほど、ホビット国か…」
ガリバーたちはこの小人の国がホビット国である事を知った。
4人はホビット国の帝王に謁見した。
「そなたたちは類稀な力の持ち主のようだ。どうだ?朕に力を貸してはくれまいか?」
「とおっしゃいますと?」
帝王は4人の強大な身体を見込んでお願いを買って出たのだ。ガリバーは何をさせる気なのか窺う。
「我国はピリカ国と戦争状態にある。そのピリカ国の軍艦を撃退して欲しいのだ」
ガリバーは困惑した。ドナルドとオリバーも同様である。しかし、マックだけは違った。自信気な顔である。
「帝王陛下!お任せください!わたしめがピリカ国の艦隊を撃沈してご覧に入れましょう!」
3人は仰天した。しかし、マックは自分の宣言に誇らしげである。そんなマックにガリバー耳打ちして注意する。
「おいマテ!よく考えろ!いくら小人とは言え、大砲を使われたら拳銃で撃たれるのと一緒だぞ!いくら僕達の身体が巨大でも強力な兵器を持つ小人には太刀打ちできない!」
「そうだぞ!恐竜が人類に勝てると思うのか?たとえ恐竜でも人間の兵器の前では虫けら同然だぞ!」
ドナルドもマックに耳打ちした。しかし、マックの心には全く響いていない。
「心配するな。こんなこともあろうかと防弾チョッキを持ってきた。これなら小人の大砲ぐらいは防げるだろう」
マックは用意周到だったのだ。二人の注意は全く気にも留めていない。そんな二人の心配をよそに、オリバーは他の事を考えていた。オリバーはその考えを率直に口にした。
「一体何が原因で戦争しているのですか?」
オリバーは戦争の原因がどうしても気になって仕方がなかったのだ。帝王は察したように答える。
「至極真っ当な疑問だ。どちらが正しいか分からずに味方はできまい。よかろう。説明してさしあげよ」
帝王は参謀に話を代わった。参謀は黒服にサングラスという不気味な格好をしていた。
「弊国の全ての男子には徴兵制が敷かれています。その徴兵制に反対しているのがピリカ国です。彼らは戦争に反対し徴兵制にも反対している。そんな連中が戦争を巻き起こしているのだから皮肉なものです
過激な平和主義はかえって戦争を招くといういい例ですな」
「男子だけに徴兵制?男性差別なのでは?」
世間に強い男性差別を感じているガリバーが訊ねた。他の3人も同じ疑問を抱いていた。4人の疑問に参謀は冷静に答えた。
「その代わり、弊国には男性にしか参政権がありません。ノブレスオブリージュです」
「女性からの反発はないのですか?」
参謀の返答にガリバーがさらに訪ねる。3人も興味深そうに耳を傾けている。参謀はまた冷静に4人に答えた。
「一部では女性にも徴兵制を設けて女性にも参政権をという働きもありましたが、女性の徴兵に反対するご婦人方の声が強く、その運動は下火になっていきました。女性自らが徴兵制を拒む代わりに参政権を放棄したのです」
「成程、弊国の権利ばかりを主張し義務を放棄する女性至上主義者とは大違いですね」
ガリバーは納得し、他の3人も納得した。一連の話を聞いたマックは決意をさらに固めた。
「この国は僕が守る!君たちは見ていてくれても構わない!僕一人で十分だ!」
「弊国では食料が飽和しています。もちろん巨人一人を養う分くらいはあります。見事ピリカ軍に勝利を収めて頂けたら、あなたに弊国の特別永住権と一生分の食の配給をお約束致しましょう」
こうしてマックは帝王の勅命で征夷大将軍に任命された。
マックは防弾チョッキを着てフルフェイスのヘルマットを被りながら警備をしている。
「さあ!どこからでもかかってこい!」
その声を聞いてか聞かずか、ちょうどその時ピリカ国の艦隊が攻めてきた。100を超える大艦隊である。近世代程度の構造であったが、ホビット国の艦隊ではとても太刀打ちできないような無敵艦隊なのだ。陸軍はホビット国の方に分があるが、海軍はピリカ国に分があるのである。そのためこの無敵艦隊にホビット国は長年苦しめられてきた。
マックは軍艦の軍勢に気が付いた。一方でピリカ国軍もまたマックに気が付いた。
「あれはなんでしょうか?」
ピリカ国の皇帝の森恒夫がマックを見て驚愕した。艦隊を見つけたマックは海に向かって走ってくる。
