おはようファンタジー

猫茶

プロローグ


 手の中にざらついた感触。目を開くと眩しい光が視界一杯に入り込んでくる。少年は目を覚ました。


「ここはどこ?」


 少年がいるのは巨大な樹木の木陰であり、何があったのか彼の下半身は地面に埋まっていた。身動きが取れない。そしてなにより――


「俺は誰?」


 記憶が無かった。

 過去という物が一切感じられない。

 困惑していたその時。


 少年の胸から光る物が飛び出た。その光る物は宙を漂い、鼻の前で静止した。光る物はまるで小さな火の玉の様に揺らめいていた。


「やぁ、おはよう」


「お、おはよう?」


 火の玉はふよふよと頷いた。


「うん。混乱しているようだね」


「誰?」


「誰かって? それは僕のこと? 君のこと?」


「えっと……」


「僕はカグヤだよ。で、君はアラタ。記憶にはないだろうけど僕も君も、この星を守るっている大切な使命がある。オーケー?」


 火の玉の名前はカグヤ。自分の名前はアラタ。その事が分かっただけで安心感を覚えた。自分を知る者と出会えた事は精神の支えになった。


「カグヤは何者なの?」


「聖霊ってやつさ。あ、分からないよね。魔力が意識を得たのを聖霊って言うんだ。ちっぽけな存在だけど、星と繋がっているから色んな事が分かるんだ」


「じゃあ、俺は何者?」


「うん。説明し足りないけど、眠いから寝るね」


「あ、待って!」


 カグヤが胸の中に入ってくる。

 なかなか奇妙な体験だが痛みはなく、異物が浸入するような感覚さえなかった。


「もう……十年……もたないから、それまでに……倒して」


 本当に眠いのか、呂律の回らない口調でそう言い残した。制止の声も聞かずに完全にいなくなってしまった。カグヤが言っていることは半分も理解できていない。


 どこかも分からない場所で、下半身を地面に埋められたままアラタは取り残されてしまった。

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