第127話「ブリェヘムの狂王」 フィルエリカ
ウルロン山脈南下を諦めて北麓側に下っている。
狭い山道の中を何日も聖戦軍と逆行しながら進む度胸は流石に無い。それに街道を外れて進める程あの山々は平坦ではない。身を隠して行けない。
何よりあの目付きの悪い修道女もどきのジルマリアには「国に帰れ」と修道院を発つ別れ際に言われてしまっている。
一晩、少しだけあの精勤振りを見て感じたが抜け目が偏執的に無い奴と判断した。真っ向正面から逆らって生き延びる自信は無い。だから斜に逆らう。
東回りに迂回して南部へ行く道を通る。セナボンが封鎖されてはいるが、ウルロン山脈東麓の道なら行ける。狭くて険しいが、少数で通るには十分だ。
あの道は主要な街道ではないので行けるはずだ。そこが無理なら諦めよう。既にこの人探しがもたらす何かしらに期待を寄せるには手遅れだとは思うが、そう簡単に諦めるのも不快だ。
「アブゾル君、山を下りてしまってから言うのもなんだが、本当に良かったのかな? 身の保証は当然出来んぞ」
「傭兵稼業に比べたら全く、何て事はありません」
「ならいいが」
アブゾル君が、二百タリウスは情報料にしては高過ぎたのか、院長の指示で自分の護衛に付いている。期限は特に定められておらず、修道院のチビ共からは大層睨まれた。
自分は修道女に変装して馬に乗り、手製のアタナクト聖法教会が発行した偽紹介状を携えている。アブゾルが馬の轡を引く。
山道を行き交う聖戦軍の遊牧騎兵の伝令の動きは活発だ。その動きを支える駅が既存の建物を利用して作られている。あの軍隊が通過して一体何日で機能するまでに仕上げられたのか? 一日二日の早さではないか?
■■■
山道を下り切り、聖戦軍の旗が立っている村に立ち寄って水を補給していると噂話が耳に入る。
オルメン陥落とフュルストラヴ公軍の敗北と公ご自身の敗死だ。
ついさっきあの連中は山を下りたばかりじゃなかったか?
オルメンはウルロン山脈から北に流れるサボ川、東のダカス山から緩やかに流れるモルル川が合流しイーデン川に名を変え、中部の西側北方にまで注いで幾つもの支流に分かれて海にまで通じる交差点にある。そんな重要拠点の防備が薄いはずも無いのだが、陥落したそうだ。
それに加えてフュルストラヴ公軍の敗北に公の敗死? オルメンに向かって軍の指揮を執って動いていたという事実に繋がると思うのだが、聖戦軍の連中はつい何日か前に山を下りたばかりじゃなかったか?
あっと言う間に南部の大半を征服し、ウルロン山脈越えも平原を飛び越えるようにしてしまった軍勢ならば不可能ではないのだろうが、何とも、虫けらに貶められた気分がしてくる。
■■■
モルル川沿いに東進する。
アブゾル犬を引っ張って歩いた時にも感じたが、この若者は大層に足腰が頑丈だ。歩く速度は早く、そして苦にした様子も無い。脚と尻の太さが何とも素晴らしい。
こいつは良い。良い良い。
進む内に異臭が漂ってくる。これはあの臭いだ。
段々と街道上に大勢が踏み荒らした形跡、まだ腐り切ってはいない血の跡。細かいゴミの中には道具類も混じり、体の一部も混じる。
そして見張り付きで大量の武器や物資が積み上げられており、捕虜が兵士に武器で脅されながら墓穴を掘っている様子が見られる。その側には山に積まれた死体がある。
傭兵稼業をしていたアブゾルとはいえ、あそこまで死体が山と積み上げられるような戦場跡は初めてなのか震えて見える。
「アブゾル君、堂々としろ。かえってこの位の方が通り抜けられる」
「本当ですか?」
「私達は修道士。聖戦軍は味方だ」
「ですが」
「あの東のどこからやってきたかも分からない遊牧民共に見分けがつくと思うか?」
「はい……」
喋っていると早速、遊牧騎馬兵が四騎、弓矢を手にやってくる。いずれも若者だ。下の毛が生えたかも疑わしい面もある。
「何者だ!?」
