第6話:魔族連続同時殺人事件

「タナカさん! ちょっと来てください!」


 朝っぱらからうるさい奴だ。

 ジュリアがノックもせずに部屋に入ろうとして、鍵を開けられずにガチャガチャしている。

 俺は部屋全体に【静寂サイレンス】の魔法を掛けてから、再度頭から布団をかぶる。

 途中で起きたから、俺はまだまだおねむなんだ。

 放っておいてくれ。


***

「久しぶりに良く寝れたわ」


 それからさらに3時間程眠ると、俺は伸びをして布団から出ると魔法でサッと着替えて外に出る。

 ゆっくりと私の宿のロビーに向かうと、ジュリアがソファで膝を小刻みに揺らしながら待っていた。

 捕まったら面倒くさそうなので、その横を無言で通り過ぎようとして呼び止められる。


「ちょっ! なんで無視するんですか! てか、眠り深すぎでしょう! なんで起きないんですか?」

「ん? 昨日あんなに頑張ったのに、なんであんな早くに起こしに来たんだ?」


 俺の言葉に、ジュリアがプルプルと肩を震わす。

 それから俺に詰め寄って来る。


「やっぱり、起きてたんじゃないですか!」

「あまりにウルサイから、部屋に静寂の魔法掛けて二度寝したから起きてはいないな」


 ジュリアがポカーンと口を開ける。


「なっ! そんな魔法の無駄遣いしないでくださいよ! それより、広場に早く来てください!」


 埒が明かないと思ったのか、ジュリアが俺の腕を引っ張って連れ出そうとする。

 すぐにウララが俺の肩に飛び乗って来る。


「なんだってんだよ! ったく」


 引きずられるようにして中央広場に辿り着くと、人だかりが出来ている。

 ザワザワと中央を囲むように民衆が何かを話し合っている。

 その様子を遠巻きに見ていると、ババ様が人だかりの中からこちらに気付いて近付いて来て俺が魔族を埋めたところまで連れていく。


「タナカ様! これを!」


 ひでぇ……

 連れていかれた先では俺が埋めた4体の魔族の首が切り離されて、丁寧に台の上に並べられてある。

 いかな魔族といえども、首を切られたら生きてはいられない。

 しかも一太刀で切る事が出来なかったのか、切り口がかなりエグい事になっている。

 その表情も約一体除いて苦悶に満ちたものだ。

 何故か一体だけ眠るような安らかな表情をしているが。

 そんな事より誰がこんな事を……って、まあ魔族を憎んでいる人間の村の真ん中にこんなもん置いたらそうなるか。

 うーん、取りあえずはこんな事もあろうかと保険を掛けといて良かったわ。


 これをやった人には残念だが、首から下は生きているんだよねー。

 このアダマンタイトの檻は、魔力の吸収を行い続けていると同時に体に対して状態を保持するように常に働きかけているからね。

 こいつらを殺そうと思ったら檻ごと破壊するしかないわけで、首を元に戻したら……ほら!


「くっ! やめろ!」

「おのれ人間め! 許さないのですね!」

「はっ! ああ……助かったのね」

「もう朝?」


 アンダードッグ、カイザル、ネネ、ボクッコが急に騒がしくなる。


「なっ! 生き返らせた?」

「馬鹿な! 魔族なんて別に死んでもいいだろう!」

「いや、殺すにしても夜の間に勝手に殺されたんじゃこっちに気も晴れねーよ! 公開処刑じゃねーとさ!」

「良かった……これで俺も殺せる……」


 うーん……人間物騒だなぁ。

 まあ、日本じゃないしね。

 北の世界と事情は違うけど、人間性はあまり変わらないのかな?


「さてと……誰にやられた?」


 俺が4人の前にしゃがみ込んで尋ねると、全員が俺の方を射殺すような眼で見てくる。

 あたかも俺がやったかのような反応だ……


「お前が、こんなとこに埋めたんじゃねーか!」

「酷いのですね! ずっと、ここから動けないのですね!」

「そうだね……今までこんな屈辱は味わった事無かったね」

「僕、昨日飲み過ぎたからトイレ行きたいんだけど……」


 カイザルと、ネネが微妙に被ってる気がしないでもないが、若干違うな。

 ボクッコは、ちょっと切羽詰まった様子だ。

 てか、そういう事じゃないんだよ。

 確かに埋めたのは俺だけどさ……


「いや、誰がお前らの首を刎ねたんだ?」


 俺の質問に4人が顔を見合わせ首を捻る。

 それからまた一斉に喋り始める。

 こいつらもウルサイなー……基本的に中央の世界はやかましい奴等が多いのか?