「ホビット国の新兵器かしら?」
皇后の永田洋子もマックの巨大な姿に仰天した様子だ。ピリカ国では妻が夫の姓を名乗るのを認めていないのだ。そのため皇帝とは性が異なる。
皇帝は動揺しながらも、艦隊の指揮を執る。
「構いません。あれだけの巨体の人型ロボット。活躍できるのは怪獣映画だけです。あんなのは見掛け倒しのコケ脅しです。我軍の艦隊であっさり迎撃してしまいましょう」
ピリカ国軍の艦隊は構わず侵攻した。一方でマックも泳いで艦隊の方に向かった。大きな水しぶきがバシャバシャと立った。
マックは艦隊の方に一直線に泳ぎついに艦隊のすぐそばに直面する。マックは大きな波を立てて海面から跳び上がった。
「さあ!勝負だピリカ国軍!!」
ところが、マックの激しい動きによって起きた荒波があまりにも大きすぎて、艦隊は横転したり、艦隊同士がぶつかり合ったりして沈没してしまった。
それを見たマックはさらにはげしく海面にダイブした。軍艦の軍勢は大波に煽られ転覆してしまった。
こうしてピリカ国の艦隊は全滅してしまった。防弾チョッキを使うまでもなかったのだ。そもそもこの小人の島の周辺の海は波も小人サイズだ。そのため、小波を想定した艦隊では人間サイズの大波には耐えられなかったのである。
マックは溺れ行くピリカ国人たちを救出した。その中には皇帝と皇后も含まれていた。
マックはピリカ国人たちを捕虜としてホビット国に連れて帰った。
捕虜となった皇帝は負けを認め、講和条約が結ばれた。皇帝と皇后は退位となった。こうして戦争は終結した。
「マック殿。よくぞやってくれた」
ホビット国の帝王はマックを称賛し、マックに最高位の勲章を授与した。ホビット国の国民達もマックを祝福した!
「ビバ・マック・マイティ将軍様!ビバ・マック・マイティ将軍様!!」
マックはすっかりいい気分になっていた。そんなマックを三人は冷めた目で見つめている。ガリバーがマックに耳打ちした。
「気が済んだか?」
「何が?」
マックは浮かれていて気のない返事である。ドナルドもさらに耳打ちする。
「もうそろそろこの国から出よう。ここを後にして他の国をさがそうぜ」
マックは一端冷静な顔つきになり、4人で集まる事にした。4人は小山の人気のない場所に集合した。
「さぁもう行こう」
ガリバーが出発を促す。ところがマックはとんでもないことを言い出した。
「いや、僕はここに残る」
「なんだって!?」
3人は驚いた。ドナルドは腰を抜かし、オリバーは口をポカーンと開けている。ガリバーも目が点になっている。
そんな3人を尻目に、マックは気高い顔で心境を語った。
「僕は小さい頃からチビチビとバカにされてきた。だがここなら誰も僕の事をチビだとバカにしない。ここでは僕は巨人扱いだ
こここそが僕にとっての理想郷・安住の地なんだ」
三人は困惑する。ガリバーは考え込んだが、説得しても無駄なような気がした。マックはいつになく穏やかである。こんなマックは見たことがなかった。
「後悔しないな?」
「もちろんさ!」
こうしてガリバー達三人は、マックを残し、ホビット国を後にした。マックは3人に大きく手を振って別れを惜しんだ。
「あばよ~!君たちの事は二度と忘れないぜ~!!!」
こうしてガリバー・ドナルド・オリバーの3人の航海が始まった。
「マックは元気でやっているかなぁ~」
「多分大丈夫だろう」
ドナルドはマックを心配し、オリバーはマックなら上手くやっているはずだとフォローした。3人になった船旅は寂しいものとなった。
「マックは理想の新天地を見つけたんだ。僕達も新天地を目指して頑張ろう」
ガリバーが皆を励ますのだった。そんな旅が続いていると、3人はまたしても、未知の島にたどり着いた。
そこには明らかに人工物のコンクリートが広がっているが、あたり一面には延々とコンクリートの地平線が続き周りには何もない。
「随分とただっぴろいなぁ」
「地面はあきらかに人工物だが誰も居ないのかな?」
3人は一帯に広がるコンクリートの地面を歩き出した。しかし、歩いても歩いてもどこにもたどり着かない。
3人はくたびれ果てて地面に座り込み一休みした。すると突然地響きが起こった。
ドシン!ドシン!ドシン!!