魔神代理領の共通語だ。アブゾルは分からないだろう。
「留学の為に、ブリェヘム王領のクストリュツ寺院に向かっている最中です」
馬から降りて偽紹介状を広げて見せると、騎兵達に見せる。
「寺に留学? うーん?」
何だかちょっと理解していない顔だ。紹介状を懐に仕舞う。
「彼方達にとっては単なる敵であったとは思いますが、彼等の為に祈らせて頂いても構いませんか?」
四人の中で指揮を執っている騎兵が首を傾げてから、ついて来いと手招きをするのでついていく。
「フィ……姉妹! どこへ?」
「兄弟アブゾル、死者に祈りを捧げてきます。あなたはそこで待っていて下さい」
騎兵に誘導され、強烈に血生臭さを発している死体の山のところまで行く。墓穴を掘っていた捕虜達が手を止め、頭を下げてくる。泥と血に汚れた泣き面もかなりある。
目を閉じて手を合わせる。捕虜達が自然と集まってくる。監視の兵士達は、渋い顔はしたがこのくらいはいいかと怒ったりはしなかった。
「聖なる神は無から全てを創られて世界としました。創られし者達は死んで無に還るのではなく、この世界を巡ります。巡る旅に既に苦痛無く、苦痛の全ては生ある内に終え、今彼等は苦痛より解き放たれました。死は遺された者達への悲報ですが、死は旅立つ者達への朗報です。望んで死んではなりません。しかし死んだ者にも望んではなりません。初めの死者は言われました。これで終わるのではなくこれで始まると。初めて死に抵抗した死者は言われました。子や孫に託しても良いと百年かけて悟ったと。初めて死者の声を聞いた者は言われました。死は解放、悲しみではなく喜びで送るべきと。誓約により課されたあらゆる負担は取り除かれました。あらゆる穢れは濯がれました。清くなった彼等は死に、再度死ぬことはありません。餓えに苦しまず、渇きに苦しまず、打たれる事も焼かれる事も凍える事もありません。病を知らず、涙を知らず、怒る事も疑う事も嫉妬する事もありません。ただ静かなる平穏の中で安らぎの中に抱かれます。彼等は生ある内に聖なる神に課された義務を全て果たしました。誰に憚られる事無く安らかであって良いのです。暖かな静かな海に浸かり、涼やかな美しい風に吹かれます。闇夜の恐怖は払われました。彼等を傷つける者は無く、何にも怯える必要は無いのです。彼等は今後聖なる神が決して破られぬ誓約の下に永遠に守られます」
目を開けて合わせた手を開く。
「永遠になった彼等を、聖なる神よ守り給え」
『聖なる神よ守り給え』
唱和した捕虜達が泣き崩れている。涙を流しながらも笑顔を無理に作って彼等の旅立ちを祝福しよう、等と健気に励まして回る者もいる。
「兄弟アブゾル、修道士の彼方が泣いてはいけませんよ」
こちらの様子を見に来たアブゾルだが、目どころか鼻からも汁が垂れている。
「ずびばぜん」
言葉が通じたかまで知らないがあの騎兵まで貰い泣きしている。殺したのはお前等だろうが。
■■■
フュルストラヴ兵の死者に祈りを捧げてから東進する事しばらく、ブリェヘム王領に入った。
領境の都市チェストラヴァの門を潜る。
市内は慌しく、召集された軍に予備役兵が組み込まれ、宿屋や民家に分泊するのに動き回っている。
街頭では徴募官が新兵の身体検査をしている。まだ選んで集めているようだが、誘拐部隊が酔っ払いや浮浪者を無理矢理馬車に詰めて回ってもいる。
前歯抜き立ての若者がいくらか見える。小銃に弾薬を装填する際に使う、弾薬が梱包された薬包を噛み切れないということで銃兵失格となって徴兵逃れをしようという魂胆だ。ブリェヘム王なら容赦せずにそんな奴も集めて槍でも持たせそうだが。
「アブゾル君離れるなよ。乞食坊主なんか浮浪者と変わらん」
「はい。違いますけど、はい」
チェストラヴァ市内の宿だが、勿論全て軍に借り上げられている。教会や修道院も満杯だ。
馬が徴発されそうになって、偽紹介状で凌いだぐらいに状況は逼迫している。
