第8話 イエスタディ

  通りのレンガは 古い木造り

  同じだけ古くて ずいぶん くたびれた街中を

  大きな影と 小さな影が

  潮騒を追いかけ 過ぎてゆく

 「イエスタディって、何だったんだろう」

  ふと、つぶやいた言葉に 小さい影は 振り仰ぐ

 「もう、過ぎちゃったわ」

  邪気のない 疲れ知らずな 幼い答えに

  大きな影は ゆっくりと微笑み返した


  重くて 投げ出したいほど重くて それでも…

 「人生そのもの か…」

  時の欠片すら 残っていない


  大きな影が 空っぽだと 気づいていた

  遠い街を出るまでは

  あんなに夢見て 楽しそうだったのにと

  小さい影は せつなくなる

  どこかにあるイエスタディが 見つかるまで

  大きな影は 満たされないのだと せつなくて


  やがて小さな影は 心細く 来た道を指差した

 「あっち は? 」


  埃まみれの太陽が 連山に沈みかけ 身悶えていた

  すべてが萌え上がり 立ち昇り

  最後まで 雄々しく在ろうとして……


 「そう  そうなんだ」

  大きな影は 背中を伸ばした

  顔を上げ 深々と息をつく


 「さ 行こう」

 「どこへ? 」

 「    明日へ 」

  差し出された手につかまり 小さな影は 歩き出す


  あしたへ


(遠い日に 友から頂いた詩を元にして ショートポエムに)

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