第16話 おきぬけのいっぱい

 吾輩はネコである。

 名前はちび太。



 早朝、吾輩が物音に気が付いて目を覚ますと、


「ふぅ、起き抜けの一杯はやはり格別だな。灰色にくすんだ俺の心も、この瞬間だけは鮮やかな彩りに満たされる――」


 ご主人様が窓際に佇んで朝空を見上げながら、しゃれたショットグラスをかたむけてぐいっとやっていた。


 昨日、ヨドバシ・ドット〇コムから届いたオシャレグラスだった。


 そんなご主人様を見て、吾輩は特に何を思うでもなく再び眠りについた。


 ご主人様はいつものダークヒーローごっこをしているのである。


 いわく、

「雰囲気を実際に感じてみることで、創作にリアリティがでてくるんだよな」

 とのことである。


 ちなみにグラスの中の茶色い液体、これはブランデーでもウイスキーでもなんでもなく、冷蔵庫に常備してある水出しで作るパック麦茶だろう。


 なにせご主人様ときたら、てんで酒が飲めないのだからして。

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