修道女姿だとなめられるので男装姿になる。流石に貴族相手ともなれば馬を寄越せ等と迫る奴はいない。
寝床であるが、知り合いの貴族がこの街にいるので部屋を借りて済ませた。ここに至っては変装も何だか意味消失してきている。
■■■
チェストラヴァを発ち、宿場町をいくつか経由して首都ニェルベジツに到着。
道中は動員された軍隊、物資満載の荷車を引く馬に商人と常に擦れ違っていた。
ニェルベジツから南へ行けばウルロン山脈東麓への、隠されてはいないが有名ではない道に行ける。
宿は何処にしようかと道を歩いていると、騎馬憲兵隊に道を塞がれる。
反射的に両手剣に手が伸びたアブゾルの手を掴み、馬鹿はするなと肩を叩く。
「ご昼食はお済みですか、キトリン卿」
「まだだが」
「王がお待ちです」
「分かった。従者には腹一杯食わせてやってくれ」
「勿論です」
馬に乗ったまま首都中心部、森と湖に囲まれた島の居城へ向かう。これとは別に都内の丘の上にある戦城もある。
島には橋が架かっていないので船に乗る。馬とアブゾルは憲兵に任せた。
耳の聞えない漕ぎ手の老人の操船に任せて島の桟橋につく。
桟橋から先の案内は耳の聞えない女中だ。お辞儀をされる。
女中について行く。居城の警備は番犬や、行き場の無さそうな何かしら障害を負った者達ばかりだ。城内は不気味に静寂で、人は皆足音を殺して歩く。咳払いすらも飲み込むようにしている。
食堂に到着して案内された席につく。
食卓の光景は凄惨である。部屋には縦長の卓が四つあるが三つは満席、残る一つは主人の上席と、その対面の席の二つのみ。その対面に自分は座った。
他の席を埋めるのは、殺した敵対国の君主や裏切った家臣達の礼装した剥製だ。椅子の種類はバラバラだが、あれらは本人が生前に使っていた物だからである。
剥製の手には食器や杯が持たされ、まるで食事中のように見える。卓には模造品だが食事も再現されている。加えて、足元に犬が座って食事のおこぼれに預かろうとしていたり、召使いが配膳、子供達が卓の下でかくれんぼ、追いかけっこをしている様も再現している。
まるで宴の一時を切り取って封じ込めてこの場に再現したかのような細やかさだ。勿論、全て剥製である。それぞれがまるで生きて、感情をあらわにしているように見えるが剥製。
忠実な障害者ばかりの居城、そして剥製の食卓。この異世界に時折客を招くようになって以降、反乱が減ったというのだから馬鹿にしたものではない。
「やあフィルエリカ、突然招いて悪いね」
「憲兵は止めて下さい。目立ちます」
「ああ! そうだね。雲隠れされる前に何とか、と焦ってしまったよ」
主人の席に、優男にも見える色の白い細身の中年が座る。彼こそブリェヘムの狂王ヴェージル・アプスロルヴェ。性格は個性的だが、世間に言われる程に頭がおかしいとは思わない。まともと言い切るわけでもないが。
配膳が始まる。場数はかなり踏んできたが、正直ここでの食事は不味い。
「娘さん方は元気かな? 大層母に似て美しくなったと聞いているが」
「皆、家名を盛り立ててくれる者に成長しています」
出発前に一人くらい顔を見て行きたかったが皆忙しい。リルツォグト家の宿命でもある。
「それは良いね。是非、顔を合わせる機会が欲しいよ。息子達には毒になりそうだが。君も忙しくて余り顔を見ていないのではないかな?」
「仰る通りです。末の娘でも既に動き回っておりますから」
「そちらの案件でもかい?」
盆を持った召使いが来たので、革手帳を盆に乗せる。王が革手帳を盆から受け取る。
「これは単独の方が良いと判断しました」
「かもしれないね」
王が細密画を見る。ご老公と王は、条約こそ無いが昔から同盟関係だ。あえて紙面に起こす必要が無いぐらい。同志と言っていい。
「聖王カラドスの家系の者だ。勿論、ロシエ人ではない本物の血筋だ」
