第38話 『女神の加護』の解放
翌朝、ベッドで目覚めた俺は、数年ぶりの朝勃ちに感激してしまった。放っておけばすぐに戻ってしまうけど、機能が戻ってきたと思うだけで嬉しい。
これがリミッターが外れてから最初の実感だった。
さて、今日はサラントへ帰る日だ。
出立の支度をして気分良く自室を出ると、美由の部屋へ向かった。
「美由、もう支度はできたか?」
「あ、うん。すぐにでも……」
俺の来訪に返事をしかけた美由が、なぜか途中で言葉を止める。
「どうした?」
「……いや、師匠こそ、どうしたの? 何か、香りが……今までは甘いだけだったのに、お花みたいな……すっごく、いい匂い」
「うん? 自分じゃ全然分かんないな。……まあ、嫌な匂いじゃないなら平気だろ?」
「平気……なのかな? ギース兄様あたりに嗅がせたらヤバいやつじゃない? これ」
俺的にはあまり変化を実感していないんだけど、美由はわずかな違いが気になるらしい。何だか心配そうに俺を見ている。
「肌もつやつやして美人になってる……。師匠、昨日ジョゼのところで何かされた?」
「いや、大したことじゃないよ」
さすがに彼女に性欲を復活させてもらいましたとは言いづらい。苦笑をしつつはぐらかすと、美由は即座にその矛先を俺からジョゼに向けた。
「いいわ、ジョゼに直接聞いてくる。どうせあいつ、問い詰めないと肝心なことは言わないし……。師匠、私が帰ってくるまで、この部屋から出ちゃ駄目よ。変態と鉢合わせちゃうかもしれないから」
言い終わると同時にもう部屋の外に出て行ってしまった。本当に彼女は行動が早い。反論のいとまも与えられなかった俺は、仕方なく椅子に座って待つことにした。
「巧斗さん、今日は一段と素敵な匂いがしますね……食べてしまいたいほどだ」
しかし、美由が出て行って一分も経たないうちに背後から金髪美形が現れて、慌てて椅子から立ち上がる。
「ギ、ギース様!? 一体どこから……」
「極上の花の香りに誘われて、ついどこからともなく。……ふふ、いつもはそんなに驚かないのに、僕を意識してくれて嬉しいなあ」
そりゃあ、意識もしてしまう。考えてみれば、昨日はギースからもジョゼからも告白されてしまったのだ。
「俺に、何か……ご用ですか?」
どぎまぎとお仕着せの言葉を掛けると、ギースは苦笑をした。
「愛する人に会うのに理由が必要です? まあ、敢えて言うなら、今日からしばらく会えなくなる巧斗さんに、最後に触れられたらなあと思いまして」
言いつつ伸ばされた手が、頬に触れる。
おかしい、いつもの俺だったら、半歩下がって、あっさりと避けるのに。
何で素直に撫でられて、こんなにどきどきしているんだろう。
「……何だか今日の巧斗さんは頬を染めて、いつにも増して可愛らしいですね。それに、たまらなく美味しそうな香りがする」
「な、何か変、ですよね、俺。やっぱり変化してるのか……」
「全然変ではないですけど……少し気になりますね。昨晩、ジョゼ魔道士のところに行っていたんですよね? そこで何かありました?」
「ええと……、『女神の加護』のリミッターを外しました」
「リミッター?」
ギースが一瞬だけ目を丸くして、しかしすぐに得心の入った顔をする。
「巧斗さんは『女神の加護』を持っているのに性的欲求が薄すぎると思っていたら……。なるほど、ジョゼ魔道士が能力に制限を掛けていたんですね。それを外したということは、彼も本気で巧斗さんを落としにかかるつもりですか……」
彼はそう独りごちると、不意に俺の腰に腕を回して身体を抱き寄せた。おかげで腰から下が密着し、綺麗な碧眼に間近で見下ろされる。
「ギ、ギース様、何を……」
「巧斗さん、すごく花の匂いが濃いですね。今日はちゃんと自慰をしました?」
「へっ!? な、してない、してないです!」
真顔で問われて、俺は慌てて大きく首を振った。それにギースが眉根を寄せる。
「あの人は、こうなることが分かっていて教えてないのか……。あのね、巧斗さん。多分あなたの匂いはこのままだとどんどん強くなります。今も襲いかかりたいくらいヤバいですよ」
「……さっき、美由にも匂いが変わったって言われたけど……これ、ヤバいんですか? やっぱりジョゼのところに行って、戻してもらった方がいいかな」
「やめて下さい、ジョゼ魔道士の思う壺です。おそらく彼は、巧斗さんが困って縋って来たら、その解消法を教えついでに悪戯する気満々ですよ。ほんと、あの人はS気質が染みついてるなあ」
「解消法って……」
「一度性欲を発散させる……まあ、男なら抜くことですかね。手っ取り早いのは自慰です。誰かにしてもらう方が効果は高いようですが」
「し、してもらう……?」
「……ああ、よろしかったらたった今にでも、僕がして差し上げますよ? 結構テクには自信がありますのでお任せ下さい」
言いつつ妖しくにこりと微笑まれて頬に血が上る。テクって、この人、何言ってんの!?
「いや、おっさんの……なんか、興味ないでしょ!?」
「興味ないどころか、想像するだけで息子が勃ちますが、何か?」
「男の、触るの……嫌じゃないですか……?」
「僕ガチホモなんで、全く問題ないですけど」
「でも、ほら、ええと……」
「巧斗さんの、可愛がってあげたいなあ」
俺は食い下がるギースから視線を逸らして呟いた。
「その……俺、小さいから、は、恥ずかしいし……」
自身で発した言葉に、つい耳まで熱くなる。でもこれは男の矜持に関わる話なのだ。できるなら人前に晒したくない。
しかし、俺の発言にぶるぶると震えだしたギースは、何故かさっきよりテンションが上がってしまった。
「な、なんという萌え科白をっ……! 可愛すぎか! 僕を萌え殺しに来てるのか!? ああでも、その巧斗さんの巧斗きゅんをこの目で確かめるまでは死ねない! 巧斗さん、可愛らしい巧斗きゅんの大きさをせめてズボンの上からでいいので指先で確認させてくれませんか!?」
「え? さんときゅんの違いは何……って、ちょっと!? ギース様、触っちゃ駄目ですってば……!」
いきなり股間に手を伸ばされて、慌てて身体を離そうとする。しかし、ギースの片腕ががっちりと腰に回されて、俺はわずかな身じろぎしかできなかった。
躊躇いのない手が、二人の間に滑り込む。
そして分厚い布地の上から、彼の人差し指がつうっと俺のそれを撫でた。
「ひあっ……!?」
うわ、なんだこれ!?
俺はそれだけの刺激で腰がぞわぞわとして、甘えた変な声が出てしまった。
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