「夜だったし、仮面被ってたから分からないのですね」

「どうせ、お前なんだろ?」

「それはないね、こんな事が出来るならとっくにやってるね」

「取りあえず、逃げないからトイレ」


 ボクッコは必死だなー、まあ、こいつ1人逃げ出したところでどうという事は無いけどね。

 とりあえずボクッコの頭を掴むと、ムンズと穴から引き上げる。


「ちょっ、そんな強引に引き上げたら刺激で! あああああ……」


 あっ……ごめん……


「もうお嫁に行けない……シクシク」

「ひでー、タナカひでー!」

「これは無いのですね! というか臭いからそいつを遠くに連れていくのですね!」

「いや、カイザルも酷いからね! ボクッコ大丈夫だからね! 私は何も見てないからね」


 周囲の人達もどう反応したらいいのか分からずに、ザワザワしてる。

 しかし、同僚4人にこれだけの大衆の前でお漏らしとか、本当に可哀想な奴。

 誰だろうね、こんな酷い事した奴は……俺だけど

 まあいいや……


「全然良くないんだけど……」


 なに! 俺の心を読んだ?


「タナカさん思いっきり声に出てましたよ」


 すぐにジュリアに指摘される。

 どうやら、口に出していたらしい。

 まあいいや……(2回目)

 俺は洗浄の魔法を使ってボクッコを綺麗にして再度埋める。


「ちょっ! 何事も無かったのように埋めないで!」


 ボクッコが何か喚いているが知ったこっちゃない。


「最初に気付いたのは?」


 それから民衆に向かって問いかけると、ババ様が1人の農夫を連れてくる。

 いかにもなオーバーオールを着て、バカでかいフォークのような鍬を手に持ったTHE農夫だ。


「いや、オラが畑に行く前にもう一度魔族の情けねー面を拝んでやろうかと思ったら、すでに首だけにされただ」


 うん、分かりやすくていい。

 なんで、この世界の人達は都会だろうがなんだろうが、職業に似合った喋り方をするんだろうね。

 都会だろうが、田舎だろうが、農夫は等しくそれにつけてもおやつはクールのおじさんみたいな喋り方だ。

 このそれにつけてもの意味がさっぱり分からないが、今は関係ない。


「こやつは村でも一番の早起きでな……こやつより前に犯行を行うとしたら夜中じゃの……タナカさんが3人の魔族を埋めてから2~3時間以内に行われておる」


 おっ、なんか推理小説っぽくなってきたな。

 じゃあ、ここは俺の知性をフル活用してじっちゃんの名に懸けて犯人を見つけ出してやるか。

 俺は、4人の記憶を読み取る。

 ふむふむ、仮面を付けているが武器は細剣か……細剣じゃ全然歯が立たないから、途中から斧を持ってきてるな。

 力が弱く、線も細い事から犯人は大人の女性だな。

 取りあえず、ジュリアの記憶を読み取るか……


「謎は全て解けた!」


 犯人分かっちゃった!

 ジュリアの記憶を読み取ったら、思いっきりこいつ俺と別れた後にここに寄って、ザックザックと切ってたわ。

 俺の言葉にジュリアがガタガタと震え始める。

 ……これ、別に推理とか尋問とか、記憶を読まなくてもブラフで言えばすぐに分かったんじゃね?

 唇は真っ青だし、全然目も合わせようともしないし……


「ジュリアさん……犯人は貴女ですね?」

「なっ! 何を根拠に!」


 俺の言葉に周囲の人達がざわめき、ジュリアが狼狽しながら反論してくる。


「いや……その反応分かり過ぎでしょ?」

「な……なんの事かしら? ピュー♪」


 く……口笛が吹ける……だと?

