第5話:凱旋…そして夜襲(調子に乗り過ぎてやらかした…辛い)

 2人を連れて村の仲間で戻ると、すでに中央の広場に人だかりが出来ていた。

 そこには、ババ様と数人の老人が集まっており何やら相談をしている。

 ちなみに、ヒューイとジュリアは俺から少し距離を置いてブツブツ呟いているが、当分戻って来ないだろうな。


「これはタナカ様」


 俺に気付いたババ様が駆け寄って来る。

 といっても老人の駆け足だ、こっちから近付いた方が早い。

 取り囲む人たちからどよめきが起きる。


「ああ、魔物は全て殲滅しましたよ。残りはそこに居る魔族だけですね」


 俺がそう言うと、ババ様が言葉を失う。


「まさか! まだ1刻も経っていないというのに」

「俺からしたら、これでもゆっくりだった方ですけどね」


 これは事実だ。

 この程度の塵芥の集まりなど、俺の使える魔法でもちょっと強めのを使えば1秒あれば掃除出来るからね。

 文字通り俺の【ヘルファイア】なら、東京ドーム一個分の範囲に渡って生物を消滅出来るし。


「貴方は一体何者なのですか?」


 ババ様の目には、怯えの色も混じっている。

 あー、ちょっとやり過ぎちゃったパターンだったかな?

 まあいいや。


「大魔王を屠る為にこの世界に来たモノとでも言えばいいですかね?」

「だっ……」


 とうとうババ様が押し黙ってしまった。


「なに、そのついでに救えるものも救って行こうとは思ってますし、この世界の人の味方ですよ?」


 今はねと心の中に付け加える。

 まだ、この世界の人間全てを知った訳ではないし、人間の動きを見てから考えてもいいかな。

 俺としては、魔族も人も全て等しく救いたいという高い目標があるしね。


「ではタナカ様は北の魔王を討伐されて、こちらに来られた勇者様ですか?」


 ババ様の質問は当たらずも遠からずといった線をいっている。

 根本が違うけどね。

 勇者じゃなくて元魔王だし……


「まあ、そんなとこかな? でも北の世界の魔物や魔族はここと違っていたずらに人間を害する事無かったし、どちらかというと人間の方が積極的に魔族を攻めてたからね。今はあっちは共存に向けて、活動しているはずだけどね」

「魔族と共存! 馬鹿な!」

「こんな野蛮な生き物と共に暮らすなど、出来るはずもなし」

「ふんっ、北の世界の魔族や魔物なんて、ここと比べたらさぞや可愛いもんなんだろうな」


 魔族を庇う発言に対して、周囲の群衆からヤジが飛ぶ。

 まあ、当然だろうね。

 種族が違えば考えも違うし、まして姿形が全く違う訳だからそれは受け入れがたい事なんだろうね。


「静まれ! それでタナカ様はこれからどうなさるおつもりで?」


 ババ様が周囲を牽制しつつ、質問を続ける。

 どう答えるのがベストかな?