ロシエの王家はカラドスを家名にしているが、あれは馬鹿じゃなければ誰でも分かる嘘だ。ただ馬鹿と馬鹿のフリをする奴がいるから中々手強いのだが。
「オルフ人ではありませんが、見つかれば我々には救世主の降臨に等しいようですね」
前の北領戦争で成しえなかった中部の、中部を越えた南北も合わせた統一を実現するにはその名が必要だ。それしか縋るものが無いとも言える。
「うむ。カラドスに姓は無かったがその孫が母である、カラドスの娘ザラの名を取ってザラ家を名乗っている。それも戦争でザラ家は直ぐに途絶えるのだが、傍系のザラ=ヒュンブリク家が存続していた。その家が狙われやすいザラの名を捨ててヒュンブリク家となり、またヒュンブリク表記が記帳の手違いか何かで揺らいでおまけに訛ってフェンベルになった。そこの最後の生き残りこそが我々が求める人物、この女性だ」
盆経由で革手帳が返還される。
「覚えているだろう、君がフェンベル家を追っていたのだからね。夫妻の顔を思い出せばこの絵が分かる。ご老公もまたなんというか、名も教えないで捜索に出すとは微妙な配慮をしたものだね。色々と知らなかっただろう」
「犬は獲物を選ばないものです」
フェンベル夫妻は十年前に追跡中に見失った。現場周辺で死に値する血痕が確認され、そして川に人が二人引き摺られて入れられた痕跡が見つかっている。当時は大雨で川も増水しており、下流の捜索はしたが手応えが無かった。その夫妻を川に流したと見られる召使い女の自殺した死体は発見したが不明瞭な部分が多かった。
ご老公が名を教えなったのは先入観を捨てさせる為の配慮か? それともやる気を削がないためか? あの夫妻追跡、抹殺任務はかなりやる気が出ない仕事ではあったが。
「今度は成功しないとね。家名より旗が泣くよ」
「手掛かりをご存知で?」
「これ以上は無いかな。娘の顔も名も居所も知らないよ。その絵は両親の特徴が出ていると確信出来るがね」
「本当に探しますか?」
「当時は我々の自治を脅かす存在だった。もしフェンベルが諸侯の糾合なんて始めたらこの愛すべき混沌の中部が失われてしまうから君に追わせた。がしかし、今はわがままを言ってられないね。救世主が必要だ」
これは本当にやる気の出ない仕事だ。さんざん追い回して殺そうとした奴に、都合が悪くなったから死なないで我々の旗印になれと言いに行くのだ。初めから知っていたら途中で、アンブレン修道院あたりで言い訳を作って止めていた。
「皮肉で言う訳ではありませんが、正気ですか?」
「精魂果てて抜け殻になっている姿に賭けてみたい。ともかくこの惨状だ。手段は選んでいられないんだよ」
「確かに。ですが代役ならいくらでも立てられるかと」
「親から受け継いだ血と財産が頼りの我々貴族がそれをやってしまったら何になるかね」
「それはそうですが、手段は選ばないのでは?」
「命より大事な伝統がある。仕事人のリルツォグト家の考えと違うのはしょうがないさ」
何にしても十年前の手抜かりでケチがついているか。夫妻はともかく娘の存在を察知出来ていなかったんだから。
「この剥製の中には彼女の祖父がいる。君の直ぐ右の老人だ。顔を見たまえ、その系譜が見られる」
老人。どう作ったかは知らないが、笑顔で何かを訴えている。
「聖王の正統性を子に与えたいと思って娘さんに求婚したら断られてしまった。保護しようと思ったら家臣と反逆を企ててね、そうなってしまった。左の青年だ」
青年。満足気に杯の中身を覗いている。
「フェンベル家は血をばら撒かないように必死だった。希少というのは価値であるからね。だから私はかなり良い話で持ちかけた。私のような年寄りが嫌なら息子との婚姻もどうか、婿入りなら下の息子とも言った。でもダメだった。あの頑なさには何があったか分からないままだ。フェンベル家の名前でカラドスを再興するなんてのは当時夢どころの話ではなかったから本当にまさかだが」
