ビトウィーン・ザ・シーツと煮ごろし

鮮魚店のおぢさん

酔い潰れた夜と二日酔いの朝

 行きつけのカクテルバー

 俺も彼女もお酒大好き。

 酒を飲むのは時間の無駄と申しますが、飲まないのは人生の無駄

 明日は休み。

 今夜は飲むぞ!


「うー……」

「ちょっとぉ……飲み過ぎじゃない?」

「いやぁ……休みが重なるのって久しぶりだし」

「もう今日はこれくらいにしようよ、ね?」

「んー……ま、そういうならラスト一杯」

「そうそう、何でもほどほどがいいって」


「マスター、『ビトウィーン・ザ・シーツ』できます?」

「出来ますよ」

「何それ?」

「寝つきスッキリカクテルらしいよ、何か先輩に教えてもらった」

「そんだけ酔ってりゃ寝つきもクソもないじゃん!」

「おーい、女子がクソとか言うんじゃありません!んじゃマスターお願い」


 かなり酔っぱらってるなコノヤロウ。

 ちょっと心配になったのでマスターに聞いてみる。


「マスター、それどんなお酒なんですか?」

「はい。ブランデーが1/3、コアントローが1/3、ホワイト・ラムが1/3のカクテルですね」

「何その酒+酒+酒!しかも全部強い酒じゃん!」

「レモン・ジュースがティースプーン1杯入りますが」

「申し訳程度のノンアルコール要素!」


 マスターがカクテルバーの定番コアントロー「トリプル・セック」を棚から取り出す。

「出た!トリプル・セック〇」

 オヤジ下ネタが飛び出す泥酔バカヤロウ彼氏の後ろ頭をひっぱたく。

「さぁ~んぴぃ~い~」

 マスターのシェイカーを振る華麗な手つきを台無しにするバカヤロウな下ネタ

 ホントにこの人、こんな強いカクテル大丈夫⁉


 カクテルグラスに注がれる濁った琥珀色の液体

「お待たせしました。『ビトウィーン・ザ・シーツ』です」

 カクテル独特の「華やかさ」「綺麗さ」という感じがなく、それがまた大人のお酒っぽさを演出(いや、子供は飲めないけどね?)

「うわー……何この濁り酒っぽいカクテル」

 見るからに効きそう……

 ホントにこの人、こんな強いカクテル大丈夫⁉

「コアントローは良質のオレンジが使われているんで氷などで冷やすと淡く白濁するんですよ。ホワイトキュラソーとも言われる所以ですね」


「うまそう、いただきます!」

 くいっ!

「あーバカ!なんで一気飲みすんのっ!」





 次の日の朝


 やべぇ……

 頭痛てぇ……

 完全に二日酔いだ……


 てか……ここ彼女の部屋なんですけど……

 やべぇ……

 完全に記憶がない……


「起きた?」

 下着の上にYシャツを羽織った彼女がお盆を持ってくる。

 あ、この赤だしの微かな香り

 煮ごろしだ……


 赤だしを思いっきり沸騰させて味噌の風味をわざと殺し、具は三つ葉だけというお味噌汁

 祇園の二日酔い旦那衆がお茶屋出入りの料理屋に作らせて朝帰り前に飲んでいたらしい。

 なんかの漫画でやってたので、俺たち飲兵衛バカップルには似合いの朝食って感じで結構気に入ってる。


「うめぇ……」

 赤味噌と豆味噌が発する発酵食品独特の芳醇すぎる香りがほぼ死んで、だが旨味は死んでないというご都合主義味噌汁

 コンソメとかよりも日本人には優しいスープ

 具が三つ葉だけというのもすっきりしていい。

「はぁ……生き返るわ……」


 彼女もお椀をすすりながら……

「落ち着いた?」

「ああ、やっぱ『煮ごろし』はいいわー」

「んじゃ落ち着いたら、ちょっと話しよっか?」

「へ?」


「どうせそんだけ二日酔いだったら、昨日の事覚えてないでしょ?」

「あー、うーん、えーと……」

 ビトウィーン・ザ・シーツを頼んで……

 クイっと飲んで……

 えーと、そんで会計してタクシー乗って……

 ダメだ、そっから覚えてねぇ……

 そもそも俺、自分ん家に帰ったはずなんだけど……

 なんで俺はココ彼女の部屋にいる?


「私、『危険日だからやめて!』って言ったのに、誰かさんに押し倒されたんですけどぉ?」

「え⁉」

「覚えてないよね?どうせ」

「え、えーと……ゴムは?」

「持ってんの?私の部屋にはないよ?」

「……」

「私は人間と付き合ってたつもりなんですけどねぇ?」

「……」

「ケダモノと付き合ってたつもりはないんですけどぉ?」

「……」

「お酒に罪はないよ?泥酔する人に罪があると思うんですけどぉ?」

「……」

「当然、もしもの時は責任取ってくれるよねぇ?」

「…………」



 結論から言うと、その時は妊娠しなかったけど、俺たちはすぐに結婚しました。


 だってねぇ……

 こんな酒にだらしない俺に付き合ってくれるのは、コイツしかいないし。 


 今夜も2人で晩酌

 ただし、ほどほどに……

 酒も彼女も長く付き合うなら、ほどほどが一番

 程よく酔って、程よく愛して……

 ちょっと飲み過ぎた次の朝は、2人で煮ごろし。




 泥酔して女と車に乗って良かったためしはない。

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ビトウィーン・ザ・シーツと煮ごろし 鮮魚店のおぢさん @jinjin4989

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