五章 メモリー 2—4
(でも、滅びた。この旅は彼らにとって、死出の旅でしかなかった。使命なかばで自分たちが絶滅するとわかったとき、彼らの無念はどれほど深かっただろう)
だから、ジェイドたちロボットが造られたのだろうか?
せめて最後に残った二十六人の姿や、彼らの知識だけでも遺したくて……?
胸の奥がつぶれそうな苦い思いを、ジェイドは味わった。
そのとき、ピーッと高い機械音がして、ジェイドの物思いをさました。
オニキスが困惑顔で首をかしげている。
「ありゃ。なんでだ? エラーが出るぞ」
「操作をまちがったのでは?」と、ED。
「そんなはずはないが、もう一回やってみよう」
オニキスが何度、読みなおしても、コンピューターは赤い文字でエラーメッセージを出してくる。
「エラー、登録ずみって、どういうことだ? ジェイド、君、以前にも、ここに来たことがあるんじゃないか?」
「ないよ。初めてだ。たぶん、あんまりショックなもん見て、記憶をデリートしちまったんでないかぎり。それか、バックアップした古い記憶のなかかも」
「ああ、ふむ。なるほど。君はJだからな。別の考古学者の護衛でついてきたってことはあるかもしれんな。君、長いこと型式変更してないのか?」
「ああ。最後にEのチップもらったのが、一万年前じゃないかな」
「じゃあ、ありえない話じゃないな。あとで全リストを調べれば、君の型式もあるかもしれない。とりあえず、今はほかにも重要なデータがないか、コンピューターを検索してみよう。さ、君たちもサブコンピューターを使って手伝ってくれ」
オニキスの新発見はそこでネタ切れのようだ。
ジェイドたちは、しばらくコンピューターに向かい、単調な作業を続けた。膨大な数のデータファイルのなかから、オリジナルヒューマンや、オリジナルボディに関連する情報を探していく。
「ほとんど、システム管理や機器類のデータだな。そもそも重要な情報って機密データだろうから、保護がかかってるんじゃないか?」
ジェイドが退屈になって、言ったときだ。
いきなり、EDがビンゴをひいた。
「おい、これを見ろ」
手招きするEDを見れば、片手の指さきをサブコンピューターの外部機器接続かしょにさしこんでいる。コンピューターを自分のAIにちょくせつつないで処理しているのだ。
何をしているのかと思えば、データファイルにかかったパスワードを解析しているようだ。
ジェイドがふりむいたとき、九十六桁のパスワードの最後の一文字が解析された瞬間だった。
「あんた、ハッキング機能まで持ってるのか」
「パスワード解析機能と言ってほしいね。見るのか? 見ないのか?」
「見るよ」
ふんと鼻先で得意げに笑って、EDはパスワードの解けたファイルをひらいた。ディスプレイいっぱいに複雑な機械の図面があらわれた。
あッというおどろきの声が、三人そろう。
全身をおおう装甲板。
その内部に走る配線。オイル輸送管。動力システム。変圧器。
そして、そこからさきは誰にも手をだすことが不可能な、大集積回路——
「これは……設計図だよ。見ろよ。タイプAって書いてある。Aオリジナルの設計図だ」
ジェイドのつぶやきに、EDが返してくる。
「Aだけじゃない。二十六体ぶんある。膨大な量の資料だ。AIのプログラミングデータまで、すべてそろってる」
オニキスの声もうわずっている。
「スゴイじゃないか。基本人格プログラムのデータがあれば、まったく新しいタイプの人類を造ることだって夢じゃない。ついに我々は進化の限界をこえられるんだ。ED、早く、ダウンロードしてくれ」
だが、そのとき、とつぜん、非常ベルが鳴りひびいた。
「なんだ?」
周囲をかこむ監視モニターのランプの一つが、赤く点滅している。
ファーストシティー建設時に使用された
コンピューターの合成音が、場違いにていねいに警告する。
「熔鉱炉内に爆発物が存在します。至急、除去してください。放置した場合、熔鉱炉が誘爆する恐れがあります。ただちに熔鉱炉を停止し、爆発物を除去してください。くりかえします。ただちに熔鉱炉を停止し、爆発物を除去してください——」
ジェイドたちは、こわばった顔を見かわした。
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