クラシック音楽を題材にした短編集
竜花美まにま
シューマン【森の情景】より【森の入口】
これは、今になると随分昔の記憶に思えた。
用事はなんだったか、私がかなり遠方へと出向いた時の記憶だ。
私は〝森の入口〟に立っていた。
馬車道から逸れた小径は森の中へと伸びていたが、木々が私を歓迎するように小径を避け、木陰もその道には光を通さねばと気遣っているようだった。
若かった私は感嘆を漏らす。
自然の中に溶け込む僅かながらの人の気配は、まるで森が人との共存を歓迎しているように見えた。
その共存の光景は、全くの手付かずよりも安心感があるし、レンガに囲まれた街中よりも神秘的だ。
別に森に入るのは初めてではない。
だが、その森はなんだか特別な感情をこの身の内に溢れさせた。
この森に入る用件が、特別な感情でも孕むような何かだったのだろうか。
鮮明に覚えている印象的な記憶とはいえ、古いものだ。
どんなに鮮明な印字を刻む本でも、紙が傷めば読みづらくなるもの。
私の頭は茶色く黒ずんだ虫食いの本とお揃いになってしまって久しい。
それでも、その森の絵画の如き美しさと、ここから一日間の出来事は今でもふと思い出す事がある。
私のこの〝森の情景〟は若かりし日の美しさと共に、今となっては憧憬しながら懐かしむものなのだ。
荘厳な絵画のように、私の中で綺麗に飾られ続けている。
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