 取りあえずは人間を隠れ蓑に少しずつ中野を追い詰めたいから、今は好感度が上がりそうな答えが正解だろうな。


「この世界の魔族の支配下にある町や村を解放しつつ、大魔王の戦力を削いでいこうかと」


 俺の言葉にババ様が、ホッと溜息を吐く。

 少しは安心したようだ。

 確かに理解を越えた力を持つよく知らない人、それも異世界の人間となると多少は警戒するだろうしな。

 仮に大魔王を倒したところで、その後に実は俺が北の世界の回し者で、今度は北の世界の人の支配下に置かれましたじゃ納得しないだろうしね。


「それと、これは俺の単独行動ですよ。俺の行動に北の世界は関与してませんから」


 そう付け加える事で、ババ様があからさまに安堵の表情を浮かべる。

 だが、それでも俺という得体の知れない人間を、完全に信用した訳ではなさそうだ。

 確かに、魔族が闊歩するこの世界で、貧窮を強いられれば疑心暗鬼に陥るのも無理はないだろう。

 なにより、貧しい環境は心まで貧しくするからな。

 でも、悪くない警戒心だとは思う。

 その点、北の世界の人間はつくづく馬鹿過ぎるだろうとも思えるが、いま思えば可愛いものである。


「それを聞いて安心しました。皆の衆、もう夜も遅い! この魔族の始末はタナカ様にお任せして、今日は休め」


 それから、ババ様が周囲の人間に対して帰るように促す。

 何人かは興奮冷めやらぬといった感じで、こっちに話しかけたそうに、名残惜しそうにしているが、1人、また1人とその場から去っていく。


「タナカ様、申し訳ありませぬがもう少し滞在して頂けませぬか? 皆の衆には明日詳しい話をして、宴を開かせて頂こうかと」


 宴か……悪くないな。

 そんなに急ぐ旅でも無いが、100人衆とやらを1人ずつ相手にするのも面倒くさいから、一度どっかの拠点を襲い行こうかとも思っていたとこだしな。

 その宴を利用して情報を集めるのも悪くないだろう。


「それで、そこな魔族はどうしたらよいかと」

「ああ、あいつなら絶対にそこから逃げ出せないので、明日の宴で皆さんの意向をお伺いしてから対処しますよ」


 俺がそう言うと、ババ様はうむと頷いてそれから俺の後ろの二人に目をやる。


「お主らからは、詳しい話を聞きたかったのじゃが……むりそうじゃのう」


 1人は目を輝かせながら、もう1人は遠くを見つめながらブツブツと放心状態で呟いているのを見て、ババ様が首を振る。

 2人には刺激が強すぎたかもしれない。


「でしたら、それはまた明日の宴の前に、そうですね今から休んで目が覚めたらご自宅に寄らせていただきますよ」


 朝には自信が無いが、これだけ暴れたんだ……少々遅くても大目に見てくれるだろう。

 ババ様もそれでいいのか、ようやく安心したらしくホッホと笑いながら頷いて快諾してくれる。


「それは、おやすみなさい」

「ええ、本当に有難うございました」


 それから、別れの言葉を交わしてそれぞれ別々に歩き出す。

 ちなみに、2人は俺が送り届けると伝えてある。


「ねえ、タナカさんはどうしてそんなに強いんですか?」


 ババ様の姿が完全に見えなくなると、ジュリアが声を掛けてくる。

 ヒューイも頷いている。


「ん~、ほらこの髪とこの瞳のせいとしか言えないかな?」

「でも、それは魔力の象徴であって、剣や体術まで才能があるとは……」


 ヒューイの言葉の意味も良く分かる。

 ちょっとカッコつけたくて、剣でバシバシ戦ってたしね。

 実は魔人だから、身体能力も人間と比べて遥かに高い上に、転生者補正が掛かってるとは言えないしな。


「魔力ってさ、色々なものに転換できるんだぜ? 目に纏えば動体視力や、視野の拡大、さらには透視の力を授けてくれるし、肉体に纏えば筋力の強化、さらには武器を覆う事で武器能力の強化が出来るってのは割と知られてるよね?」


 俺の言葉にヒューイが頷く。

 ジュリアはそうなの? といった表情でヒューイを見上げているが、お前は少しは色々な事を勉強した方が良いんじゃないか?


「さらに相手の魔力の流れを呼んで相手の大まかな行動を予測したり、魔物や低級な魔族程度なら思考を読み取っての行動予測、さらに思考誘導を使う事で行動予知にまで高める事が出来る。あとはそこに攻撃を加えるだけさ」

「す……凄いですね! ステータス全補正に、魔力感知、思考解析に、思考誘導……同時に4つの行動を組み合わせて、いや攻撃も合わせて5つつの行動を同時に……それなら納得です」

「う……うん、タナカさんなら魔力かん……? しこ……? ゆ……うんうん、それに攻撃とかタナカさんならそれくらい出来そうだよね!」


 分からないなら無理に話を合わせなくてもええんやで?

 攻撃以外まともに言えてないから、俺が攻撃しか出来ない人みたいになってるぞ。


「取りあえず、今日は有難うございました! ジュリアは自分が送っていくんで、今日はゆっくり休んでってください」

「ああ、少し疲れたしな」

「本当ですか?」


 俺の言葉にジュリアが悪戯っぽく問いかけてくるが、正直お前の相手に疲れただけで先の戦いには全く疲労など感じてないけどな。

 にしても男見せたな! よし、ヒューイ頑張れよ! ……(リア充爆ぜろ!)

 それから2人とも別れて、私の宿に戻り自分の部屋でくつろぐ。

 ウララの奴はちゃっかりベッドのど真ん中で、大の字になってやがったから端っこに寄せて自分に洗浄の魔法を掛けてから眠る。


***

 3時間後……魔族の気配を感じ取り俺は目を覚ます。


「来たか……」


 上空から4体の魔族が接近してくるのを感じる。

 まあ、仲間がやられたとあったら様子を見に来るのは当然だな。

 すぐに上空に転移する。

 遠くから、4体の魔族がこちらに向かってくるのが見える。


 烏と、梟、あとは悪魔型の魔族か。


「なあ、なんで俺も呼ばれたん? 俺鳥目やから夜見えないんやけど」

「知るかよ! バカイザルがドジ踏んじまったから暇なやつ見て来いって言われただけだしね。まあ、お前黒いし夜の隠密に丁度いいじゃんね?」

「本当に、青さんって人使い荒いよね? 僕もう酒飲んじゃってあとは寝るだけだったのに」

「お前ら無駄口叩くな! 同じ100人衆の1人がやられてるんだぞ? それに……」


 こいつら、隠密の意味知ってるかな?

 こんだけ大声で喋りながらここまで来たのか?