「なんだ!?地震か!?」
ドナルドが驚く。しかし、オリバーはさらに驚いた表情をし、素っ頓狂な声を上げる。
「み、見ろ!巨人が走ってきたぞ!!!」
3人は向かい来る巨人に震え上がった。一方で巨人も3人に気が付いた。
「こ、小人だ!?ま、まさか小人が本当にいるなんて!?オモチャじゃないよな?!」
巨人は3人をみて、疑念に満ちた顔をした。巨人はまじまじと3人を見つめる。巨人の言葉を聞いてドナルドは大声で叫んだ。
「僕たちはオモチャじゃないぞー!本物だ!!!」
「小人なんて迷信だと思っていたが、まさか本当にいるとは…」
巨人は3人を自分の家まで運んだ。巨人は農夫であり、運ばれたのは農家の家だった。この島では植物から何から何まで巨大である。
「この島は何と言う名前なんですか?」
「ここはパラディ島だよ」
農夫はガリバーの疑問にそっけなく答えると、慌ただしく人を招く準備を始めた。
農夫はテレビ局に電話し、3人を未知の生物として見世物にしたのだ。
ガリバーとオリバーは良い気がしない。しかし、ドナルドは英雄気分で上機嫌だった。
「スーパスターになった気分だぜ!」
「そうか?僕は人間動物園になった気分だぜ」
オリバーは不満を言った。ガリバーも同意見だった。しかしドナルドも農夫も全く気に留めない。ガリバー達の事は連日報道され、3人は一躍時の人となった。
そしてガリバーたちの事はパラディ島の国王の目にも止まる。国王は、王女へのプレゼントとして3人を農夫から買い取った。
3人は王女からドールハウスの家と人形を乗せられる構造のミニカーを与えられた。王女はペットを鑑賞するように3人を楽しそうに眺めた。
王女は赤ん坊の世話をするのが如く3人を可愛がった。食事から着せ替えまでなんでもやった。王女は3人を性的な可愛がり方もし、おっぱいの上に三人を乗せたりもした。
「まるで赤子扱いだ」
「僕たちはおもちゃじゃないぞ!」
オリバーとガリバーは激怒した。しかし、ドナルドだけはまんざらでもない。ドナルドは何から何まで至れり尽くせりで満足だった。
「何から何までやってくれて、あれをやれこれをやれと言われる事もない。最高じゃないか
ここでは誰も僕の事を図体が大きいだけの独活の大木だとバカにしないしな!」
しかし、ガリバーとオリバーはいい加減に嫌気がさしていた。堪忍袋の緒が切れたガリバーは3人で密会をすることにした。
「もうこの島から脱出しよう」
オリバーも同じ気持ちだった。しかし、ドナルドは二人の気持ちが全く理解できなかった。
「なぜだ?」
「おいおい、まさか君もここに残りたいと言い出すんじゃないだろうな?」
「そのまさかだよ!ここは僕が探し求めていたシャングリラだ!
