シャルトボルゼン

エリー.ファー

シャルトボルゼン

 大好きだったと言えば、いい思い出になるだろうか。

 犬が死んだ。

 全然、悲しくなかった。

 飼っていた犬が死んだわけではないし、あたしからしたら、そこらへんにいた犬が死んだ。

 ということでしかない。

 こういう町だから、住民にモラルみたいなものがないのだと思う。

 割と簡単に動物が死ぬことがある。

 最近はインコが死んで道路のど真ん中にいた。朝方トラックが一台走って来てそれを避けていったけど、通学途中の高校生の自転車の車輪が踏みつぶした。

「うわ、マジ最悪なんだけど。」

 という言葉が朝方の道で響いた。

 こういう事なのだと思う。

 あたしにはそうやって、命が消費されているのが自然なことだと感じられる。元々、そこに価値があるかどうかではなく、価値があると思うことに無理があるのだ。

 皆が皆、命の価値を学び、理解していたら誰もが生きていくことは最早難しい。

 あたしはマンションの窓から今日もそうやって町を眺めている。

 光線銃の中にはもうエネルギーもなくなっており、使うことは不可能だ。諦めて捨てた方がいいのだけれど、どこか思い出として持ち続けたいと感じている。

「ポチご飯だよ。」

 あたしの飼い主はあたしにそうやって餌を与えると、直ぐに隣の部屋に行ってしまった。いつもと変わり映えのしない日常が続いているせいで、ご飯の味がどうこうというような不満は消え去った。

 あの子は、あたしが光線銃を持っていても基本的に何の興味も示さない。そういうものだから、しょうがないと思っているようである。もしかしたらいじくったことがるのかもしれない。そして、その光線銃で嫌いな女の子を殺してしまったのかもしれない。

 そんなことを考えてしまう。

 あたしは、ご飯を食べきるとあくびを一つして、また眠ることにした。こうしておけば、時間は以外と早く過ぎるものだ、ということを最近学んだ。

 生まれてからこの場所にいて、ずっと飼い主に笑顔を振りまいてはいるけれど、これが続くと思うと少し疲れる。偶にしてくれる散歩で、他の動物と顔を合わせることはあるけれど、言葉が通じないので意思の疎通は不可能だ。ちょっかいを出してくるものもいて、そういう所は無視をするようにしている。

 隣の部屋で飼い主が何かを食べている音がする。

 叫び声はないし、何かを砕くような音もない。

 初めて聞いた時は何かと思ったけれどもう慣れた。

 まだ自分が生まれたばかりだった時のことを思いだして、少しだけ自分の成長を感じる。

 これが飼われている身としては、一番の楽しみにするしかない。

 娯楽が少ないのだから、致し方ない。

 何年前だろうか。

 あたしと同じ種類の動物が突然来て、何か分からない言葉で話しかけてきた時に、この光線銃を渡された。お母さんが亡くなる前に教えてくれた言葉に少し似ていたので何となくわかったけれど。

 

 地球に帰ろう。


 と言っていた。地球がどこなのか分からないから不安で無視したけど、相手はとにかく必死だった。直に飼い主が帰って来たら、そいつらはさっさと逃げかえって行ったからそれがとても気分が良かった。

 飼い主は第八触手から伸びるエテゾドラの卵を齧りながら、あたしのことを撫でて最後は抱きしめてくれた。薄い塩酸の混じった体液が分泌している表面のせいで、少しあたしの肌は炎症を起こしたけど、優しさを感じられて嬉しかった。

 

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