間抜け同士が死人に囲まれて飯を食っている姿は何とも、間抜けな話だ。
話を変える。惨め過ぎる。
「山を越えてきた聖戦軍は私の目でも恐ろしいと分かりました。この中部で遊びのような小競り合いをしてきた兵士とは種類が違います」
「だからこその救世主だ。そんな危ういものに頼らないとならないぐらい我々は危機に瀕している。最悪、ロシエの下品な偽カラドスに助けてもらうしかないが、さてはて、どうなるか。疲弊したロシエに頼るとは受け入れ難い。今はもう頼りないし、そして活躍してもらっても困る。聖女猊下のあからさまな野望を聖皇聖下はお認めのようだし、嘆かわしい時代だ」
話が変わらなかった。
不味い昼食を、フェンベル家夫妻抹殺の原因か遠因を作った剥製に挟まれて食べ終えた。
料理自体そこまで良い物ではない。勤勉と粗食がヴェージル王の精神でもある。
■■■
首都ニェルベジツ出発時にバルリー共和国から傭兵軍、聞くところによると三万が入城して来て道が塞がれたので彼等の行進を見る事になってしまった。
揃いの軍服軍帽に小銃。精強で厳格な規律を維持する彼等なので馬鹿な騒ぎは起こさない。かえって女の方が安全なくらいの連中なのだ。
攻撃を仕掛けるのか、反撃体制が整うまで防御に徹するのかは知らないが、ブリェヘム王国は戦時体制へ完全に移行したようだ。
バルリー傭兵の行進が終わって道が空いてから出発。
セナボンに接続する南進街道の本筋からは反れて農道に入る。
収獲時期だけ営業しているような宿屋で一泊してから林道をひたすら進む。この辺は人がいないので野盗も出ない。
アブゾルをからかって暇潰しをしながら野宿を繰り返し、林道を進み木こりの村に到着。民家で一泊。
獣道に入って川沿いの道に進む。木こりが川に丸太を浮かべて川下りをしている。
川沿いの道から西へ行く山道に反れて上る。
名前も無いような山に上り、尾根伝いに進む。ここがこの道の難所。冬だと寒風が強くて死を覚悟する必要がある。冬時期にこの仕事が回って来なくて幸運だ。
尾根をある程度進んでから下りの山道に入る。途中で爆発事故で閉山になって寂れた、規模だけは少し大きい鉱山町に到着。ここで一泊。
ここから街道を真っ直ぐ行けば南部に出る
次の村で一息入れる。入れるはずだったがその村は焼かれ、腐敗して虫に鳥が集る死体が周囲の木に吊るされていた。アブゾルがその百何体あるかわからない死体を埋葬しようしたのを止めさせた。
そんな不吉で不潔な場所で休めるわけも無いので先を進む。良く知っている道なのに見知らぬ地に来たような感覚がある。
地元住民しか使わないような道から、南部の主要街道に近づいていく。
死体が散見されるようになってくる。矢は回収されているが、検分すれば矢傷で死んだ者が多いようだ。
森では農民なのか盗賊なのか良く分からない連中も見かける。素人丸分かりの下手糞な襲撃や様子見は何度かあった。
怪しいようなら先に剣を抜いて殺した。アブゾルも傭兵稼業でその当たりは承知で、女子供は避けていたが、両手剣一閃で真っ二つに盗賊かもしれない男を斬り殺していた。
いつまでも追跡されていては気も休まらないので自分が囮になり、アブゾルに逆襲させたりと色々工夫をした。
何人か尋問したが、聖戦軍に逆らって住処を焼き出された連中で、食うに困って盗賊の真似をしていたそうだ。森の奥では襲う相手もいないし、村や主要街道には聖職者の警察がいるので飢え死にを待つだけ、らしい。
治安維持部隊が既に征服地を統制しているというわけだ。聖戦軍の皮を被った蛮族傭兵の侵略という幼稚な戦争ではない。
「アブゾル君」
「はい」
「散々な目に遭った上での無駄足でも怒るなよ」
「はあ」
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