君たちも同じ気持ちじゃないのか?」
二人は呆れてしまった。しかし、ネガティブ思考ないつものドナルドと違って非常にポジティブな表情である。こんな彼は見たことがない。ここがドナルドの安住の地だと二人は悟った。
「もう何も言わない。僕たち二人でこの島を脱出する」
「それなら僕の方から国王陛下に話しておこうか?」
「僕たち二人の出国を認めてくれるといいが…」
ドナルドは国王に直訴した。すると国王と王女はドナルドがこの島に永住する事を条件として二人の出国を認めた。王女の一番のお気に入りはドナルドだったのだ。
二人は港まで送られ、王立美術館に保管されていた乗ってきた船を返却して貰った。二人は国王と王女、それにパラディ島の臣民たちに見送られ島を後にした。
女王の胸の谷間に挟まれたドナルドも、二人を見送った。
「達者でな~!君たちのことはずっと忘れないよ!」
こうしてガリバー・オリバーの2人の航海が始まった。
「ドナルドならきっと楽しくやっているだろうな」
「そうだな
ドナルドもマックも絶対幸せに暮らしていくだろうよ」
ガリバーとオリバーは二人を羨みながらも旅を続けた。
しかし、二人に苦難が訪れる。大嵐が二人の船を襲ったのだった。
船は巨大な竜巻に飲み込まれ空高く巻き上げられた…。
…。
…。
…。
気が付くとそこは天空に浮く小島だった。
「なんじゃこりゃああああ!?」
「島が中に浮いている……」
ガリバーは叫び声を上げ、オリバーも島が浮いている事に驚愕した。
とにかく二人はその不思議な島を探索する事にした。
すると、二人の住民に出会った。一人は何か物思いにふけている様子で、もう一人はバトンのようなものを構えて立っている。
ガリバーは二人に話しかけた。
「すみません。この島は何と言う場所なんですか?」
するとバトンのようなものを持った人が考え事をしている人の頭をバトンでポンポンと軽く叩き、考え事していた男は二人に気が付いた。
「何ですか?」
「この島は何と言う場所ですか?」
ガリバーは再び質問を言い直した。すると男は機械的に答えた。
「ここはスカイピアです」
そう答えると男はまた考え込んでしまった。ガリバーはまた話しかける。すると男はまたバトンでポンポンと話しかけられている事に気が付かされる。
「この島を観光したいんですが、案内してくれませんか?」
「はい。分かりました」
男は考え事をして歩きながらも、二人を先導した。そして二人を国会に案内した。
首相が二人を応待する。首相にもやはりバトンを持った人が付いている。
「地上からのお客とは珍しいですね。ここは初めてですか?」
「はい」
ガリバーが正直に返事をした。一方オリバーは好奇心が抑えきれなくなっていた。
「さっきから隣にいるポールのようなものを持っている人たちは何なんですか?」
この島の人間たちは話しかけられる度にバトンで頭を叩かれている。この首相も同じだ。
「彼らは人ではありませんよ。ロボッピというロボットです。彼らの役目は考えに熱中する主に誰かが話しかけた時や身に危険が迫った時などに気づかせてくれる存在です
この島の人たちは思慮深いがあまりに、いつも考える事に過集中してしまって話しかけられても気が付かないのです」
驚いたことにこの島の住人たちはこんなロボットに一人一台で頼らなければならない程に考え事に没頭してしまうのだった。
しかし、過集中してしまうほど思慮を巡らせているからだろう。近世的だった小人の国や巨人の島と違い、この天空の島は地上より遥かに文明が進んでいた。
「この島の政治家もあまりにも思慮深いため、弊国の政府は『決められない政治』とよく呼ばれています」
この国の政治家もメディアも政治家や官僚のどうでもいいようなスキャンダルや失言ばかりを取り上げ、まともな政策が議論される事は少ないのだ。また、まともな政策も、あまりにも議論に時間がかかるために停滞しており、常時ねじれ国会状態なのである。
「あなた方にもロボッピをお付けしましょうか?」
「結構です」
ガリバーはきっぱり断わった。しかし、オリバーはいじらしい顔をした。
「僕は付けて欲しいです。ロボッピ」
ガリバーとオリバーは船を修理するために街に出かけた。オリバーはボーと歩いていたが、障害物にぶつかりそうになるとすかさずロボッピが教えてくれた。
「こりゃ助かる」
ガリバーは街行く人々に船を修理する方法を聞いた。そのたびに人々はロボッピに叩かれていた。
「すみません。船を修理できる工場はないでしょうか?」
