シューマン【森の情景】より【狩の歌】

力強く、高らかな声だった。


彼等は勇ましく〝狩の歌〟を響かせている。




私は合流した彼等と共に森の出口を目指していた。




耳馴染みの良いその歌は、昨夜の酒に酔った空間よりもよく通り、鮮明だ。


私もかなり歌えるようになった。




獲物を抱えた彼等は勝鬨のような歌を森へ捧げている。


森への献歌なのだという。


恵みをいただく献歌だ。


そして、この歌が街まで響けば街の皆が狩人の帰還の準備を始めるらしい。




今日の夕食を考える主婦が肉屋へと趣き、肉屋は仕入れの準備を始める。


革を鞣す道具を確認する職人もいれば、獲物見たさに子供達は手伝いを抜け出す算段を考える。




そしてなにより、彼等の妻が夫の無事に息を吐き、仕様がないと言いながら温かいシチューを作り始めるのだ。




だから彼等は歌う。


我はここにあり、皆もここにあると。


獲物は堆く、森は豊かだと。




私は土臭い彼等を他人ながらも誇らしく思えた。


勇ましい男というのは見ていて気持ちがいい。




うろ覚えの歌をなぞりながら、私は彼等と共に歩いた。


偶に差す木漏れ日に空を見上げても何も居なかったが、私はなんだか晴れやかな気持ちで森の中を進み続ける。


足音や猟犬の息遣いを伴奏にする無骨なこの歌は、後の私を何度も勇気付けてくれた。


古い記憶となった今でも。






狩人よ、森の恵みよ、我にあり、と。

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