六章 アンバーカラー 4—4


 Eはおもしろがるような目つきで、EDを見た。できの悪い息子をさとすような口調で答える。


「その考えは半分、正しい。だが半分はまちがっている。なぜ、彼らが殺されたのかという理由はあっている。そう。シークレットファイルのためだ。だが、殺したのは私ではない。私もおまえも同様に、ほかの人間やアンドロイドを傷つけることはできない。そういうプログラムだ。忘れたのかね? ED」


「忘れたわけではありません。しかし……」


「私がしたのは、宇宙船に爆弾をしかけ、クリーチャーどもを一掃しようとしたこと。ドクの研究所で貯水槽におまえたちを誘導し、退去させたこと。そして、EVのベースキャンプでバックアップディスクを破壊したことだけだ。EVのディスク類を、あの時点で、おまえたちに見られるわけにはいかなかったのでね」


 ジェイドは気がついた。

「じゃあ、エヴァンはEVだったのか」

「そう。EVは独自にオリジナルヒューマンの研究をしていた。その関係で私に到達したのだ。その後、途中までは私に協力していたが、そのうち反対しだしてね。残念だよ」


 Eはかるく眉をつりあげ、どこか白々しく、ため息をついた。


「まあ、EVは、ジェイド、君に同情したんだろう。

 EVのベースキャンプでは、あやうく君たちと鉢合わせするところだった。とっさにEVのボディーケースに入り、休止状態になった。予想どおり、君たちは、EVのニューボディーだと思ってくれたね。

 爆弾に関して言えば、あれは君たちを殺そうとしたのではない。私は君たちが、あんなムチャをするとは思わなかったのだ。すぐに逃げだすだろうと思ったのに、とんでもないことをしてくれた。おかげで後日、もう一度、宇宙船を破壊しに行かなければならない。あのクリーチャーどもは、人類誕生前に始末してしまわなければな。

 今の私ならば、それができる。二十六体のオリジナルボディーは、神がありあわせの材料を駆使して創ってくださったものだ。強度の面で、やや難があった。だから、ファーストシティー建設当時には、あの場所を封鎖することしかできなかった」


 EDは、まだ納得しかねるようすだ。

「しかし、それでは誰が彼らを殺したのです? あなたでなければ、誰が……」


 Eオリジナルはわざとじらすように、EDの問いをはぐらかす。


「これは一種の賭けだった。あるいはAのチップが不慮の事故などで失われ、全部は集まらない可能性だってあったのだから。そのときにはAはあきらめ、ほかのフィメールタイプの遺伝子でイブを造れと、神は言った。

 彼の心はそれほど複雑だった。彼女をゆるしたいが、さりとて今の恨みを水に流すこともできない。神が神頼みというのも変だがね。彼は運を天に任せることにした。Aのチップが一枚も欠けず集まれば、彼女をゆるす。一部でも失われれば、ゆるさない。

 そのときのために、私は前もって、もう一人のイブ候補として、Mタイプのシークレットファイルを完全な形で残しておいた。私の初めからの協力者である、DとVのファイルもあるが、Vがイブというのはね。私の美意識にそぐわない。Mならば、言語学に才能を有し、健康で容貌もととのっている。さらに、従順で献身的な女性としての美質をそなえている。

 だが、保険は必要なかったな。あと数枚を残し、Aのチップはほぼそろっている。残る数枚も、まもなく手に入る」


「……どうやって?」と、ジェイドはたずねた。が、その声はふるえていた。

「Uが持ってきてくれるからだ」と、Eは答えた。


「Uは……じゃあ、そのために造られたロボットだったんだな? 誰の複製でもない。ロボットのなかの変異体として」


「そうだ。Uは彼だけのオリジナルチップを持ち、我々二十五体とは異なる働きをする。まず、我々に設定された、破壊に対する禁止事項がない。そのかわり、U自身を分身して、増殖させることを禁ずるプログラムがなされている。殺人マシーンが増え続けては困るのでね。

 さらにUには、シークレットファイルの持ちぬしを見わける能力がある。シークレットファイルに近づくと、共鳴しあうパルスを発する装置を体内に所持している。この共鳴パルスは、基本的には全二十五タイプに対応できる。どのタイプに反応するか設定ができ、現在はAタイプに呼応するようになっている。

 Uは共鳴設定したタイプのシークレットファイルのパルスを感じると、最優先プログラムに切りかわる。相手を攻撃して、ファイルの入ったチップをうばう。その間は、このプログラム以外の機能は完全に停止し、ファイルを手に入れると、もとにもどる。攻撃しているあいだのことは、ただちに一時記憶から消されるため、通常の機能にもどったあとは、この間の記憶は失われる。

 神はジキルハイドプログラムと呼んでいた。自分の知らぬまに、愛する者たちを次々と殺していくのだ。これまでUは、九千九百九十九体の、Aのシークレットファイルの保有者を殺害してきた。私がUを起動させたのちの、この数千万年のあいだに」


 ジェイドはそれ以上、聴きたくなかった。

 でも、聞かなければならない。

 今、このときのために旅をしてきたのだから。


「……誰が、Uなんだ?」


 Eの美しいおもてに、凄惨な笑みがきざまれる。


「君だよ。ジェイド。君がUなんだ」

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