「それならこのすぐ先を左に曲がった所だよ」
「ありがとうございます」
「君はロボッピを付けていないのか?」
「はい。そんなものに頼る必要はありませんから」
「なんだって!?君は何も考えて居ないのか!?」
スカイピアの人々は話を聞くたびにロボッピを付けていないガリバーに驚き、軽蔑の目をして呆れるのだった。ガリバーはあまりにバカ扱いされるので早くこの島から出向したいと思っていた。
とにかく、ガリバーは船の修理を依頼しに行った。
「すみません。僕は地上から来たのですが、僕の船を修理して頂けませんか?」
ガリバーは船工に話かけた。船工はやはりロボッピに頭を叩かれた。
「僕は地上から来ました。僕の船を直していただけませんか」
「ん?君はロボッピを連れていないのかね?」
「はい」
ガリバーはそっけない返事をした。このスカイピアで、もう何度も聞かれた質問である。すると船工は激怒した。
「君はバカなのか!?なぜ何も考えて居ないんだ!?なんも悩みもないお幸せな人間なのか!?」
「いえ、僕は普通の…」
「君のようなバカの船は治せない!」
船工はガリバーの頼みを断った。ガリバーはオリバーにも懇願するように頼む。
「おい!オリバー、君も何とか言ってくれよ!」
オリバーはポンポンとロボッピに叩かれる。上の空だったオリバーはようやく気が付く。
「え?なんだって?」
「だから!僕らの船の修理をして貰える様に一緒に頼んで欲しいんだ!」
「分かった
お願いです。僕達の船を直していただけないでしょうか?」
「君は我々同様思慮深いようだな。よし、君の頼みなら聞いてあげよう。費用は食料1月分でいいぞ」
「ありがとうございます!」
二人は工場を後にした。オリバーがガリバーに何か言いたそうである。
「まさか…」
「僕はこの島に残りたい」
「やっぱりかー!!!」
ガリバーもこの流れはそうだと思っていたのであった。そう告げるとオリバーはまた物思いにふけた。考え事をしながらも至福に満ちた表情で、こんなにも幸せそうなオリバーの顔は初めてである。
「君も安住の地を見つけたのかー」
ロボッピがオリバーをポンポンと叩く。ガリバーは再びオリバーに伝え直した。
「君もついに安住の地を見つけたのか」
「うん。次はきっと君の番だよ。君の安住の地も絶対見つかるよ」
そのやり取りの後二人は互いに別れを告げた。
ガリバーの修繕された船は首相の恩義で無事地上に下ろされた。
「はぁ…僕の理想郷は本当に見つかるのかなぁ…」
ガリバーは不安だった。一方でオリバー・ドナルド・マックはそれぞれの安住の地で楽しくやっている事を確信していた。3人ともそれまで見たことがないような安堵の表情を別れ際に見せていたからである。そして、自分も3人の様に安住の地で暮らせることを願いながら航海を続けた。
ガリバーはまたまた未知の島を発見した。ガリバーは期待と不安に胸を躍らせその島を探索した。
「今までの流れで行けば次は僕の番のはず…」
「おい!危ない!グーグルがいるぞ!」
「本当だ!グーグルだ!みんな刺激しないように後ずさりしながら逃げろ!決して背を見せるんじゃないぞ!」
ガリバーは声のする方向を見た。すると羊のような外見をした獣人の群れが立っていた。ガリバーは喋る羊に驚くが、今までの冒険してきた島々の事を考えれば、何も不思議な事ではないと、冷静になった。ガリバーは羊人間たちにおもむろに声をかける。
「すみませ~ん!ここはなんという島ですか?」
「まて!喋ったぞ!これはグーグルじゃないんじゃないか?」
「よく見ると簡素ではない服を身に着けているし毛深くない!」
羊人たちは恐る恐る近づきながらも、ガリバーを受け入れた。羊人たちはガリバーを街に引き入れた。ガリバーは羊人たちに付いて行きながら再び質問した。
「ここはなんて島なんですか?」
「ここはズートピアだよ」
「さっき言っていたグーグルって何ですか?」
「君に似た…いや、失礼…。グーグルというのは野蛮で卑しい醜悪な猿の事だよ。反面グーグルは高い知能を持っており、僕らの言葉は喋れないが、独自の言語を持っている。また原始的ではあるが武器を作って群れ同士で同族の殺し合いをしたり、我々ズートピアンを襲う事もある」
羊人がそう説明するとぴたりと立ち止まった。ガリバーの目には保健所のような施設が目に留まった。
「ちょうど良い。ここにグーグルがいるから見て見るかい?」