 それに鳥目の隠密とか、役に立たなさすぎだろ。

 おっと、気付かれたか。


「あいつがカイザルをやった奴か?」

「こんなただの人間にやられるとか、カイザルも気を抜きすぎだね」

「僕は空を飛ぶ人間をただの人間とは思わないよ?」

「ああ、ボクッコの言う通りだ、こいつをただの人間だと思った時点でお前もカイザルと同類だな……」


 1人偉そうな奴がいるから、まずはこいつからドーン!

 俺は、いきなり無言で一番偉そうなやつをカイザルの隣に転移させて、同じように魔力吸収付与付きアダマンタイトの地面に突っ込む。

 カイザルが横を見て驚きに目を見開いているが、逆に横に並べられた魔族は何が起こったか分からずにキョロキョロしてる。

 ウケる……あんだけ偉そうな事、言ってて真っ先にリタイアとかマジだせぇ!

 なんで、こいつからかって? ただの嫌がらせだよ!


「どうも初めまして……タナカです」


 俺がそう言って残った3人に目を向けると……あれ?めっちゃこっち無視してキョロキョロしてる。


「あれ? アンダードッグさんは?」

「えっ? 俺鳥目やから分からんよ? ネネ見てない?」

「急に隣から消えましたね……」


 あー、俺よりアンダードッグとかって奴の方が気になるよね?

 そりゃ、喋ってて急に消えちゃったらね……でも、俺ってほら容赦無いからさ、隙見せちゃうとドーン!

 次は、取りあえずボクッコって呼ばれて奴を転移で、先に地面に埋め込んでる2人の横に並べる。

 首塚状態になってきたブフッ! やべー、笑える……どうしよう……残った2人が若干怯え始めてるし。


「ボクッコ? ボクッコも消えたね!」

「えっ、ネネ! 詳しい話聞かせてや! 俺見えんからマジ怖いんだけど? 気配しか分からんし、目の前に敵いるんやろ?」

「ああ、クロウ……あいつの仕業で…………」


 ついでにドーン! とネネも横に埋めとく。

 あっという間に、100人衆4人捕まえたった。

 あと1人は逃がしてあげよっかな? 俺優しいし。


「あれネネ? あっ……ネネまで……どうしよ……俺鳥目やからなんも見えんけど、これはヤバいってのだけは分かる。見えなくても分かる」

「さてと、初めましてカラスさん」

「うわぁ……めっちゃ静かに話しかけられてる。けど俺どうにもできんわ。他の3人が手も足も出んかったのに鳥目の俺がどうしろっちゅーねん!」

「おーい?」

「あっ、はいはい……すいません、いまちょっと目が見えないんで気配で大体の位置分かりますけど、ちょっと変なとこ向くかもですが、初めまして」


 めっちゃ混乱してて、普通に初めて会った人同士の余所余所しい会話してきてるわコイツ。

 ちょっと面白いかも……でも気配で場所が分かるのか。

 だったら


『カラスさんはどうされます? 戦いますか?』

「うわぁ! メッチャ増えた! 何人おるん自分? 無理やろ? 嬲り殺し? リンチ? やめてーや!」


 メッチャ焦ってる。

 取りあえず、分身30人作って囲んでみたけど、めっちゃ焦ってる。

 鳥目で見えないはずの目を羽で覆って、ビビってるけど元から見えてないし、その現実逃避敵の攻撃喰らいたい放題やん。


「なーんちゃって。うそうそ、逃がしてやるからさ……取りあえずこっから制圧していくから、服従か降伏か選べって言っといて?」

「それ、どっちも同じですやん……」


 おお、突っ込んでくるとは余裕だなクロウ!

 だが、そんな余裕を見せると……


『選択肢は無いって事だよ!HAHAHAHAHA!』

「ちょっと、増えんとってって! てか、集団で取り囲んで笑わんで! いま俺、めっちゃ聴覚敏感やねん……しかも微妙にズレててエコーみたいで気持ち悪い……」

『『それはごめんねHAHAHAHAHAH!』』

「おおい! 増えてる! さっきより増えてるから! 分かった! 伝えるから! 伝えるからやめたって!」


 必死だな……

 大粒の涙こぼしながら、懇願してくる様を見てるとちょっと可哀想になって来たわ。

 でも、それ以上にO・MO・SHI・RO・I!

 やべー、ちょっとSの気を煽らるけど、あんま調子乗ってもね……

 それにこんなところ、誰かに見られたら不審が……ら……れ……る……し?

 ふと下を見ると、何故かジュリアが家から出てこっちを見上げていた。

 さらに、ババ様の家の方でもババ様が外からこっちを見上げてた……

 しまったー! ジュリアは分からんけど、ババ様魔力感知出来るの忘れてたー!

 くっそ、こうなったら……でーい!

 取りあえず、衝撃波を放ってクロウが見えなくなるまで弾き飛ばすと、ゆっくりババ様の元に行く。


「タ……タナカ様?」


 遠くから、ジュリアが走って来る気配も感じる……

 調子に乗り過ぎた……

 それから、1時間掛けて事情を説明してようやく納得してもらえた……はずだ。

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