ブリング・ミー
ふえるわかめ16グラム
Introduction
「
桜の季節、とある公立高校の教室にて、真新しい制服に身を包んだ少年少女たちが代わる代わる希望に満ちた自己紹介をしていく。そんな中、教壇からほど近い席に座る少女は、教室全体に聞こえるかどうかの声量でそれを済ませる。それは、彼女の一回り小さく華奢なからだをそのまま表すかのような声だった。
「声ちっさ」
教室のどこかから、からかいのささやきが上がる。その声が届いたのか、先ほどの少女は切れ長の目を前髪で隠すように、俯きがちに着席した。教壇に立つ男は特に何も言わず、若人を見守る微笑みで次の生徒に進行を促す。
「東中からきました、
ほどなくして、教室一杯分の自己紹介が終わった。教壇に立つ男は軽く生徒全員を見渡し、手元の名簿と教壇の窓際に立つ老人を一瞥し口を開いた。
「はい、みなさんお疲れ様です。改めまして、1年2組担任の
教室にささやかな笑い声が散らかる。
「まあ、僕はだいたいこんな感じなので、みなさんも話しかけやすいかと思います。新しい環境で不安なことや分からないこと、相談ごとがあったら気軽に声をかけてください。それじゃあ、阿部先生、なにか一言」
男が促すと、窓際に立つ総白髪の老人が穏やかな語り口で挨拶を述べた。
「みなさんご入学おめでとう。副担任の阿部です。みなさんとはホームルームか数学の授業で顔を合わせることになるでしょうか。そういえば、僕ね、今年度で定年退職なんですよ。1年間、短いかもしれませんが、よろしくどうぞ」
「数学かぁ」「かわいー」「定年っていくつから?」
どうやら担任の須藤より生徒の心を掴んだようだった。須藤は気の抜けた表情になり、阿部と段取りを確認する。
「それじゃあ、これからみなさんの保護者の方が教室にいらっしゃるので、それまでいくつか配布物があります。みなさんが協力してくれると早く終われるから助かるなあ」
「須藤先生、僕も手伝いますよ」
「あっ阿部先生ありがとうございます! ほらほら列の一番前、プリント取りに来て。一番後ろは余ったら持って来て」
にわかに慌ただしくなる教室のなか、須藤は終始俯いている少女、優有のことを気にかけつつも独り言ちた。
——クソめんどくせえ。
こうして新しいクラスがまた一つ始まった。
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