ガリバーはこくんと頷いた。ガリバーが建物の中に入ると、檻があり、その中には人間そっくりの毛むくじゃらの猿が数匹居た。グーグルは原始人のような簡素な服を着ている。グーグル達は楽器のようなものを弾き、歌のようなうめき声を上げながらバカ騒ぎしていた。
「なぁ醜いだろう?汚らわしいグーグルは平気で嘘をつくし、同族殺しや盗みも日常茶飯事だ。グーグルは音楽が大好きで、いつも歌ったり踊ったりして意味もなく騒音をまき散らすんだ。本当に迷惑な生き物だよ
ズートピアンは音楽は禁止されているからね。音楽に限らず生きていく上で必要のない娯楽は全て禁止されている。堕落したグーグルのようにならないように」
そうこの羊人たちの法律では音楽・ゲーム・アニメ・漫画・映画・ドラマ・バラエティ・ワイドショー・演劇などといった全ての娯楽が必要のない物として禁止されているのである。
娯楽は文明を発達させる妨げになる物、娯楽をしている暇があったら少しでも文明を発展させるために行動した方が良い。そういう考えなのだ。
おかげでこの島の文明は酷く発達していた。小人の国や巨人の島は元より、空に浮く島を維持・建築できるほど高度な文明を持った天空の島の文明よりもさらに高度な文明を持っているのがこの羊人の島だったのだ。
「僕達ズートピアンは嘘は決して付かないし、差別やいじめ・犯罪や紛争も絶対に起こさない。僕たちの国では、食べ物は1日の栄養バランスの必要摂取量を満たせる食事が3食配給されている。だからグーグルのように暴飲暴食して肥満になることもない
さらに、グーグルは週休二日制の文化を持っているが、僕たちは完全週休0日制。僕達に休みはない。僕達は常に文明を発達させるために精進しているんだ」
ズートピアは世界一勤勉な国であり、世界一聖人君子な住民が暮らしているのである。ズートピアンは徹底された管理社会で構築されており、世界一平等で公正な国なのである。人類には机上の空論でしかなかった理想的な共産主義がまさに実現されているのである。
「すばらしい国だね…」
ガリバーはズートピアンに憧れた。そして、確信した。こここそが、自分が探し求めていた安住の地であると。
ガリバーは学生時代は風紀委員を務めており、社会人になってからは自治会の会長になり、規律にはとても厳しかった。ガリバーは曲がった事は大っ嫌いなのである。信号無視やポイ捨てなどはもっての外である。しかし、そんな真面目さは人々から煙たがられていた。信号を遵守する事やごみをキチンと捨てる事など当たり前な事であるが、それを平気で破る人ばかりで彼はウンザリしていたのである。
そんな自分にピッタリな国だと思ったのだ。
「ズートピアンは世界一素晴らしい種族だ。その一員になれるなんて僕は幸せだ」
「君はグーグルとは似て非なる人格者だね」
ガリバーはズートピアンの暮らしに溶け込み、生活を始めた。しかし、ズートピアンの中にはガリバーをグーグルと同一視する者たちもいた。
ズートピアンの議員たちはガリバーがグーグルと別の生き物か同一の生き物かという事で議論が白熱した。そこで白黒つける為に、ガリバーとグーグルの遺伝子調査を行ったのである。
すると驚いた事にグーグルとホモサピエンスは99.9%遺伝子が一致したのである。これはホモサピエンスとチンパンジーよりもグーグルが人類に近い生物である事を表していた。
これが決定打となり、ガリバーはズートピアから追放される事となった。
「さようならガリバー。君の事は決して忘れないよ」
友人になってくれたズートピアンは申し訳なさそうにガリバーを見送った。
「結局、僕にはどこにも居場所がないのか…」
途方に暮れたガリバーは母国に戻る事にした。母国に戻ったガリバーは1年強ぶりに妻の元に帰った。妻のロムが夫を迎え入れた。ロムはガリバーが家出したのにすっかり反省した様子だった。
「ダーリン!お帰り~!私が間違ってたわ~!」
ロムはガリバーに抱き着いた。しかし、ガリバーは白目を剥いて悲鳴を上げた!
「ひいいいいいいいいい!!!!」
ガリバーはショックで気絶してしまった。汚らわしいグーグルに抱き着かれたと思ったからである。
ガリバーは再び家を飛び出し、向かったのは羊小屋だった。ガリバーは羊にズートピアンの姿を見出し、羊と暮らす事を決めたのだ。
「こここそが僕が追い求めた僕の安住の地だ!!」
令和のガリバー冒険記 日本のスターリン @suta-rinn
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