 俺の知ってる、間抜けな女とは違うみたいだな。

 だが、吹けようが吹けまいがその反応で確信した。

 周囲の人達がゴクリと唾を飲んで、固唾を見守っている。


「何故なら……貴女の記憶を読んだからです!」


 ビシッとジュリアを指さしてカッコよく決める。

 俺の確信めいた推理を受けて、諦めたのだろう……俺の目をジッと見据えると首を振る。

 そして、その瞳からツーっと一筋の涙が流れたかと思うと、大声で叫ぶ。


「だってしょうがないじゃない!」


 それからジュリアが膝をついて涙を流し、地面を叩き始めたかと思うと顔を上げてキッとこちらを睨み付ける。


「私だって最初はこんなつもりじゃなかった……でもこいつらを見てると怒りが沸いて来て、いざ誰も周りに居ない状況で抵抗も出来ないこいつらを見ると……どうしようもなかったのよー!」

「ジュリアさん、何故こんな事を?」


 俺はジュリアの肩を優しく抱きながら、諭すように問いかける。

 嗚咽を漏らしながら、ポツリポツリと語り始める。

 どうやら、ジュリアさんはこの村に来る前に、別の町に親子3人で暮らしていたらしいが、ある日魔族の襲撃を受けて両親を殺されたらしい。


「私の両親は魔族に殺されたのよ! 復讐したって良いじゃない!」


 だからってむやみやたらに魔族を殺して良いって事にはならない……

 先に一言俺に相談してくれても良かったじゃなか……

 段々と怒りが沸いてくる。


「馬鹿野郎!」


 パチーン!

 俺はジュリアの頬っぺたを思いっきり叩く。

 それから思いっきり抱きしめる。


「ジュリアさんの気持ちは分からないかもしれない、でもその4人は貴女の両親を殺した魔族ですか?」

「うっ! いや、それは……たぶん……違うかと……」


 そうだろう……ジュリアさんは両親を殺されたと言っていた。

 だが、昨晩カイザルは女と子供は殺すなと言っていた。

 父親を殺されたなら分かるが、両親を殺されたとなるとカイザルでは無いはずだ。

 そして、他の3人も同じように行動をしているはずだ。

 なら、この4人はジュリアさんの両親を殺した魔族とは違うだろう……


「復讐は……復讐しか生まないんだぞ! この4人にだって子供が居るかもしれない……もし、無差別に魔族という理由だけで殺して回ったら……魔族の子供達の中に第2のジュリアさんを生むことになるとは思わなかったのか?」

「はっ! 私ったらなんて大変な事を……」


 ジュリアさんが口を押えて泣き崩れる。


「いや、別に俺独身なんだけど……」

「嫌味ですね……私は今まで彼女が出来た事無いですね」

「うーん、良い人はいっぱい居るけどね……旦那にするとなるとね……」

「僕はもうお嫁に行けない……関係ない……シクシク」


 うっせー! 空気読んで少しは黙ってろ!

 全力の威圧で4人を睨み付けるとガタガタと震えて、目を背ける。


「あっ……」


 ボクッコがいま一瞬ブルッとした気がするが、何も言わないのが優しさだろう……


「すいませんタナカさん……私の考えが浅はかでした……自首します……」

「ああ、次は胸を張ってお天道様に……ご両親に顔向けできるように立派に罪を償ってください……」

「あの……別に4人とも生きてますので、別にそこまでのことでは……」


 そこにババ様が声を掛けてくる。


「ババ様……私を許してくれるのですか?」

「それはもうええっちゅーねん! 取りあえず、委細は分かったでジュリアには後でじっくり話をするとして、この4人の処遇はどうしますか?」


 ババ様が思いっきりジュリアの頭を杖で叩いてから、こっちにお伺いを立ててくる。

 うーん、取りあえず俺としては駒としてこいつら欲しいんだよねー。

 まあ、人間の本性を図る為に取りあえず、この村の人達に処遇を決めさせようと思ってたけど、ジュリアが暴走しちゃったしな……


「うーん、村の皆さんはどうしたいのですか?」


 俺の問いかけに、周囲の人達がザワザワし始める。

 逆に4人の魔族のうち2人は顔を真っ青にして、ブルブルと震えている。

 約1名、ブスっとした奴が居るが……


「殺せ! こんな恥をかかされてまで、生きていくつもりなどないわ!」

「ちょっ! アンダードッグ何を言ってるのですね!」

「死ぬなら、お前1人で死ね!」

「僕は……もうどうでもいいです……」


 早速仲間割れですか?

 というか、あんまり結束力無いのね。


「うーん、一度殺されてるからねー……4人が反省すれば俺は許してやってもいいかも」

「お前何言ってるんだよ! 魔族は殺すべきだろ!」

「そうだよ! こいつらが今まで何してきたか知ってるだろ!」

「だけど、さっきの話じゃないけどこいつらにも家族が居るんだよな?」

「そうだよね……どっちかというとこれは戦争の結果だしな」

「戦争だったら、相手の隊長格を生かしておいてもしょうがないだろう!」

「このままで良いんじゃないか? ここに埋められてたらなんも出来ないだろうし……」

「そうか、これを観光の目玉にするというのもありじゃの……」


 おー、めっちゃ白熱してるね。

 色んな意見があるけど、北の世界みたいに殺せ一辺倒じゃないから、少しは見込みがあるかな。


「わしは! タナカ様に委ねようかと思う!」


 そんな中で一際力強く、良く通る声でババ様が発言する。

 辺りがシーンと静まり帰る。


「そうだな……タナカ様に任せておけば逃げる事も出来ないだろうし……」

「その中で反省して、もし生き方を変えれば……」

「いや、魔族だし……どうせどこ行っても殺されるんだから、ここで殺すのも優しさだろう」


 この発言でまた振り出しに戻る……

 結局結論が出ないまま、夕方までに各々考えて投票して多数決で決めるという事になった。

 その結果は、夜の宴の際に発表するとの事で一時解散する。


「タナカさんごめんなさい……」


 皆がバラバラに帰っていく中、残されたジュリアが俺のところまで歩いて来て頭を下げる。


「いや、両親の敵を討ちたいという気持ちは良く分かるよ。でも、魔族だから……人間だからと種別でくくっていたらいつまでたってもこの戦争は終わらないからね? ましてや魔族を殺したとなると、報復されるのは目に見えてるでしょ? 俺もいつまでもこの村に居ないよ?」


 俺の言葉に、ジュリアがショボーンとなる。

 一時の感情に任せて、結果として魔族の反感を買って支配じゃなく、壊滅させられたらそれこそ立ち直れないだろうしね。

 こいつもしかして北の世界から来たんじゃないのかってくらいに、頭が悪いな。


「それと、謝るのは俺にじゃないだろ?」


 俺がそう言うと、ジュリアが嫌そうながらも4人のところに行って頭を下げる。


「すいませんでした」

「いや、戦争だからな……殺す殺されるってのは当たり前だ……殺された事を恨んだりはしないよ」

「私は許さないね! でも、お前の両親は私達に殺されたのだろう? ならお前も気に病むな! お前も私達の事を許さなくても良い」

「痛かったのですね! ひとおもいにサクッと首を刎ねて欲しかったですね! どんな拷問ですか? 1cmずつ切っていくとか! 酷いのですね」

「すいません……非力ですいません……殺そうとしてすいません……本当はカッコよく一太刀で切るつもりでした……硬くて出来ませんでした……すいません……」

「いや、言い過ぎたのですね。そんなに落ち込まれても殺された身としてはなんとも言えないのですね……悪いと思うなら鍛えるのですね」

「はい……」

「僕はどうでも良い……寝てたし……それより、タナカは許さない!」

「なっ! なんで?」


 俺が心外だといった様子でボクッコを見ると5人からジト目を向けられる。

 何故、ジュリアまでそんな目をするんだい?

 取りあえず4人を一旦穴から出して、飯を食わせてからちゃんとトイレに1人ずつ行かせてから再度埋める。


「また埋めるのですね」

「もう逃げないから、普通にして欲しいね」

「くっそ! マジお前嘗めてるだろ! いつか殺す、絶対殺す!」

「僕はもうどうでも良い……ここに来る前に戻りたい……」


 それからジュリアに4人を見張らせて、夕方まで村で暇をつぶす事にする。

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